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  死神



 「……今日こそは、殺して頂けるのですか?」
 透き通る綺麗な銀髪に、紫水晶のようにきらめく艶やかな瞳を持つ巨躯の死神の訪れに、
本田は慣れ親しんで久しい言葉を紡ぐ。
 彼は静かに首を振って、その恐ろしい呼称には相応しくない慎重な優しさで本田の両頬を
包み込んで、額にキスを一つ落とした。
 「まだ、私の贖罪は終わらないのですね」
 そう言えば、死神は悲しそうに目を細める。
 「一体、私が犯した罪はどれほどに深いのでしょうか」
 死神の返事は、今日も、ない。

 気がつけば、窓も扉もない部屋に閉じ込められていた。
 何を聞いても答えてはくれない死神の態度から、あれこれ考えて。
 本田は自分が恐ろしい罪を犯して、その贖罪の為にここに幽閉されているのだという結論に
至った。
 深い溜息をついて、手馴れた仕草で本田は自分の衣服を脱ぎ捨てた。
 これから行われるのは、きっと贖罪の儀式なのだ。
 死神に、身体の隅々まで犯される時間が始まる。
 纏っている衣類は簡素な物だ。
 下着もつけていない。
 自国に居た頃に来ていた長襦袢にとてもよく似ている。
 真っ赤なそれ。
 本田が服を脱ぐのを見守っていた死神は、自分もゆっくりと衣類を脱ぎ捨てた。
 服の外からではわからない、隆々とした立派な筋肉と、見る度に切ない気持ちになる数多の
傷痕。
 本田が一番酷い心臓にある傷に触れれば、決まって彼は。
 慈しむ風な、けれどどこか寂しそうな瞳を向けてくる。
 もしかしたら、これは私がつけた傷なのかもしれない。
 熱心にその痕を舐めれば、何時でも彼は優しく髪の毛を撫ぜてくれた。
 今日も丁寧に、そこを舐め上げた後で顔を上げれば、死神の唇が本田のそれを塞ぐ。
 肉厚の唇は実に奔放に、本田の唇を貪った。
 そういえば、死神には熱もあるのだと。
 本田は、口付けで初めて知らされたものだ。
 後は、もぉ。
 死神の思うままの行為が齎される。
 乳首を、性器を、それ以外の感じる場所も、しつこく弄られて、最後には、入れ下さいお願い
します!と懇願して、死神の巨大すぎる硬直が収められるのだ。
 既に何度もイかされて、とろとろになった身体でも手に余る大きさに、長さ。
 さすがは、神だと。
 毎回馬鹿みたく納得する自分がいる。
 しかし、断罪される行為にしては、何時も優しい凌辱ではあった。
 本田の意志は徹底して無視されるが、その快楽は死神のそれよりも優先されている。
 大体、本田はフェラチオを強要されたコトがないのだ。
 しようとしても、拒否されて、ただ。
 本来、本田の。
 女の悦ぶだろう快楽を全て与えられる。
 「やあ!もぉ、駄目っつ。許してっつ、殺してっつ!死神さんっつ」
 死神の交接は長く、収められてから何時間にも及ぶ。
 膣がこんな風に蕩けて、熱い熱を発し、男を銜えて離さないものなのだと、本田は死神の
手によって教えられた。
 知りたくはなかった度を越した愉悦。
 快楽も過ぎれば、恐怖にと変化する。
 「お願いっつ、殺して……今日こそ、殺して!イヴァンさんっつ!」
 何も答えてくれない死神が、そう言えば一つだけ、答えてくれた己の呼び名。
 昔、仲の悪かったとある人物と同じ名前で、妙に納得したのだ。
 彼ならば、私に罰を与えるのに相応しい人物だろうと。
 「殺してっつ、イヴァンっつ」
 意識を手離す寸前に、冷たい液体が体奥に注ぎ込まれた。
 死神にも、精液はあるのだろうか?という疑問が浮んで、ふふふと自然に笑みが零れる。
 まさか、そんなはずがある訳でもないだろう。 
 しかし、だとしたらこの液体は何なのだろう?と考えるが、迫り来る限界に本田は意識を
手離してしまう。
 「菊……」
 自分を呼ぶ、優しい声は、本田が愛した男の声に似ていた。
 「アーサー、さん?」
 
 「っつ!」
 ブラギンスキの性器を銜え込んだまま、意識を失った本田は幸せそうに、自分を狂気へと
追いやった男の名前を呼んだ。
 「こんなに、なっても。彼が好きなんだね」
 ずるりと性器を抜けば、意識を失っているというのに、中が必死に絡みついてきた。
 「身体は、こんなに。僕を欲しがってくれるのに、ね」
 本田の前では決して溢さない涙が、ぼろぼろと零れ落ちる。
 
 本田とカークランドは、相愛の仲であった。
 周りから見れば、羨むような慈しみが、確かに彼等の間にはあった、はずなのだ。
 ジョーンズが、本田に惚れ込んだりしなければ。
 その身体を犯したりしなければ、きっと。
 二人は、幸せなままだったのだろう。
 けれど。
 本田は、自分を犯したジョーンズに酷い怪我を負わせ。
 カークランドは、犯された挙句に弟に傷をつけたと、本田を、罵倒した。
 ショックではあったのだろうと、ブラギンスキでも想像はつくが、本田は、恋人の変貌を一
時的な錯乱ではなく、永遠の決別だと思い込んでしまったのだ。
 急速に病んだ本田は、ジョーンズが快復する頃には、己を完全に失っていた。
 誰にも愛される本田を、壊れても尚、面倒を見る!と言い放った国は、彼女をそんな目に
合わせたカークランドや、ジョーンズを含めて数多あったけれど。
 ブラギンスキが面倒を見ることになった。
 何故かはわからないが、本田の目にはブラギンスキだけが映るらしいのだ。
 『死神さん?私を殺しに来てくれたのですか?』
 残念な事に、それは。
 ブラギンスキとしてではなく、本田を死の国へと導くのであろう、死神としてでしかなかったの
だが。

 ブラギンスキは、己の涙を腕で拭って後。
 何時もの通り、丁寧に後始末をして部屋を出る。
 控えていた部下に、本田が目を覚ましたら食事を与えるように指示をして、自室へと向かった。
 パソコンを開き、これも慣れた仕草で今日の本田の様子を映した動画を希望する奴等に送信
した。
 本田を追い込んだ片割れのジョーンズは、他国の徹底した締め付けと拒絶にあい、大国とし
て力を失い、嘗ての発言力も今はない。
 本田が復帰したとしても、彼の言いなりになる必要は、既になくなっているのだ。
 今日のメールも、こんな事にするつもりはなかったんだ!愛してただけなのにっつ!と絶叫
しながら、読み、見ているのだろう。
 そして、本田の恋人であったカークランドは、本田と同じように狂気の闇へと落ちた。
 当然の報いだと思うけれど、本田はどう思うだろうか。
 狂ったカークランドの様子を告げたならば、一発で正気に返りそうだ。
 幽閉されたカークランドは、設置された最新式の機材に囲まれて、ブラギンスキの手による
本田の痴態を見ながら日々、自慰に耽っているという。
 この目で見たことはないが、ボヌフォワが。
 彼らしかぬ静かな声で、教えてくれた。
 「殺して、あげればいいのかな」
 訪れる度に、今日こそは殺してくれるのですか?と訴える本田の、願いを叶えてやりたくなる。
 長く嫌われていたから、彼女にあんな風に純粋にねだられるなんて、嬉しいだけだから。

 それが例え、死を告げる神と思い込まれているのだとしても。
 彼女は、今。
 ブラギンスキしか認知できないのだ。
 その、幸福を。
 ブラギンスキは、それこそ彼女が正気に返らなければ、手離せはしないだろう。
 だから、やはり。
 「ごめんね。本田さん。僕には、君を……殺せないんだ」




                                                     END




 *わお。書いている途中まで英日前提になるとは露とも思わず。
  更には、米日フラグまで立つとは露にも!
  でもって、女体になるとも!
  ……全ておとろしあ様の電波なのでしょうか。
  何にせよ。
  半永久的に、こちらの菊たんは、イヴァンさんに溺愛され続けるでしょうとも。
                                                 2009/02/22
 



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