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 四季


 あまりにも静かで、ふと目が覚めた。
 腕の中で、すいよすいよと眠る大佐を起こさないように置時計に手を伸ばす。
 時計の針は午前三時。
 蒲団から出した手が、あんまりにも冷たいので窓の方を見やる。
 東に設えてある寝室の、朝日が眩しく差し込んでくる窓の下にベッドを置いたのは、寒がりで
早起きが苦手な大佐の為。
 カーテンも引かない剥き出しの窓の向こう。
 はらはらはらと、真っ白い雪が舞っていた。
 「これは……寒いはずだ」
 寝入るまではタイマーの設定で暖房をつけてあったが、気管支が弱い大佐を気遣って寝ている
最中は暖房を切ってある。
 朝起きる頃には、また暖まるように設定してあるのだが。
 部屋の中で吐く息が白いのは、あんまりだろう。
 暖房を付けに行こうと、カーディガンに手を伸ばせば。
 「……ど、した……ヴァトー?」
 大佐を起こしてしまった。
 「すみません。起こしてしまって」
 腰を屈めて瞼に唇を寄せる。
 くすぐったそうに笑んだ唇にも、一つ。
 「暖房を付けておこうと思いまして」
 「……こんな時間にか。珍しいな?」
 「雪が降っているようなので、部屋の中の気温が下がりすぎているんですよ」
 首を横に倒した大佐が、窓を見つめる。
 「降ってるな」
 ゆっくりと身体を起こすので、慌てて抱き抱える。
 「駄目ですよ!寒いんですから」
 「いいさ。お前を着る」
 羽織っていたカーディガンの前を寛げて背中を預けてくるので、蒲団を胸の辺りまで引き上げ
て抱き直した。
 

 「本当に貴方は、困った人ですね」
 「そうか?そんなところだって好きだろう?」
 「ええ。好きですよ。寒くて足をきゅっと絡めてくるところとか。猫さん部屋履きしますか?」
 笑いながら囁けば。
 「……いい」
 むすっとした返事があった。
 ヒューズ中佐が贈ってくれた、真っ黒な猫を形取った部屋履きは寝室に置かれている。
 暖かさが気に入っているんだ!と本人は言うが、実は可愛い動物好きで私の目を盗んでウキ
ウキと履いているのを知っていた。
 屈み込んで微笑みながら、猫の耳に触っているところを見た日には、思わず中佐に報告したく
なってしまう、幼さだ。
 「お前を着るからいいんだと言ってる!くすくす笑うな!」
 「はい。申し訳ありません」
 素直に謝れば、ん、と頷いて再び、窓の外へ目をやった。
 釣られて見れば、真っ白い雪が後から後から舞い降りてくる。
 明日の出勤の際運転には十分な注意を払わなくてはならないだろう。
 30分ほど早く起きて、タイヤにつけるチェーンを倉庫から探し出す必要がある。
 ん?雪道を慎重に走らせるならば、30分は早く家を出た方がいいか。
 きっと時間通りに間に合うのは、寮に住まうフュリーと生真面目な性質の中尉ぐらいだろうけ
れど。
 ここの所遅刻続きで落ちまくっている大佐の株を、この辺りで上げておいた方が中尉の覚え
はいいだろう。
 「ヴァトー?」
 腕の中の温もりを抱えて、真っ白い雪を眺めながら、つらつらと考え込んでいると、大佐が私
の顔を見上げてきた。
 「寒いですか?あたたかいブランデーでも淹れましょうか」
 部屋はなかなか暖まらない。
 まだ、雪見を楽しみたいのならば、身体を中から温めた方が良い。
 「ブランデーか……」
 「飲めば朝までぐっすり眠れますよ」

 「いや……やめておく。起きるのがつらくなるからな」
 「そうですか」
 我知らず微苦笑が口の端に上る。
 朝が苦手な大佐はどんな飲み方をしても次の日に酒が残ってしまう。
 眠くて仕方なくなってしまうのだ。
 「どうして、そこで笑う!」
 「いえいえ。笑ってなぞ」
 「ほら、また笑ったじゃないか!」
 子猫のがすねたように肩口に、かしっと、極々軽く歯が立てられた。
 私の体の上馬乗りになってしまったので、慌てて毛布を引き上げる。
 「駄目です。風邪をひきますから」
 「……笑ったよな?」
 しつこく尋ねてくる大佐に私は白旗を上げた。
 このままでは堂堂巡りになってしまいそうだ。
 大佐は時折、とても押さない所がある。
 「……笑いました。だって大佐可愛らしいですよ?」
 包んだ毛布ごと抱き締めて、額に唇を寄せれば。
 「可愛いって、お前なあ?」
 頬に赤みが差した。
 「顔、赤いです。照れてるところも好きですね」
 「もういいっつ!」
 肩に顔を埋めようとするのを唇で触れることで引き上げて、唇を啄ばむようにして口付けれ
ば。
 「……おやすみ、ヴァトー」
 私の唇を舌先でなぞる口付けが届いた。
 「おやすみなさい、ロイ」
 「ん」
 頷く体から毛布を一端外して、私の体ごと大佐の体を包み直した。
 慣れた風に私の腕の付け根に頬を預けてくる大佐の旋毛をそっと撫ぜ、私も静かに目を閉
じた。



                                                   END




 *ファルマン×ロイ
  き、近年まれに見る甘さでした。はあ甘々。
  同じ設定でハボロイやヒューロイでも書いてみたいくらい好きです。
  雨でもいいんですけどねー。
  部屋の中で二人きり、Hなしでおねむじゃないってー設定もいいなあ。
  書きたいものがたくさんあって困りますのう





                        
                                  


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