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  癒されて、苦笑する。
   It smiles wryly being healed.



 甘い香りが鼻を擽ったせいで目が覚める。
 「ん? んんんっつ?」
 寝惚け眼のまま腕の中で眠っていたはずの薄い身体を探すも見当たらない。
 「ああ……また、先に起きられてしまった……」
 ウィリアムズは、とほほーと肩を落としてベッドの上に起き上がって伸びをした。
 大きく朝の息吹を吸い込めば先程感じた物より濃厚な甘い芳香が鼻を擽る。
 本田がウィリアムズの為、特製メープルホットケーキを焼いてくれているのだ。
 「うちに来た時ぐらいゆっくりしてくれればいいのに」
 本田宅に遊びに行けば朝食は彼手製の純和風朝食。
 本田が料理上手なおかげでウイリアムズはかなりディープな日本食材も食べられるように
なった。
 先日も泊まりに着ていたカークランドに断って、本田から送られてきた丹波黒豆納豆を食べ
始めたら、俺は日本も本田も好きだがそれだけは食べれられないんだ! と泣かれてしまった
くらいだ。
 「だからせめて、こっちの食事は僕が手配するって何時も言っているのにさぁ」
 あれこれとカナダっぽい料理を食べさせて喜んでもらおうと目論んでいるのだけれど、一度
食卓に出せば勉強熱心な本田はすぐに自分の物にしてしまう。
 挙句次の機会にはウィリアムズが作った物より美味しい事が多いそれらを笑顔で饗してくれ
るのだ。
 「……昨日もしたりなかったのかなぁ?」
 ほしょりと物騒な事を呟けば、何時の間にか寝室へ入ってきたクマ二郎さんに頭を叩かれた。
 「馬鹿ガ! 菊ハ腰ガ痛イッテ愚痴零シテタゾ」
 「そうなの?」
 「アア。マシュー君ハ、オ若イカラ、爺ハ困リマスッテ、俺ノ頭ヲ撫ゼタ」
 「そっか腰痛いんだぁ……でもなぁ、もちょっと無茶したら、朝食作らないで寝ててくれるかも
  しれないじゃない?」
 「……菊ノ愛情ヲ無碍ニスルナンテ……オ前誰ダ?」
 「マシューだよ! もぅ!」
 クマ太郎さんの頭をぽかりと殴るも、やはり本田が辛いのなら控えねばなるまい。
 ならば、他に彼にこっちまで来て早起きして朝食なんか作らないで寝ていて欲しいのだと、
どうしたら上手く伝えられるだろうか。
 こんな時ストレートに告げられるジョーンズが少しだけ羨ましい。
 「まぁ、アルになりたいとかは思わないけどねー」
 ジョーンズにも自覚はあるようだが、本田はジョーンズに対して恋人というよりは孫や子供
のように対峙する事が多い。
 特にウィリアムズと一緒に居る時に強く感じるらしく、それこそ唇を噛み締めて悔しがったり
もする。
 ジョーンズの強すぎる個性に抑制されて鬱屈としたものを抱えていたウィリアムズは正直、
いい気味だ、と思っているのだ。
 本田の前では決して出さない感情も一人きりの時とジョーンズと居る時は例外。
 本田の目を盗んでひっそりと笑えば、地団駄を踏むジョーンズを見ることもできた。
 「菊さんと付き合って、僕は本当幸せになったよなぁ」
 「……本当に?」
 気が付けば本田がウィリアムズの背後に立っていた。
 忍者スキルを持つ本田は、空気と呼ばれ存在感の薄いウイリアムズとは全く違う風に気配を
消せる。
 「わわ! 何時からそこにいらしたんです?」
 「貴方は貴方です。貴方がアルになるだなんて、考えただけでも……ああ、恐ろしい」
 わざとらしく大袈裟に震えて見せた本田は、共犯者の笑みを浮かべてくれる。
 「はい。僕は、僕です。貴方と居る限り僕が自分を見失う事はないでしょう」
 「……マシュー君の口説き文句は心臓に悪いですよ?」
 「慣れて下さい」
 ウィリアムズを背中から抱き締めてくる本田を振り返って首筋を引き寄せる。
 抵抗の一切ない所作で本田の唇がウィリアムズのそれに触れた。
 ひんやりとした薄い唇は何時でもウィリアムズの唇に良く馴染む。
 今日はほんのりと味見をしたのだろうメープルシロップの味がして、最高に美味だった。
 「ん! ちゅ……ちょ! ましゅっつ」
 「しー」
 「シーじゃないでしょ! あ、んんっつ」
 つい舌を絡めるディープキスを始めてしまう。
 まだ眼鏡をしていないので、本田の顔が常より近い気がする。
 「らめ、れすっつ! せっかくのほっとけぇき、さめちゃうでしょ!」
 ウィリアムズの舌から必至に逃げながら、本田が叫ぶ。
 その拙い風情はウィリアムズにはないと思っていた澱んだ欲望を刺激した。
 朝から頑張って貰おうかなぁー、とにやけた顔で、つつとエプロンをたくし上げかけた手を
クマ五郎さんに噛まれてしまった。
 「菊ノホットケーキハ、焼キタテガ美味ダ!」
 「それはそうだけどさぁ……空気読んでよ、クマ吉さん」
 「これ以上はないほど、読んでくださってると思います
よ。さ、行きましょうね。クマ次郎さん」
 「ホットケーキ。三枚!」
 「ええ、三枚でも。五枚でも、マーシューさんの分でも」




                                    続きは本でお願い致します♪
                                 まだまだ加さんが白いなぁ……。
                 最中だけ黒くするとかにかも、好みなんですけど。
                                                どうしよう。





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