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  謀られた自業自得



  「どうしてだっつ!」
 目の前の光景が信じられなくて、思わず叫んだ。
 そんな事をすれば、弟が喜ぶとわかっていたけれど、止められなかった。
 「どうしても、何も。君が言ったんだろ? こんなに素直な菊に『何時まで断ってもヘタだな』
  って。『少しは勉強して来いよ!』って言ったじゃないのかよ」
 蔑みの眼差しでカークランド射抜きながら、ジョーンズは彼らしかぬ冷静な口調で返事を
寄越す。

 言った。
 確かに、言った。
 でもそれは、照れ隠しみたいもので。
 何時までも初々しい菊が可愛くて、でもまさか素直にも言えなくて。
 ついつい口に出してた言葉だったのだけれど。
 まさか、こんな事になるなんて想像もしなかった。
 俺とは違って、菊は。
 空気どころか人の心を読むのが得意だから。
 俺の言葉も、ただの、そう。
 所謂、ツンデレなんだって。
 わかっていると、思っていた、のに。
 
 今、本田はジョーンズの股間に顔を埋めてフェラチオに挑んでいたのだ。
 それはもう、必死の形相で。
 
 「最初はボヌフォワの野郎に相談してたみたいだったけど、横から俺が入り込んだんだぞ! 
  ありがたいと思えよ」
 「思えるか、馬鹿!」
 悪友のボヌフォワは、まさかこんな事はしなかっただろう。
 あいつは、あいつで本田を大切に思っている。
 こいつも、また。
 菊に執着しているから、やばいと考えた事がなかったではないが。
 よもや、完全に俺の物になっていた菊に手を出すとまでは想像しなかった。
 ましてやこんな方法で、とは。
 「んっちゅ。はん……んっつ……」
 はしたない音を晒しながら、先刻からのカークランドとジョーンズの派手なやり取りに全く
気がつかない本田の様子がおかしいと、やっと首を傾げる羽目になったのは、ジョーンズ
のカークランドを見る目が、楽しそうに細められたから。
 「……お前? 菊に薬を盛ったのか」
 「さすがは、お兄様。すぐそっちに行くあたり、変態紳士の称号をモノにしてはいないんだな」
 「おい!」
 「菊が、躊躇するから。少しね。理性の箍が緩む奴を」
 「っつ!」
 カークランドは、とにかく!と、やっと思い至って本田の身体を、ジョーンズの股間から引き
離す。
 「う、あ?」
 何が起こったのかわからない、といった風に、きょとんとした表情を浮かべた本田は、カーク
ランドをその視界に納めて、蕩けそうに笑った。
 最中に。
 溺れきった本田でも見せたことがない。
 壊れた、笑顔だった。
 「あーさーさあん?」
 そのまま、四つん這いで近付いてきた本田は、躊躇いもなくカークランドのズボンに手を
かけてジッパーを下ろした。
 現われる下着にむしゃぶりつくように、顔を寄せて、ふんふんと鼻を鳴らしている。
 「き、く?」
 匂いを堪能したのか、満足そうに大きな吐息を溢した本田は、ずるっとカークランドの下着
を引き摺り落とすと、項垂れた性器を一息に根元まで銜え込んだ。
 「ば!よせっつ!」
 反射的に突き飛ばせば、本田の体は呆気ないほど遠くに飛ぶ。
 「あーあ。駄目じゃない恋人に、そんな酷い事をしちゃ」
 よっこらしょっと椅子から腰を上げたジョーンズが、本田の身体を手馴れた風情で抱き上げ
る。
 ぽんぽんと背中を軽く叩いた。
 「ある? あるふれっど?」
 「ん。そうだよ」
 「つづき、しないと!」
 「……そうだな。アーサーに喜んで貰えるように、頑張るんだろ?」
 「はぁい。がんばります」
 それは、もう。
 いっそ華やかなくらいの笑顔で。
 本田は己の胸を持ち上げて、その間にジョーンズの性器を挟みこもうとしている。
 これ以上、見て、いられない。
 頭より、身体が先に反応していた。
 ひょいっと本田の身体を抱き上げて、鳩尾に抉りこむように一発。
 「え! ふ!」
 大きく目を見開いた本田は、呆気なく失神した。
 「……んだよ? 嫉妬とかしてんじゃねぇよ! 菊は、お前の為に」
 「るっさい!」
 「本当。どうしようもない男だよ。せっかく……人が嗾けてやったのにさぁ」
 その言葉に、何やら必要以上に不愉快な思惑を感じ取って目を上げる。
 言葉にせず、話せ! と目で訴えればジョーンズは肩を竦めた。
 「元々、菊はさ。アンタに憧れてたみたいだけど。自分なんかの相手をしてくれるはずはない
  って、言ってたんだ。告白もしないつもりだったんだぞ」
 「……はぁ?」
 いきなり何を言い出すのやら、さっぱりわからない。
 そう言えば何時からだっただろう。
 こいつと話が通じなくなってしまったのは。
 「ふふふ。俺はね、菊のヒーローだから。菊の願いを叶えてあげようって言ったんだ。まぁ、
  菊も自分が何された忘れて、俺の言葉に縋りたい程。アンタに焦がれたたんだろうと思うよ」
 「ちょっと、待て!」
 「後は、さ。俺がアンタの弟だってー頭もあったんだろうな。っとに腹立つけど。アンタが菊に
  ベタ惚れなのは知ってたから、復讐にはちょうど良いって、ね。決めた」
 「復讐?」
 「あはははは! 何で復讐されるのかなんて、わかっちゃいないって面だな。そーゆーとこ
  が、本当に大嫌いだよ……あー、ちゃー……」
 懸命に育てて。
 裏切られて。
 復讐するのは、こちらじゃないのか?
 なのに、何故、こいつは。
 そんなに寂しそうに、俺の名を呟くのか。
 「……アンタの性格は百も承知の上だ。好きな相手に程、態度が天邪鬼になるのも。この身
  を以ってわかってた」
 「アル……」
 「だから、頃合を見計らって。不安に陥った菊に止めを刺したんだよ。アーサーは相手を好
  きになればなるほど、素直になるよってさ」
 「お前!」
 「本当、可愛いよな。俺、菊が可愛くて仕方ないよ。ねぇ、アーサー。何で、こんなに可愛い
  菊を不安になんかさせたの?」
 不安にさせたつもりはなかった。
 甘えたつもりはあったが、甘えられている自覚もあった。
 俺にしてはわかりやすい態度で接していたつもりだったけれど。
 肝心な所で、意志の疎通がなっていなかったということか?
 俺よりも、アルフレッドを信じるくらいに?
 「……ざまぁ、みろ。自業自得なんだよ。俺を踏み台にしておきながら、菊に同じ事をやって
  るんだ。本当、学習能力のない奴」
 「あるふれっどぉっつ!」
 「……薬が切れた菊は、どんな対応をするかな?」
 カークランドは大きく目を見開いた。
 きっと、本田は己の仕出かした事を、許せないだろう。
 カークランドに別れを切り出すのは簡単に想像がついたし、もしかしたら死ねない体の代わ
りに、心を殺そうとするかもしれない。

 それぐらい、深く。
 俺は、菊に愛されている。
 俺も、菊を愛している。

 「もし……菊が壊れたら。俺が彼女を飼ってあげるよ。君に壊された者同士。仲良くやれるさ」
 「俺が、菊を手離す事はない。絶対!」
 「そ? アンタには無理だと思うけど」
 冷ややかな眼差しは、カークランドに。
 瞬間、哀れむ眼差しを本田に向けたジョーンズは、ズボンを引き上げると、何事もなかった
ように部屋を出て行ってしまった。
 「……大丈夫だ。大丈夫だからな」
 カークランドは、本田に言い聞かせるようにして、その華奢な身体を抱き締めた。
 完全に意識を失った身体は、しかし、軽かった。
 「俺は……お前を手放さない、ぞ」
 アルは俺から離れていったけど。
 俺を憎んだけど。
 今でも、どうしてそこまで疎まれるのかわからないけれど。
 「お前は、ここに、居るよな?」
 菊は俺から離れていかない。
 行かせない。
 俺を。
 俺だけを、愛し続けさせる。
 例え、お前が。
 俺の側に居られないからと、壊れてしまったのだとしても。




                                                     END




 *女体の方が盛り上がるかしらと思ったのですが、全然女体描写ができなくて、
  意味のない感じに。
  ちなみに、この米さんは、菊を抱いておりません。
  英好みの性技を仕込んでいるだけです。
  彼は、彼なりに英さんと菊を愛しています。
  残念ながら、英さんには通じず、菊を壊すだけの愛情ですが。
                                                 2009/03/08
 



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