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 自分の爆発が生む炎が一番好きだった。
 けれど、マスタングが造る焔は、なぜか私の炎よりも暖かく見えた。
 それが、好きな訳でなくただ気になったのが切っ掛けになったのかもしれない

 今、私が一番好きな焔は、ロイの目に宿る灼熱の輝き。

 「ぐれんっつ。お前っつ、加減、しろっつ!」
 この物資不足ブッ千切りの最前線で、SEXの度にジェルを手配する苦労がどれ程のもの
かなんて、貴方、わからないんでしょうね?
 そーゆーとこ、変に疎いから。
 「してるじゃないですか。こんなにジェル、いっぱい使って。貴方のここ、女よりぬるぬるさ
  んですよ」
 「女性とっつ、比べるなっつ」
 「はいはい。本当に貴方は女王様ですよねぇ」
 「どこがだ!」
 「全部が全部。私に命令できて、しかもそれが私の意に沿わぬ命令と来た日にはね。生き
  ている奇跡なんて貴方だけなんですから」
 殲滅なら喜んで?
 残虐だって、苦ではないですよ?
 今は、戦争。
 好きなだけ、好きなように人が殺せる。
 私にとっての天国。
 だから、それを咎める人間は本来全て地獄送りなのだ。
 余計な手加減をするから敵が牙を向くのだと、何故気が付かない。
 一辺の良心の欠片もない殲滅をし続ければ、敵とて沈黙するものなのだ。
 情けをかけるからつけあがるのだと、どうして理解できないのか。
 「味方は殺すな、と言った」
 「はいはい。約束ですからね。我侭な上官のお話も謹んで拝聴してますよ」

 実力もないのに、ただ俺に命令するしかできないのに。
 出っ張った腹を突き出して、鷹揚に言い放つ上官殿。
 階級は、准将。
 俺が何を言われても、歯牙にもかけないもんだから奴。
 よりによってマスタングの悪口を言いやがった。
 『あの、化け物』
 と。
 俺が何より誰より愛してやまない、マスタングを侮辱しやがったもんだから、もう。
 化け物が、人を殺すのに、悲しむか?
 化け物が、俺に手を差し伸べるか?
 化け物が、あんなにも、清楚でたまるかってんだ!
 そいつを直接殺せば、マスタングにまで被害が及びそうだったから、やったのさ。
 マスタングを痛めつける言葉を吐き続ける最中に、奴のお気に入りの文官の腹を吹き飛
ばしてやった。
 毎晩犯しまくってた相手の、内臓を顔面にべっちゃりと浴びても、狂わなかったのは、まー
一応准将ってなもんなんだろうな。
 文句を重ねようとした口を封じるように、言ってやった。
 『閣下がマスタング少佐を侮辱されるのは仕方ないことですが、その部下までマスタング少佐
 を侮辱することは許されません。上官侮辱罪は、死刑。違いましたかね、准将?』
 俺がどれだけ、マスタングを大事にしているか、やっと気が付いた馬鹿は。
 以降、殲滅の命令だけを下すようになった。
 飛ばされるかと思ったが、殲滅に多大な成果を上げている俺を飛ばすのは自分の出世に関
わると思ったのだろう。
 つくづく、救いようがない阿呆だ。
 「上官、以外もだっつ!」
 「もーどうしてそう、我侭さんなんです?使えない部下に足引っ張られて死にそうになったら、
  切り捨てるのなんて定石じゃないですか」
 やれやれと、マスタングの奥をぐりぐりと抉ってやりながら見下ろせば、喘ぎながらも、懇願
は続く。
 「使えない下士官でも、だっつ!それを上手く、使ってやるのが上官だろう?」
 どうせなら、もっと違うオネダリをしてくれればいいのにねぇ?
 こんな時まで、お仕事の話をしたがるなんて。
 本当に、困った人だ。
 「最近、私が無駄に殺したって話、聞きますか?」
 「……聞かない」
 「一応、貴方の顔を立てて聞いているんですよ」
 「私の顔は関係ないだろう」
 「ありますよ。だって貴方、私の恋人じゃないですか」
 情欲に揺れていた瞳に、私の大好きな焔が宿った。
 「恋人じゃないと何時も、言ってるだろうがっつ!」
 「ホント、素直じゃない」
 「紅蓮っつ!」
 「いいじゃないです?どうせ、貴方は先へ行ってしまう。私はここへ止まるしかないのだか
 ら……」
 狂った戦場でしか生きられないのを自分でも良く知っている。
 貴方には、いわゆる軍人として輝かしい未来が待っていて。
 私には、追うすべも無い。
 イシュヴァールだけが私の楽園なのだ。
 「お前より、先に、死ぬもんかっつ!」
 「あれ?そっちの逝くに、いきましたか?……そうじゃないんですけどね。大丈夫。貴方一人
  で逝かせませんよ。皆道連れに。勿論私も跡を追いますから」
 貴方の後を追って行けるならば、それが煉獄の焔にまかれる地獄でも一向に構わないの
だけれども。
 「追ってなんか来るなよ!あの世でもお前と一緒なんて、冗談じゃない」
 「じゃあ、この世ではせめて。側に居て下さい、ね」

 本来なら、私の側に居る人じゃない。
 ましてや、こうして。
 悪態をつきながらも、素直に抱かれてくれる人じゃない。
 だって、この人が男嫌いなのすごーく有名だったし。
 俺と寝るまで、男知らなかったんだから。
 口と身体で丸め込めてしまった、初めての夜。
 震えるマスタングより緊張していた私。
 それがもう、どれだけの奇跡だったなのかなんて、わかりきっているのだ。
 「どうせ……今、しか…側にはいて、くれないでしょう?」
 「……紅蓮?」
 私の声に何を見出したのか、マスタングの悪態が不意に止む。
 「ねぇ……ロイさん……」
 太ももを担ぎ上げて、尻を好いように上げさせて、繋がっている無茶な体勢のまま、私はマ
スタングの胸に、こつんと額をあてる。
 「私、ね。本当に……貴方が好きなんですよ。愛しているんですよ……イトオシイんです
  よ……」
 この未だかつて無い切ない胸の痛みを、恋というのだろう。
 狂った環境でしか、成就しない恋だ。
 長くは続かない、恋だ。
 次の瞬間には、心の底から憎まれる可能性も拭いきれない、恋だ。
 
 それでも、今。
 この人は、私の腕の中にある。

 「らしくないな……紅蓮の」
 背中から滑ってきた指先が、顔を上げろと、顎を摩ってきた。
 私は、恐る恐る顔を上げる。
 ああ、私が誰かに恐れを抱く日が来るなんて!
 考えたことなど、一度も無かった。
 「私は、決してお前より先には死なんよ」
 まっ直ぐに私を見る目は、穏やかで。
 焼き尽くす煉獄の焔をいうよりは、全てを再生させる浄化の焔を思わせる、綺麗で鮮烈な
焔を湛えたままで。
 「っつ!」
 「お前みたいな、困った人間を置いては、安心して向こうへ逝けないからな」
 「ほのおっつ、のっつ…」
 「この、関係に何も残す気はなかったけれど…」
 額に唇が届いて、まるで幼子を抱える母親のように私の頭を抱えて。
 「それだけは……約束しよう」
 耳元に、どんな睦言よりも甘く、囁かれた。
 「ロイさん……ロイさんっつ……ろいさんっつ」
 「全く、まさか紅蓮がこんな風だとはなぁ……」
 くすくすと、まるで彼が親友といる時のように、私の腕の中で屈託無く笑う。
 この奇跡の代償に、私は一体何を払えばいいのだろう。
 「さぁ。私達らしく続きをしようか、紅蓮?」
 これ以上、君に溺れる訳にはいかないからねぇ、と困った風に囁かれる。
 私は、マスタングの瞳を食い入るように見詰めながら、ゆったりと腰のうち付けを再開して。
 マスタングの瞳が甘く蕩けて、私を見なくなるまで動き続けた。

 頭の中では、穏やかな焔を孕むマスタングの瞳と。
 優しい約束を紡ぐ声だけが、ずっと響いている。

 私が死ぬまで、約束が果たされるその日まで。
 呪縛にも似た音域は、永く響き続けるだろう。 




                                              END




 *どーしても、キンブリーに『ロイさん』と言わせたいらしい。
  困ったものです。
  何だか、書きたかったものとかけ離れてしまった気がするのですが。
  うぬー。
  ロイたんをマリアにしてどうするよ!
  キンブリーはもっと悪がいいんだよぅ。
  うわーん。





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