メニューに戻るホームに戻る




  罪悪感



 どうしても、どうしても。
 譲れなかったのだ。
 それは、菊の選んだ相手が、アレだったからかもしれない。

 「あんっつ! あああっつ。や! もぉ、やぁっつ。はくっつ。はーぁくっつ」
 誰でもそう、呼ばせている訳ではない。
 母親が慈しむように呼んでくれた、その愛称を。
 今、呼ぶのは菊だけだ。
 「お願いですっつ。もぉ。も、ぉ。終わって! 終わって! んんっつ」
 口ではカルプシを拒絶しながらも、アレに慣らされた身体は、貪欲だった。
 数を重ねれば重ねるほど、蕩けるように包み込む、中は。
 女性のそれに、勝るとも劣らない。
 「ねぇ? はーく。やすま、せて。いった、ん。ぬい、て?」
 菊を三度イかせて後、長い時間。
 無言で抜き差しを繰り返している。
 最初は正常位で挑んでいたのだが、バックに切り替えたのは、菊の目がカルプシではない
モノを見だしたからだ。
 限界を超えると菊は必ず。
 アレを、声なき声で呼び。
 無意識に、アレを求めて目線を彷徨わせる。
 声は仕方ないとしても、カルプシを映さない菊の目を長く見詰めている自信がなかった。
 「やあっつ! も。も、ぉ……と、ぶっつ」
 シーツに爪を立ててカルプシの責め苦に耐えていた菊の身体から、不意に、くったりと力が
抜ける。
 とうとう、失神してしまったのだ。
 中はそれでも、過敏な収縮を繰り返し、カルプシの男をどこまでも刺激してくれたのだが。
 さすがに、意識を失ってしまった相手に盛るほど、SEXに狂ってはいない。
 菊には、狂っているけれど。
 「んっつ。んんっつ! き、くっつ」
 抜き出したソレを数回擦って、菊の背の上にたっぷりと精液を吐き出した。
 バター色の肌に、白い液体はなかなか綺麗に映える。
 らしくないんじゃないの?
 と、何時だったかボヌフォワに指摘された、歪んだ笑みを浮かべながら菊の背中を丁寧に
拭う。
 新しいタオルで、繋がっていた場所も拭いた。
 意識をなくして緩んだそこからは、カルプシが吐き出した精液が恐ろしい量、出てくる。
 これできっと。
 昨晩、散々菊を抱いたらしいアレの匂いも消えた事だろう。
 うつ伏せの身体を転がして、腕の中に収めると、二組敷いてあったうち、使っていない綺麗
な蒲団の上に移動する。
 疲れ切っている菊は、そういった移動の際にも、瞼すら動かさなかった。
 「菊。愛してル。愛して、ル」
 頬擦りをして、何度もキスをした。
 どこにキスをしても、菊の肌は甘い。
 ついつい、本格的なキスをし始めてしまい、菊の息が苦しそうになったので、慌てて止めた。
 汗でしっとりした菊の髪の毛に顔を埋めて、寝入ろうとするのだが、しつこくアレが頭に浮んで、
なかなか寝つけない。
 「どこまでも。邪魔な、奴」
 バイルシュミットが、ルートヴィッヒを厳しくも甘く接してきたように。
 ツヴィンクリが、リヒテンシュタインを無防備に慈しんでいるように。
 アドナンは、カルプシを。
 彼なりには大切に育てたののかもしれないが、カルプシにはそれに、感謝する気持ちに
はなれなかった。
 ルートヴィッヒとリヒテンシュタインとは、兄の話に関する意見が全く合わない。
 二人ともイイ人で、イイ子なのだけれど。
 むしろ、兄との話になれば、あのジョーンズと意気投合した。
 
 表向きは、鬱陶しい。

 裏に回れば、どうして、何時までも、自分を。
 対等には扱ってくれないのだという、不満を抱えている。

 それでも、菊がアドナンを恋人にしなかったのならば。
 ここまでの、憎悪は抱かなかったかもしれない。
 心の片隅にあったような気がする微かな情が、今は。
 綺麗さっぱり霧散している。
 それだけ、菊が大好きなのだ。

 嫌がる菊を。
 それでも、根本が優しくてカルプシを拒絶しきれない菊を。
 アドナンが抱いた次の日に、強引に犯すくらいには。

 「ごめん、ね」
 初めは、恐怖と嫌悪。
 二度目は、憎悪。
 三度目は、達観。
 それ以降は、口先だけの抵抗とその態度を変えていった菊の本性は、淫乱だ。
 本人も最近自覚が出てきているらしく、行為の最中に唇を噛み締めることが多い。
 声を殺したがっているのかと思っていたのだが、どうやらそれは。
 己の醜態を自戒する時の癖らしい。

 『お菊さん。最近修羅場続きなんですかぃ?』
 アメリカが会場の世界会議。
 ジョーンズ筆頭に他国の目を盗んで二人、ひそやかに抱き合っていたのを目撃した。
 『いいえ。ここ一ヶ月、オタ活動は自粛しておりますよ』
 萌の貯金中です、と鮮やかな笑顔で言い切る菊に苦笑しながら、アドナンは仮面を外して
菊の額に唇を寄せている。
 『それじゃあ。仕事が立て込んでいやすか? 徹夜続きとか?』
 『仕事が忙しいのはデフォルトですけど。徹夜はしてませんよ。私、もしかして顔色とか悪い
  ですか』
 そう言って首を傾げる菊は、幼い風情でとても可愛らしい。
 アレより、年上だなんて何時まで経っても嘘だとすら思う。
 『いえねぃ』
 アレが、菊の顎に手をやる。
 菊は、笑んだままで目を伏せた。
 見たくないのだけれど、つい目は釘付けになってしまう。
 しっとりと仕掛けられたキスを、本田はぎこちなくアレの背中に回した腕に力を込めながら、
受け入れている。
 ちゅ、ちゅ、と濡れた音が響いた。
 『唇が随分荒れていますぜ。無理した時とか体調悪い時に、お菊さん。そうなりやすからねぇ』
 『塩ジャケの呪いですかね?』
 『お菊さん!』
 『怒らないで下さい。他に思いつかないだけですから。取り合えずリップクリームを塗って……』
 常備しているリップクリームを塗った唇は、つやつやして美味しそうだった。
 『キスですねぃ?』
 『オレンジ風味がお好きでしたら』
 『お菊さんとするキスなら何風味でも……』
 例え塩ジャケ風味でも、御馳走ですねぇ、と飽きれた言葉を囁きながら、アレは散々に菊の
唇を堪能していた。

 唇の荒れは間違いなくカルプシのせいだろう。
 カルプシに抱かれて感じ入ってしまう己が許せずに、唇を噛み締めるのだ。
 そうやって、カルプシを責めてはくれず、己ばかりを責めて、ひっそりと病んで行く菊に対して
の罪悪感は、深い。
 けれど。
 これ以上どう憎んだら良いか考えあぐねる相手に菊を、渡す気はない。
 例え、菊が病んだ挙句に壊れてしまっても、最後まで責任を取って側に居るつもりだ。
 間違った愛だと責められても、変えられない激しさで愛してる。
 「愛してル……菊……」
 壊れても尚愛せる執着は、我ながら恐ろしい。
 本当に罪悪感を抱かなくてはいけないのは、自分で菊と言う存在を壊す事に、微塵の躊躇い
すらない部分に対してかもしれないのだけれど。
 アレから、菊を奪えさせするのならば、どんな惨事が起きても従順に受け入れられる自分が
いる。
 「ごめん、ネ」
 遠くはないだろう未来、菊を壊してしまう事に謝罪のキスを落とすカルプシの気持ちが今、
菊に届く事はない。
 恐らくアレの夢を見ているのだろう菊は、優しい顔をして寝入ったままだった。



                       ハークには、どうにも甘い菊が大好きですが、
            この菊の体はハークに開かれていても、心は開いていません。
                                サディクにベタ惚れな菊です。
           サディクに二人の関係がバレちゃった続編も書いてみたいなぁ。                  



                                       メニューに戻る
                                             
                                       ホームに戻る