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  危険中毒者



 『なぁ。菊?』
 ぺたぺたとベタを塗りながら、名前を呼んだ時。
 完璧な三徹で、頭がすっ飛んでいたのは、間違いない。
 『……なんです』
 対する本田は三時間睡眠一週間に続いての三徹で、ボヌフォワよりも遠い所へ行ってしまっ
ていた。
  だからと言って。
 『終わったら、やらして?』
 と、のたまった俺は馬鹿だ。
 『入稿済めばね! 好きなだけどうぞ!』
 と、返事をした菊は阿呆だとしか、言いようがない。
 更に、それを実行しちまうなんて、どうにかしてる。

 でもって。

 「関係が普通に続いちゃってるってーのは、どうよ?」
 蒲団の上、はぁと深い溜息をつけば、隣で寝ていたはずの塊がもそもそと蠢く気配。
 「……問題があるなら、何時でもやめて頂いて結構ですよ」
 まだ眠いのだろう、煙管を探す手が覚束無い。
 うつ伏せになって、煙草盆を引き寄せて、肘をつきながら煙管に火をつける姿は何とも粋で、
一旦は収まったはずの熱の残り火が、めらりと胸の内で揺れる。
 「菊たん、つれなぁい」
 「……つれないのは、貴方の方でしょう? 入稿の後にしかしないんですから。律儀というか
  なんというか」
 「えー。普段から入り浸っちゃマズイでしょ? 君の旦那さんを怒らせたくないし」
 「いいんですよ。あんな人。する回数なんて、それこそ貴方の何分の一ですよ。二人きりで
  会っても憎まれ口ばかり。まぁ、あの人に真顔で愛を囁かれても困るんですけどね」
 ふぅと、大きく吐き出した煙がゆるゆると天井に立ち昇ってゆく。
 情事の後の一服が格別なのは、喫煙経験のあるボヌフォワにはよくわかるのだが、本田に
されるとどうにも落ち着かない。
 彼が童顔だと言うのもあるし、邪険にされているような気もするからだ。
 「実際、ばれてんの?」
 「ばれてないんだと思いますよ。ばれてたらあの人、私の事を殺しかねませんし」
 「あー何かわかる気がする」
 全部が僕のモノになっちゃえばいいのにね? と本気で正気で言い切れる奴だが、本田へ
の執着は半端なものではない。
 本田は自分が殺されると思っているが、実際ばれでもしたら殺されるのは間違いなくボヌフォ
ワの方だ。
 それだけ、奴の本田に対する執着は凄まじいモノがある。
 「止めても、いいんですよ? 貴方、自分のせいで私が殺されたりしたら気に病むでしょうし」
 「や。普通病むだろうよ」
 「そうです? 私は案外平気ですけど」
 「知ってる」
 結局の所、ブラギンスキの凄まじい執着が見えないのは、本田自身が恐ろしく冷たい性質
だからだろう。
 本人がその気になったら、何でも誰でも捨てられるのだ。
 一人で居る事が長かった彼は、一人で居る事が苦でもない。
 私なりに愛しているんですけど、と溜息をつく相手のブラギンスキでさえも、本田は。
 切って捨てるどころか、笑顔で殺せる性質なのだ。
 国だから。
 人ではないのだから、仕方ないと。
 恐ろしいまでの潔さで覚悟を決めている。
 「……貴方も、変わってますよね。私の嫌な部分を掌握して、尚。こうやって私を抱く」
 「そんだけ、菊ちゃんが魅力的って事で、どーよ?」
 「ふふ。安心して下さい。貴方も大変魅力的ですよ……特に、こことか」
 「うお!」
 煙管を持たない手が素早く、まだ全裸を晒している中の、剥き出しの性器を撫ぜ上げた。
 「私も色々なお宝を拝見しましたけど、ここまでご立派なのは初めてです」
 「そんな、身も蓋もない」
 「恋人のナニより、素敵だと申し上げても?」
 「お兄さん、ますます困っちゃう」
 言いながらも、煙管を取り上げて盆に乗せ、そのまま組み敷いた。
 「言ってる事と、やる事。結構違いますよね」
 「好みじゃないって?」
 「同じ穴の狢って、気分です」
 抵抗の色なぞ微塵も見せず、太股をボヌフォワのそれに絡ませてくる。
 普段は割合と淡白に過ごしている本田だが、入稿後の貪欲さは半端ではない。
 ブラギンスキは、どうやらこの激しさを知らないようなので、勿体無い話だね、と胸の内で
嘯く。
 「ああ、どうしましょう。フランシス」
 「まさか、止めようとかいうつもりじゃないよねん。ここまで来て」
 「いえそのちょっと。お腹がなりそうだなぁと」
 「鳴らしといて。一戦終われば、腕を振るうから」
 「……わかりました。お手柔らかに」
 「それは、菊さん。こっちの話」
 キスをしながら、お互いの性器を弄る。
 両手を出して、袋と性器を愛撫する手付きの、いやらしい事。
 SEXに関しちゃ、結構自信があったが、ここまで奔放な相手は初めてだ。 
 男相手の場数もそこそこ踏んでいたけど、比較するまでもない。
 男のイイ所を知り尽くした愛撫が凄いのだ。
 本田は、前立腺マッサージで出させる技も持っている。
 余り楽しくないので、披露して貰ったのは一度だけなのだが。
 このままではもっと。
 深みに嵌って、取り返しがつかない事になる。
 過去に何度も痛い目にあっているというのに、学習しないボヌフォワだ。
 最近では、むしろヤバイ恋愛じゃないと萌えない性質なんだろうと、自分の歪んだ嗜好の
肯定まで始めてしまった。
 それでも。
 最後の引導を渡す相手が、この本田であるのなら。
 それも悪くないとは、思っている。
 


                                                     END




 *またしても、前提モノですか。
  なんかもう、すみません言うのもすみません。
  危険=おとろしあ様。
  という思考か抜け出せなかった為、露日前提になりました。
  最初は、危険=黒菊でいくつもりだったんですけどね。
                                                 2009/03/21
 



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