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 「……あああっつ…う、っつ…ふ、くんっ……」
 私の手の中で、綺麗にうねる背中。
 「あ、あ、あっつ」
 小さな黒子が二つ。
 私がつけた、キスマークが五つ。
 背中にキスマークは普通つかないと思うが、ロイさんは肌が白く、やわいので難しくはなかっ
た。
 「も、う。いい加減……にっつ!つ、はっつ……お、われっつ」
 ぎゅうぎゅうと我武者羅に締め付けて、もっと奥まで誘い込もうとする中と裏腹に。
 俺の大切なロイさんの声は、何処までも冷たい。
 「まだ、無理ですよ?」
 「くっそ…長くすれば……いいって、もんじゃああああっつ」
 腰を抱え込んで、何度目か解らないキスを背中に落とす。
 全身性感帯と化しているロイさんは、ちょっと違う愛撫を施すと、こうして極まった声を上げる。
 「イイ、声。もっとたくさん。聞かせて下さいね」
 「……とに?」
 「何ですか?」
 「本当に、防音、されてるんだろう……な…」
 「ええ、勿論。だって私、こんなロイさんのイイ声。自分以外の誰にも聞かせるの、冗談じゃ
  ないですから」
 「……外に…漏れて、ないなら……い、い」
 少佐ともなれば外に立つ見張りの兵は、必ず二人つく。
 ましてや、戦力を期待されている国家錬金術師のテントとなれば、間違いなく。
 その、逃亡を兼ねて。
 見張りというよりは、屈強の監視がついた。
 最も、私やロイさんが本気になれば、こんな監視。
 紙一枚よりも役に立たないけれども。
 まぁ、それで。
 私とロイさんを同じテントに収容してくれるというのならば、放置してやってもいい。
 ロイさんは気にしているけれど、こんな奴等。
 所詮は軍の犬なのに。
 人ではないのに。
 例えロイさんのイイ声を聞いたって、反応する神経も心も既に欠落してしまって久しいはず。
 本当の犬とは、そういうものだ。
 「……ロイさん?」
 「……なんだ」
 「早く、終わって欲しいですか」
 「当然だ!」
 「……ですよね。でも、これは、ロイさんの為なんですよ?ロイさんが、正気でいる為にする
  治療なんですよ?」
 「……ってる!」
 わかってる、と搾り出されるような声。
 自分が狂わない方法が他にあったのならば、絶対に選ばなかったと鉄の意志が伝わってく
る。
 「私を指名したのも、ロイさんです。ロイさんが私じゃなければ、駄目って言ってくれたんです
 から……忘れないで…」
 返事はない。
 忘れないからこそ、こうして嫌々とはいえ私に身体を開くのだ。
 毎日毎日。
 夜の決まった時間になれば、必ず。
 己の正気を保つ為に、この世に存在する全ての中で、一番嫌いな人間に身体を好きにさせ
ている。
 もう、何ヶ月。
 私はこの蜜月に浸りきっているのだろう。
 そしてロイさんは、何時まで私とのSEXで正気を保っていてくれるのだろう。

 永遠に続けばいいのにと願うが、蜜月はそんなに長くはないだろう。
 先頃、私と一緒にロイさんの病を治療するノックス医師が、マルコー医師から聞いたのだと、
伝えて寄越した。
 終戦が近いのだと。
 イシュヴァールの民の象徴とも言われるべき人物が、自ら投降したというのだ。
 己の一命つで、民全ての命を贖おうとする愚かさは鼻につくが、自らの命を捨てる潔さは評価
してもいいだろう。
 最も、大総統閣下に、そんな生温い犠牲心が通じるとも思えないが。
 イシュヴァールの生神と呼ばれる人物が手に落ちたとわかれば、最後の一人が朽ち果てる
まで徹底抗戦を考えていた民達も降服せざる得ない。
 それだけの存在なのだ。
 大総統は完全なる殲滅を望んでいるらしいが、さすがに実行するのは難しい。
 最終兵器として投入した国家錬金術師の消耗も激しいし、金銭的人的な被害も甚大だ。
 そろそろ潮時だと、そんな見解が軍上層部を占めていると。
 そういう、話を。
 『残念だったな、紅蓮』
 と、皮肉めいた微笑を浮かべたノックス医師は、私と違った意味でロイさんに執着している。
 私が一番憎い存在として、側に侍るのを許されているのだとしたら、ノックス医師はその真逆。
 一番安心できる存在として、ロイさんの心と身体を守る事を許されているのだ。
 羨ましいと心底の思う私の行動が、ついロイさんに無茶をしいたらしい。
 「ん、あっつ。まだっつ、まだっつ終わらない、のかっつ」
 憎憎しげな、しかしどこか甘い罵声が届いた。
 「まだです。ロイさんが、中でイくまで。終わりません」
 「そんなの、無理だって。何時も言ってるだろっつ」
 せめて、戦いが集結する前に、そこまで私に馴染んで欲しいのだけれども。
 中でイきそうになると、ロイさんは失神してしまうのだ。
 感じ易いののもあるだろう。
 私が相手だというのもあるに違いない。
 今だ一度も、中でイってはくれなかった。
 きっと、私の願いは叶わない。
 ただ、ロイさんをずっと永遠に。
 私の腕の中に抱き込んでいたいだけなのに。
 それだけなのに。
 砂漠では縁遠いはずの、水音が接合部分から響いて耳を擽る。
 私が吐き出した精液を中和するくらいに、ロイさんの吐き出す蜜は、とろりと甘い。
 すっかり覚えてしまった前立腺の辺りを集中して突き上げながら、嬌声を噛み殺して、何時
だって血が滲む唇を軽く食む。
 噛み締めるよりはキスをする方が、気が散って悲鳴を零さなくてすむと経験上知っているロ
イさんは、すぐさま熱烈なディープキスを返してくれた。
 途切れない突き上げのリズムに合わせて、舌がびくびくと痙攣するのが、また、堪らなかっ
た。

 ロイさんは、絶対。
 この戦争が終われば、私との関係なぞ綺麗さっぱり忘れて、日常の中に戻ってゆくのだろう。
 戦場限定の病を、日常にまで引きずりはしない。
 強い、人なのだ。
 しかし、私は絶対。
 この戦争が終わっても、ロイさんを抱き続けていられた時間を思い出しながら、非日常を行く。
 私のかかった病は恋の病。
 治療法は恋の成就のみ。
 ロイさんが、私をそういった意味で受け容れる事はないので。
 私の病は不治の病なのだ。

 いっそ、死ねたらいいのにと思ったりもした。
 想いが叶わないならば尚の事。
 しかしこれは。
 死に至る事の許されない、病なのだ。

 「……も……やっつ……ぐれ、ん……のぉ……」
 私の名を呼んで、果てもせず限界に崩れた身体は、私の腕の中に納まってくれるけれど。
 それだけだ。
 心は遠く、どこかへ行ってしまって。
 私の手元には居ついてくれない。
 いっそ、殺してしまえば永遠に自分だけのモノになると、そんなことまで考える。
 しかし。
 殺せないほどには、イトオシイ。
 
 「本当に、やっかいな病ですよね」
 何が一番困るかといえば。
 別に病に侵されたままでも。
 良いかと、思える最近の自分。

 手放す気なぞない。
 どんな事をしてでも、縁は繋いで置く。
 その為の伏線も敷いてある。
 だから別に病んだままでも良い。
 良いと、思うのだけれど。
 何時か恋が成就して。
 病が治る日が来るのではないかと、心の中。
 甘く、望んでしまう自分がいる。





                                        END




 *うちのキン様はどうしたって、ここまでロイにめろるのか。
  なんてーかこう、無いものねだりが強い人なのかなぁと思ってもみたり。
  絶対悪のキン様にどうしても惹かれるロイとかも書きたいっスね。





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