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  完璧だろ?



 
「……あの、な。菊」
 「なんです?」
 「まだ、終わらないのか」
 「……ご覧の通りです」
 修羅場は既に最終戦。
 真剣に集中して戦えば、後数時間。
 そう、数時間を我慢さえしてくれれば、構ってもあげられるのに。
 「そうか……その、紅茶でも淹れようか?」
 「結構です!」
 冷たい本田の物言いに慣れぬカークランドが、唇を噛み締めて、しゅんと落ち込んでしまっ
た。
 フェリシアーノはそんなカークランドを同情の目を見詰め、ルートヴィッヒは、恋人に対する
余りにも邪険な対応に、本田に向かって眉根を顰めて見せ、バイルシュミットは、我関せずと
いった風情でけせせと笑っている。
 「……静かに、してるから。側に居たら駄目か?」
 本田の機嫌をこれ以上損ねぬよう言葉を選んで、そうっと囁かれた言葉をも。
 「駄目です。邪魔です。気が散ります」
 冷たく突き放さざる得ない。
 だって、今やっている原稿は、俗に言うフラアサ。
 カークランドとて、恋人が描いている、自分が受けの濡れ場など見たくもあるまい。
 これがせめて他のカップリングだったのならば、同席も考えるのだが。
 と、言うか他カプならむしろ、率先して手伝って貰っている。
 時間こそかかるが、カークランドの仕事は神経質なまでに丁寧だ。
 所謂見せ場の修正をお願いして置けば、本田が手がけるよりも凝ったものを描いてくれる。
 恋人の特殊な趣味を理解して、手伝ってくれる貴重な恋人を、悲しませたくないのだけれど。
 「……菊?」
 深い溜息をつくカークランドは、明らかに怯えている。
 時々この人は、びっくりするぐらいに愛されていないのだと、思い込む癖があるのだ。
 何時もなら手伝っているのに、今回ばかりが何故弾かれるのかわかっていないカークラン
ドに、はっきりと理由を告げた方が良いとわかっていても、羞恥が邪魔をしてできない。
 また、カークランドが機嫌を損ねたら、浮上させるのが大変なのだ。
 「……師匠。お願いしても宜しいですか」
 「しゃーねーなぁ。仕方ねぇから、俺が坊ちゃんの世話しといてやるよ。おら! 来いよ」
 頭を下げる本田の頭を軽く撫ぜてから、バイルシュミットがカークランドの手首を引っ張る。
 「何が坊ちゃんだ! 坊ちゃんってーのは、お前の弟と仲良しの、お貴族様みてーなのを
  言うんだろっつ!」
 しかし、カークランドはバイルシュミットの拘束から抜けようと暴れた。
 不憫属性同士と言う訳でもないが、決して二人の仲は悪くない。
 だが他人の目があると、カークランドが目下扱いされるのを嫌がるのだ。
 ルートヴィッヒとジョーンズが同席しているとそれは、一段と顕著になる。
 ジョーンズがいない分今は、幾らかマシという感じ。
 「っるせーな。ローデを坊ちゃん呼びして言いんわぁ、俺様だけなんだって。うら! 駄々
  捏ねると、抱えっぞ!」
 気ままに隠遁生活を送るバイルシュミットだが、騎士として生きてきた時間が長かった
せいもあって、生真面目なルートヴィッヒと二人。
 未だに定期的な鍛錬を欠かさない。 
 似たような体型ならば、より日々の訓練を重ねた方にこそ、軍杯が上がるのだ。
 今の時期は特にガーデニングに勤しんでいるカークランドが、力で叶うはずもなかった。
 ましてや、他の相手にならば効く逃げ足の速さも、それ以上のスピードを誇るバイルシュ
ミット相手では、焼け石に水。
 まさしく売られてゆく子牛のような眼差しを湛えたまま、カークランドはバイルシュミットに
引き摺られて、離れた部屋へと連れられて行った。
 「ヴェー。アーサー可愛そう」
 「……後少しで終わるんだ。あそこまで邪険にしなくてもいいんじゃないのか?」
 「後少しだから! 早く片付けて、ゆっくり構ってあげたいんですよ!」
 「でもな……」「だけどね……」
 「お説教は結構! 今は修羅場です。フェリシアは、背景を! ルトさんはトーン削りに
  勤しんで下さい!」
 はしたないと頭の中では思いつつ、止められないのが修羅場中。
 びしっとペン先で二人を差してから、尻を叩くような口調で言い放つ。
 「そう言うけどさぁ。宮殿、描き飽きたよ」
 「俺も砂漠のトーン削りは飽き飽きだ。大体だなぁ。フラアサなのに、設定がどうしてアラブ
  ものなんだ?」
 「ちょっと前からBLでは、アラブものが流行りなんですよ! 困った時のアラブもの。
  売れない時のアラブもの。忙しい時のアラブもの!」
 ……って言うかね。
 本音は、ハレムで王に溺愛される、闇のオークションで落札されてきた没落貴族っていう
設定を呼んだ時。



                                    続きは本でお願い致します♪
                                   うわーBL描きの菊ですよ(汗)
       ちなみに、アサさんと恋人同士になる前は、普通に男女エロを描いてました。



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