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  Insanity



 「ちょ! フランシスっつ! 待って! 待って下さいっつ!」
 「これ以上待てない。一分一秒も待てないっつ!」
 二人っきりの修羅場に突入して一週間。最後の三日は風呂食事どころか、一睡もしていな
い。
 本田がバイク便に原稿を預けて、玄関の引き戸を閉めた所で、廊下に押し倒した。
 「だって、お風呂、三日も入ってないし! 寝てないし、食べてないし! 私の体力はもぉ、
  限界なんです!」
 「知ってる! 俺だって。全く同条件だからねっつ。とにかく、しゃぶらせろって!」
 何時にない必死の抵抗も無駄。
 こういうギリギリの時には余計、元々の体力差が出てしまうのだから。
 「しゃぶらせろって! んっつ。ふらんしすぅっつ」
 ボヌフォワは、廊下を片手でにじりながら、もう片方の手で、ゴムもゆるゆるのジャージを
必死に引っ張る本田から、下着とジャージを一気に引き抜く事に成功した。
 しみじみ頭回ってないんだろうなぁ。
 逃げながら、ズボンを死守しようなんて、無謀この上もない。
 まさしく、二兎追うものは一兎も得ず。
 諺を地で行く行動だ。
 どちらかに集中したら、もしかすると成せたかもしれないのに。
 舌の根元からを絡め取るディープキスを仕掛けながら、敏感な場所を探る。
 俗に言う疲れマラという奴だろう。本田の性器は既に完全な勃起を遂げていた。
 「わぉ! 菊ちゃんたら。お口では、いやんいやん言ってる癖に。息子さんは、すっかり臨戦
  体勢ですことよ?」
 歯の裏を舌先で撫ぜ上げる、本田の身体が簡単に蕩けてしまうキスをして、唇を一旦離し。
 その鼻先に自分の鼻を擦りつけながら、瞳を覗き込めば、潤みを帯びた瞳の端から、すっと
涙が零れた。
 ボヌフォワの可愛らしい恋人は、感じる身体に心がついてこないとすぐに泣いてしまうのだ。
 「そな、こと! 言っちゃ駄目ですっつ」
 「お? そのセリフ。今回の新刊中で言わせてたっけな。実はお気に入り」
 「……二次元では、好きですよ……でも三次元では……」
 そこで、きゅうと首筋を抱き締められる。
 「貴方が、お好きだからっつ」
 耳の中、必死の言葉が注ぎ込まれた。
 うわー。
 修羅場明けって凄いよね。
 色々な意味で限界ぎりぎりだからさ。
 結構な勢いで本音が駄々漏れて幸せ。
 特に本田は常日頃、その手の事は押さえ気味にしてるから、ここぞという時の解放感が
強いんだろう。
 それはもぉ、男心を擽る言葉だったり仕草だったりを惜しげもなく晒してくれる。
 「駄目だよぉ。修羅場開けの狼にそんな事言ったら」
 ボヌフォワは苦笑と呼ぶには余りにも黒い微笑を浮かべながら、同じ風に本田の耳に唇を
寄せ、言葉を吹き込んだ。
 「酷く、したくなっちゃうでしょ?」
 ぞくぞくぞくっと、目に見えて本田の身体が泡立つのが解った。
 恐怖にではない、興奮にで、だ。
 それは経験上間違えようもない反応。
 ボヌフォワは、勃起した本田の性器の先端をくるんと指で包み込むと、すぐさま、ずるりと
被っている皮を剥いた。
 「ひん!」
 「お!」
 何と、本田はそれだけでイってしまったのだ。
 色落ちした紺色のシャツの上、精液の白は、素敵に真っ白だった。
 「菊ちゃーん。溜め過ぎじゃないの?」
 「貴方も知ってるでしょうっつ。私、修羅場モードに入るとそっちの欲がなくなるって!」
 知ってる。
 そりゃあもぉ、よく知ってる習性だ。
 修羅場中に資料と言いながらAVをがんがん流しっぱなしにしても、勃起どころじゃない。
 真剣に魅入りながら『寄り添いから白光錦。しぼり芙蓉でねちっこく続けて、本駒がけ……や、
流れからして乱れ牡丹?』と頭の中、図解付で浮んでくるのであろう、四十八手を呟きながら
デッサンを取ったり、ネタを練ったりしている。
 結局、性欲を全部創作意欲に挿げ替えているんだと思う。
 だからこそ、修羅場明けは創作意欲がそのまま、性欲に転換される。
 そうなるように、ボヌフォワが気合を入れて仕向けた。
 徹夜が続いた修羅場の最終日は、絶対に二人きりになるようにしている。
 まぁ、ボヌフォワと本田が恋人同士なのは広く知れているので、邪魔する輩もいないじゃない
が、割合とすんなり発散する熱の行き場を失った身体を貪れる機会は増えて行った。
 「よーく知ってるって。だからこそ。アーサーだのアーサーだのアーサーとの二人修羅場も
  OKするんじゃないか」
 「って、アーサーさんだけですか?」
 「洒落にならないは、あいつぐらいだろう。本当、あいつが枠線引きのプロで良かった。これ
  がトーンの魔術師とか、背景マニアだったら、お兄さんは、許さなかったよ」
 カークランドは、枠線引き、ジョーンズは、消しゴム掛け。
 フェリシアーノはトーンで、ルートヴィッヒはベタ塗り。
 十八禁仕様でなければ、背景はツヴィンクリが、ばりばりならカルプシか王が手伝ってくれ
る。
 ボヌフォワは勿論オールラウンドでいけるが、トーンと背景の仕上げが回ってくる事が多い。
 ちなみに常連メンツ以外でも、手伝いに来てくれる奴等は少なくなかった。
 今だアナログでやっている本田の技術は凄いものだし、日本アニメや漫画の楽しさを知りた
いと、常時誰かしらが覗きに来ているのだ。
 ブラギンスキ、ベールヴァルド、アドナンにボヌフォワと本田というメンツの修羅場の時は、
でかい奴等に囲まれて、本田の身体が尚一層小さく見えたもの。
 エリザベータ、ナターリヤ、リヒテンシュタインにセーシェルに、これまた本田とボヌフォワ
のメンツによる修羅場の時は、本来の修羅場とは程遠く、部屋中に終始花びらが舞ってい
るような気分だった。修羅場とは、何時もこうありたいものですねぇ、と蕩けそうな顔で言った
本田に、大きく頷いたボヌフォワだった。
 「あんなに、綺麗に枠線引いて下さる方はいませんよ? 彼は手放せませんね」
 「……この状況で、そういうセリフ言う?」
 「……振ってきたのは貴方でしょうに」
 「それもそうだ。愛の国を謳うお兄さんらしくもなかったねぇ」




                                    続きは本でお願い致します♪
                                              オタ菊です。
                   兄ちゃんはちょっぴりエロ度高くを目標に頑張ってます。




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