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  La Cosa Nostra



 心優しいヘタれ。
 年下の恋人を、長くそういう性分だと思っていた。
 本田を甘やかすことにかけては、他の追従を許さないほど本田を大切にしてくれるアドナンに、
 お菊さん。
 アンタらしくもねぇ。
 奴の本質は手前と変わりやせん。
 獣なんですぜぃ? と、
 幾度となく忠告されていたのだが。
 菊の答えは何時だって、
 大丈夫ですよ、サディクさん。
 考えすぎですってば、に終始していた。
 心の底から信じていたのだ。
 彼が、か弱い存在だと。
 甘やかして守ってあげなければならない存在だと疑わなかった。
 だから、初めてそれを目にした時は、白昼夢でも見ているかとまず己の正気に不安を
感じた。
 それぐらいフェリシアーノの変貌は凄まじいものがあったのだ。

 「え?」
 二人で恥ずかしげもなく手を繋ぎ、一つのジェラートを二人で食べるという、若い恋人でも
今日日するだろうかという、年甲斐もなく恋愛に溺れている風合いで、スフォルチェスコ城
周辺の観光をしている時だった。
 肩を強く抱き締められて、そのまま顔を彼の胸に押し付けられた。
 ちょ! と抗議する間もなく、彼の懐。今まで一度も気がつかなかった銃が、抜き出された。
 ベレッタM92。
 世界で広く使われているイタリアが発祥の地となっている単発銃のシリーズの中で、現在。
 最も広く使われているだろう銃器。
 彼が銃器を恐ろしく扱い慣れているのにも驚かされる。
 彼の大戦時であってさえも、ここまで鮮やかに使いこなせてはいなかったはずなのだ。
 ルートヴィッヒと二人。
 彼の銃嫌いについては幾度も話し合ったくらいに長く、手馴れない風情だったと言うのに。
 フェリシアーノは、今。
 本田が知る、伝説の……と謳われる暗殺者達に勝るとも劣らぬ覇気を纏っている。
 すっかり萎縮して硬直している本田の背中を空いた掌で優しく撫ぜてながら、反対側の
指先は軽やかに引き金を引いていた。
 がうんがうんがうんと言う、独特の銃弾が発射される音。
 悲鳴と雑音の中にまぎれた断末魔。
 一人ではない人が、とさとさと静かに倒れ込む。
 鼻をつくのは濃厚な血と、至近距離でしか感じられない硝煙の匂い。
 「ヴェー! ごめん。ジェラート落ちちゃったよ」
 「……はい?」
 何時もとどこも変わらぬ声に地面を見ればフェリシアーノの手の中にあったジェラートが、
無残にも落ちて潰れている。
 「新しいの買わないとねぇ」
 のほほんとした口調に違和感を感じて、恐る恐る顔を上げて彼の表情を伺う。
 「せっかくだから、違う味にしよっか。先刻はプレーンなのにしたから、今度は変り種がいい
  よね。俺のオススメはペッパーチーズのミルフィーユとティラミスだけど……菊は何が
  良い?」
 フェリシアーノは、不自然なくらいに先程と同じ、否。先刻よりも優しく甘く、穏やかな風情
だ。
 「あの、フェリシア?」
 「んー? お気に召さなかった? やっぱり菊にはもっとさっぱり系の……」
 「私がしたいのは、ジェラートの話ではありませんよ!」
 「ヴェー……」
 しかし、本田が大きな声を出せば、しょーんと肩を落とし、悪い事をした犬が怒られるのを
待つような上目遣いで本田の様子を伺ってくる。
 人指し指を眼の前、ちょんちょんとする仕草に何時もなら、溜め息をついて苦笑する本田も、
さすがに全身の緊張を解けなかった。




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 久しぶりの黒フェリだー!
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                                         まっくろくろすけに!
                                             ……おやぁ?





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