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  驚愕のまま、溺れる



 「あの……アルフレッド?」
 「ん。どーした」
 「身体に力、入らないのですが」
 「ああ。大丈夫。大丈夫。ちょっと弛緩剤使っただけだから。ゆるーい奴だし。副作用もない
  から。何も、心配しなくて良いよ」
 「……と、言われて。心配しない阿呆が何処にいますか!」
 努めてきつい口調で叫んだつもりだったけれども、ジョーンズはにこにこと楽しそうに笑うば
かり。
 そう、これはちょうど。
 小さな子供が新しい玩具を手にした時の微笑だ。
 一体本田がジョーンズの玩具などではなく、同じ意志のある人間なのだと。
 それも格別な関係である恋人同士なのだと。
 何時になったら解って貰えるだろうか。
 「えー。少しは俺を信用してよ。菊の嫌がることはしないじゃん」
 「今、嫌がってるんですけど?」
 珍しく時間がゆったりと流れていた二人きりの空間。
 ジョーンズはパソコンに向かって何やら作業をしていて、本田はジョーンズが本田の為にと
購入した籐で出来た繊細な造りの揺り椅子に身を任せながら、本を読んでいたのだ。
 喉が渇いただろう?と渡されたコーヒーを二口ほど、口に含んで数分後にこの様。
 ブラックで飲んだのならば、気がついたのかもしれないが、本田は砂糖もミルクもたっぷり派。
 例え味がついている薬でも気がつけなかっただろうけれど。
 まさか、こんな穏やかな時間をぶち壊すような真似をするとは思わなかった。
 「嫌がるのは菊のデフォルトだかんなぁ。最後は、『イイっつ。もっとっつ!』って、オネダリ
  するじゃん」
 「お願いしないと、終わらせてくれない、貴方でしょうに」
 思うようは動かなくなってしまった、唇の端を力込めてゆっくり引き上げる。
 怖い顔だと言って、ジョーンズが嫌う顔。
 しかし今、ジョーンズの微笑が曇ることはない。
 「俺だって菊が、もっと欲しがってくれれば、こんな真似しないよ!何時だって欲しがるのは
  俺の方。オネダリだって俺の方。こんなに菊がイイようにしてるのに、俺がしたい事。ちっと
  もやらせてくれないし」
 「……貴方がしたいコトが、アブノーマル過ぎるのですよ」
 基本的に求められれば、嬉しい。
 ジョーンズが望むように大仰には喜べなくとも。
 他の人間から見れば破格の許容で彼を受け入れているというのに。
 かなりの年上だという負い目がある。
 こんな若い存在相手に、己を忘れるような無様なアレコレなど、して堪るか!という、矜持も
あった。
 その癖。
 いい年して溺れているが故の、甘えも…ある、かもしれない。
 結果的にオネダリの大半を聞いているのだから。
 少しぐらいプライドを尊重して欲しいと思うのだけれど。
 口にすら出して重ねてもいるのだが。
 若さは勿論、性格も起因するのだろう。
 もっともっと!菊から欲しがって、何もかもを許せ!と言い続けるのを止めなかった。
 「愛する恋人と色々なSEXをしてみたいってー思考の、どこがアブノーマル?猟奇的なコト
  はしてないだろう」
 「君にとってのアブノーマルは、イコール、猟奇ですか?その時点で間違っているでしょうに」
 多少なりともアクロバティックな体位を強要される程度でなら、本田も文句は言わない。
 ジョーンズと付き合う随分と前に、四十八手は全部お試し済。
 男色礼賛とまではいかなくとも、それが粋だと言われていた時分もあった。
 そこそこの経験は積んでいる。
 最初の頃はさて置き。
 本田はジョーンズが想像していた以上に、経験豊富だと認識されたらしい。
 本田の許容内だった性行為から、著しくかけ離れ出したのは、ここ数ヶ月ぐらいの出来事
なのだ。
 その僅か数ヶ月の間に忙しい間を縫って、よくもまぁ仕出かしてくれたものだと、思い出しては
深い溜息しかでやしない。
 頻度と一度の回数が愛情だと言うのならば、本田はジョーンズにこの上もなく愛されている
だろう。
 けれど本田の考える愛情を計る点は、ただの一点。
 どれだけ、相手を尊重できるかに限っている。
 幾ら頻度も高く回数が多くとも、本田の意思が尊重されない以上、愛には遠い。
 元々性に関するあれこれは、当人同士の秘め事だと思っている。
 他人に話すのも躊躇ってから、勿論自ら率先して話したりなどはしない。
 相談されるならばまだしも、するなんて以ての外……だったのだが。
 誰かに相談した方が良いのかもしれないと、さすがに考え出した頃にはもう手遅れだった。
 ジョーンズが今、嵌っている事は、拡張。なのだ。
 その行為の意味する所を知らなかった訳じゃないが、された事はなかった。
 知識と実践の間には恐ろしい隔たりがあるのだと、いざこの身になされた時にわかってしまっ
た。
 一生わかりたくなどはなかったが。
 人の身体は、簡単に壊れるように見えて、早々壊れはしない。
 人の心は、もっと脆く見えるが、そうでもないのだ。
 「そっか?俺は相手が菊なら、猟奇も歓迎するぜ。アブノーマルセックス大歓迎だ」
 「勘弁して下さい!そもそも話がずれてますっ!」
 しかし、どんな薬なのだろう?
 身体が弛緩するだけで、意識はこれ以上ないくらいに明瞭なのだ。
 むしろ過敏な傾向にあるといってもいい。
 それこそ、これからなされる事を考えれば、良さに、狂ってしまえるのではないかと危惧する
ほどに。
 「ずれてないって。俺はこれから、アブノーマルでもなく猟奇でもない。愛あるSEXを菊とする
  んだから」
 「ですからっつ!拡張は、もう、嫌なんです」
 「どーして?何でも一気にやっちまうこの俺が、それはもう時間かけて、丁寧に拡張してき
 たってーのに。最後の締めがお預けなんて。どんな放置プレイだよ」
 ふぅ、とワザとらしく深い溜息をついて腕を組む。
 驚くほどの威圧感に、抵抗する気が削がれるが、それでも人間。
 越えさせてはいけない一線、というものがある。
 「ここまでは、我慢。できましたけど。これ以上は、だいたい無理です……薬なんて、使って。
  四六時中垂れ流すような身体になったら、どう責任を取ってくれるんです?」
 汚い話ではあるが、行為の後は締りが緩くなって幾度か漏らしてしまった事があるのだ。
 羞恥と居た堪れなさに気が狂ったかと思った。
 今は、行為のすぐ後ぐらいにしか漏れはしないが。
 さすがにフィストファックなどをした日には、悪化するのは目に見えている。
 こんな理由で常時おむつをするような生活になるなんて、想像しただけで吐き気がした。
 「いいねぇ。そうなったら、首輪して常時おむつ姿で俺の家、飼ってやるよ」
 「アルフレッド!」
 「俺は、どんな姿の菊でも愛せるからいいんだ。別に。むしろ、歓迎だな」




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