メニューに戻るホームに戻る




  画策



 修羅場中の本田は、何時もカルプシに冷たい。
 本人に言わせると、貴方は格別です。
 何しろ、修羅場中、側に居るのを許すくらいですし、との事だが、どう考えてもやっぱり
素っ気無さ過ぎる。
 「どうして、だろう。ねぇ、ぽち君」
 「きゃわわん!」
 ぽち君もどうやら、本田が心配らしい。
 修羅場の最中は、静かにして下さいね? と本田に言いくるめられているせいだろう。
決して吼えたりはしないが、彼が篭っている部屋の前、蹲って様子を伺っていることは多い。
 「部屋に篭っているのが、好きなんだろうか」
 仲の良いボヌフォワ曰く。
 『菊たんは、物凄く手が早いからねぇ。きちんとスケジュール通りにいけば、修羅場なんて
  経験しないはずなんだよ。本当は』
 との事だ。
 周知の通り本田は真面目で、仕事は期日をきっちり守って仕上げるはずなのに、何故か
趣味の原稿となると勝手が違うらしい。
 何時だって、ぎりぎりまで作業して、倒れ寸前まで自分を追い込んでしまう。
 「部屋に居るのが、嫌になったら。修羅場もしない?」
 ぽち君の背中を撫ぜながら、一人、首を傾げる。
 きゅうんと言う鳴き声がカルプシを心配しているものだったので、慌てて頬擦りをした。
 「部屋に居るのが、嫌になるのは、難しいから……外に出るのが楽しくなるように、すれば
  良い?」
 それはとても、良い案に思えた。
 日本の景色は大変美しい。
 何より四季折々にしか見ることが出来ない、素敵なものが見られる国は少ないのだ。
 その時その時の感動は何時も大切にしたいものですね、と本田も常日頃から言っている。
 「景色と美味しいものと後は……SEX?」
 本田は綺麗な物や可愛い物、美味しい物に目がないが、実は気持ち良い事にも弱い。
 もしかしたら何よりも弱いかもしれない。
 ただ、羞恥が強いので、そうと見せないのだが、カルプシに抱かれる都度、甘い声を散らす
本田を見る度に、そうだよね? と本人に確認もするのだが、なかなか、頷いてはくれなかった。
 「そういうところも、可愛いけど」
 カルプシとしては、もっと奔放に楽しんで欲しい。
 好きならば隠さず、共に喜べれば最高なのに。
 「よし……俺、頑張るから!」
 ぽち君の肉球をふゆふゆしながら、覚悟を決める。
 そんなカルプシの決意が伝わったのか。
 やっぱりぽち君は、尻尾を振りながら、きゃわん! と一声高く鳴いて見せた。

 「……菊?」
 襖越し。
 神様神様神様、後ちょっとなんです。
 もそっとで出来るんです。
 だから、後五分正気を、ギブミー! とか。
 できるんだー。
 やれるんだー。
 俺は天才本田菊―! とか。
 ボヌフォワが居たら、元ネタの解説もしてくれそうなすっ飛んだ言葉を喚いていた本だの声が、
ぴたりと止んだ。
 原稿が仕上がる前なら、どんなことをしてでも起こしてくれ、終わっていたら寝かせてくれ、
と頼まれている。
 静かに襖を開けて、ぽち君と一緒に部屋の様子を伺った。
 足の踏み場も無いほどに、乱雑とした本田の部屋らしくない空間。
 中央のテーブルの上に、突っ伏している本田は、百年の恋も冷めそうな高鼾。
 「でも、俺の恋は冷めないから」
 うん、と大きく頷いて、原稿の状況を伺う。
 表紙の入稿はすんでいると聞いたので、後は漫画の原稿だ。
 見回せば、パソコンのキーボードの上、封筒が置かれている。
 中を確認すれば、今回出すと聞いていたページ数。
 36P。
 表紙裏表紙、その裏計4Pを除いた34枚がしっかり収まっていた。
 「さすが、菊。仕上がったんだ」
 良い子良い子、と眠りを妨げぬよう、頭を撫ぜる。
 作業そのものはペースが遅いので、速さを要求される修羅場では役に立たないカルプシだが、
事務処理関係は本田に仕込まれている。
 まずは、封筒の中に入っていた原稿をビニールで包んでから茶封筒に入れ直す。
 そして、まとめ買いしてあるエクスパックに詰め込んだ。
 500円で、速達扱い。
 つまりは、出した次の日に届くというギリシャでは信じられない素晴らしい郵便事情があるか
ら、本田はぎりぎりまで戦ってしまうのだろうか。
 ちなみにエクスパックより凄い発送方法だと、その日のうちに先方へ届けてしまう物もある
らしい。
 ぎりぎりと言っても、無駄な経費をかけるくらいなら、徹夜します! という、カルプシには
イマヒトツよく理解できない本田の決め事にそって、そこまでの発送システムを利用すること
はないようなのだが。
 「原稿だけ持っていけば、大丈夫。後はお財布と菊のお着替え」
 必要最低限の物だけ持って行けば良い。
 後は現地調達で十分。
 日本は買い物のシステムも発達している。
 どんな田舎でも、欲しい物の入手にほとんど困らない。
 「ぽち君。これ、持って貰っても良い?」
 お財布を渡せば、ぽち君は上手に銜えると、ぶんぶんと尻尾を振ってくれる。
飼い主に似て、頭の良い子だ。
 「じゃあ、行こうか」




                                    続きは本でお願い致します♪
               
                        どこへ行くのか思案中。
                                            季節も思案中。
                          ちょっと肌寒いくらいの春先がベストかなぁ。





                                       メニューに戻る
                                             
                                       ホームに戻る