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  我侭な創造主



 『俺は菊の創造主なんだから、俺だけの言う事を聞いていればいいんだ!』
 世界会議で、そう言い放ったアルフレッド・ジョーンズ。
 『そうだよね、菊?』
 YESと本田が応える事を信じて疑わない満面の笑みに、本田はこう応えた。
 『そうですね』
 と。
 無表情のままで。
 ジョーンズ以外の誰もがNOに取る音調で、彼の言葉をなぞった。

 元々近しい方の少ない貴方でしたから、簡単でしたよ?
 貴方の周りから、自分以外の存在を排除してゆくのは。

 『昔はあんな、奴じゃなかったのにな。もっと可愛らしかったんだけどな……どうして、こんな
  酷い事をする奴になったんだろう』
 彼曰く、当然だと言う嫉妬でジョーンズに無茶苦茶にされたその身体を抱き締めて、カークラ
ンドは泣きながら言った。
 『俺の、育て方が悪かったのか?甘やかし過ぎたのか?』
 ゆっくりと首を振って、作り物の微笑を浮かべる本田の身体をカークランドは、きつく抱き締め
た。
 苦しいが、心地良かった。
 ジョーンズを切り捨てて、本田を選ぼうとしているその瞬間の温みは、壊れた身体に染み入る
ように優しいだけだった。
 『もう駄目だ。俺は、もう駄目だ。アレを見限る……お前をこれ以上壊そうとするアレを許せない
 ……存在すら、認められない』
 口ではなんだかんだ言っても、カークランドはジョーンズに優しかった。
 元ヤンだの、海賊紳士だのと揶揄される彼の心根は純粋に己の懐に入れた物を慈しむ。
 これだけの無償の愛を注がれて、素直に受け入れられなかったジョーンズは、元々が歪んだ
存在だったのだろう。
 『だから、菊。お前もアレを捨てろ。大丈夫だ。俺が。俺達が守ってやるから』
 ジョーンズの望むようにではなく、甘やかしたいように甘やかしてきたカークランドも、アレを、
造り上げた一人なのかもしれない。
 『なぁ、菊。身体が落ち着いたら……アレの側を離れろ?』
 その、創造主の一人に。
 貴方は捨てられる。
 
 本田は、カークランドの言葉に静かに頷いた。

 『僕は。慣れてますけど。平気、ですけど。どうして、本田さんにばかり、鬼畜なコトをするん
  でしょう?』
 えっくえっくとしゃくりあげながら、もはやSEXとうよりは拷問と言った方が正しい行為に傷付い
た本田の体に、丁寧な手当てを施したウィリアムズが言う。
 『……もしかして、アレですか?僕が平気になっちゃったから、彼は、本田さんに酷い事、する
  ようになっちゃったんでしょうか?』
 本田が静かに、傷付いた口の端を引き攣らせながら微笑めば、ウィリアムズは零れ落ちそう
な大きな瞳から、ぽろぽろと新しい涙を溢して、本田の手首を彼らしかぬ強さでぎゅうぎゅうと
握り締めた。
 あくの強いジョーンズの隣で、何時も存在を無視されてきた彼。
 それでも、兄だからと何をされても我慢してきたのだろう彼を、堕落させるのは、カークランド
よりも余程難しかった。
 『本当は、ちっとも。平気じゃなかったんですけどね。辛かったんですけどね。兄さんには、
 きっとわかって貰えなかったんだろうなぁ』
 兄弟の甘さもあって、何も言わずに耐えてきたのだろうけれど。
 相手は、あのジョーンズだ。
 言葉にしても伝わるかどうか微妙だと言うのに、言葉にしなければ、伝わる訳がないのだ。
 ジョーンズに、本田のような空気を読むスキルはない。
 『……だから、もぉ。僕は我慢する事を止めます。どほれど彼の仕打ちが僕を打ちのめしたか、
 きちんと言います……そうしたら、兄さんは。貴方に……こんなコト、しなくなりますよねぇ』
 自分とは合わない兄を、それでも大事にしたかったのだろう。
 苦渋の決断を下し、心の痛みに泣く彼の背中を指先だけで宥める。
 ウィリアムズは、その指先を案外と器用に絡め取った。

 ウィリアムズもまた。
 ジョーンズを形成してきた存在に間違いはない。
 一番近くにいたのだ。
 近くに、居すぎたのかもしれない。
 故に。
 本人にその自覚がなく、ジョーンズには感知されていなかったのだろう。

 そしてまた。
 創造主の一人に。
 貴方は捨てられる。
 
 本田は、唇の動きだけで『大丈夫ですよ』と、ウィリアムズに囁いた。

 さぁ。
 貴方を創造した存在は、貴方を捨てました。
 皆、貴方の自業自得です。
 これで、ジョーンズ君。
 貴方が作り変えたと思い込んでいる、私が。
 貴方を捨てたら、どんな顔をするでしょうね?
 さすがに、この私が。
 貴方程度の存在に、作り変えられるモノではなかったのだと。
 気がついてくれますかね。
 それとも、全てに見捨てられて。
 私だけには、捨てられたくないと。
 縋ってくれますかね。

 どの道。
 全てを知った時の、貴方を見るのがとても。
 楽しみですよ?




                                                     END




 *歪み日です。
  菊は、アルが好きだったのですが、あんまりにも己を無視されて、好き勝手
  されので、歪んでしまいました。
  パニックに陥ったアルに、首をぎゅうぎゅう絞められても、にこにこ笑ったまま
  殺されそうな歪み加減だと思って頂ければ、よろしいかと。
                                                 2009/03/09
 



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