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 金曜日

                                              
  夜に目が覚めた。
 ちょっと、喉が渇いたからだと思う。
 ベッドから降りて、おじさまが買ってくれたうさぎさんのスリッパを履いておトイレに行く途中で、
ママとおじさまの声がした。
 大人の話だから、邪魔しちゃ駄目ですよ、ってママは言うけど、気になるんだもん。
 私は、そっとリビングのドアに凭れかかって、耳を澄ませる。

 「……マスタングさん。もう少しご自分のお体を大切になさってください」
 マスタングさんは、ロイおじさまのことだ。
 ママはおじさまを、そう呼ぶ。
 マースパパは、ロイって呼んでいたから、私も同じように呼びたかったんだけど、ママが駄
目っていうから、おじさまって呼んでいる。
 「こちらへ伺うのは、良い気分転換になるんですよ。美味しい食事も頂けるし」
 「……でも、眠りは浅い、違いますか?」
 ママの声がちょっとだけ、低くなる。
 怒っている時の声だ。
 「眠るのはどこでもできますから」
 「ホークアイさんに聞かせてあげたいセリフね?」
 「それだけは勘弁してください」
 かちゃ、とティーカップを置く音が聞こえる。
 ママはお酒をすすめるんだけど、おじさまは紅茶ばかりを飲んでいる。
 お酒を飲んだ方が、よく眠れるのにね、とママはよく私に話してくれたけど。
 おじさまは、お酒を飲むと怖い夢を見るから、紅茶の方がいいんだって言ってた。
 「エリシアを可愛がってくださるのも、マースの代わりをしてくださるのもとても、嬉しいけれど。
  マスタングさん。貴方が優先すべきことは他にあるでしょう?」

 「大丈夫……わかっておりますよ」
 「頭ではね?でも身体はついてこない。違いますか」
 「……マースと話しているようですよ」
 おじさまが、何だか楽しそうに笑っている。
 ママは困ったように、でも笑って。
 「マースから、貴方のことはよく聞きましたから。目を離すと、無茶をするからと」
 「エリシアちゃんと、一緒ですね」
 「それより性質が悪いでしょうに」
 ママはおじさまの手の取った。
 ぽんぽんと手の甲を叩いて。
 「……ロイ?」
 優しく、おじさまの額にキスをした。
 私にいつもしてくれる、おやすみのキスみたいに。
 「本当に、ね。無理はしていないんですよ、グレイシア。ここにいると、私はただの、ロイで、
  マスタングで……おじさまでいられる。息が、つけるんですよ……これでも」
 「これでも?」
 「ええ」
 おじさまの目を真っ直ぐ見ていた、ママがふっと肩の力を抜いた。
 「……貴方も、マースも困った人達だわ」
 「男ですから」
 「性格だと、思うのだけれど。二人とも、よく似ているもの……わかりました。あの人の遺言
  でもありますから、私は黙って見守ります」
 「ありがとうございます」
 ママの手を握り返したおじさまは、手の甲に、優しくキスをして、笑う。
 いっつもエリシアにくれる、笑顔と一緒。
 「あまり無茶はしないようにしますよ」
 「心配している人間が、たくさんいることを忘れないでね?」
 「ええ。こんなに小さな子供にまで心配させてはいけないですから……起こしてしまったの
  かな、エリシア?」
 「え!」
 何時から気付かれていたのだろうか。
 「あら、起きてしまったの、エリシア?」
 「お、おトイレに行って来たの!そしたら、声がしたから」
 「おや、盗み聞きとはレディらしくないね」
 「だって!気になったんだもん!心配したんだもん!」
 おじさまが大好きだから、無理して欲しくないし。
 ……でも一緒にいて欲しいの。
 「ああ、ごめんね。私の言い方が悪かった。心配してくれたんだね」
 寝気べそを掻きだした私の体が軽々と抱え上げられる。
 目の高さまで持ち上げられて、瞼にキス。
 「一緒に寝てもいいかな、グレイシア?」
 「ええ。でも狭くないですか」
 何度かあったけれど、私のベッドはおじさまには小さすぎる。
 くるって丸まって寝てるおじさまも、何だか可愛いのだけれど。
 「……エリシア。私のベッドで一緒に寝てくれるかい?」
 おじさまのベッドは広くって、おじさまの匂いがして、好き。
 「よろしくてよ?」
 「ははは。幼稚園で覚えてくるのかな?レディの口調だね」
 「ふふふ。それじゃあ良い子でね、エリシア。また明日。マスタングさん」
 「ええ、失礼します。おやすみなさい」
 バイバーイとおじさまの腕の中でママに向かって手を振る。
 おじさまに抱っこして貰いながら、歩くとゆらゆらっとするのが好き。
 このまま、ずうっと抱っこしてくれていたらいいのになって、思う。
 「このまま抱えて寝てあげるから、いいんだよ。寝てしまっても」
 おじさまの寝室までは、あとちょっとなのに、瞼がどんどん下がってきて空けていられない。
 「ロイ……おじさま……」
 まだおじさまの、お顔、見て、いたいのに……。
 「おやすみ、エリシア」
 頭を撫ぜてくれる掌が温かくて、優しくて。
 私は、ベッドへ戻るまでもなく、心地良いおじさまの腕の中で、眠ってしまった。
 



                                                     END




 *エリロイ。
   これで私も晴れて、エリロイ同盟に参加!……したいなあ。
   二本にか書いてなくてもいいかなあ。ん?三本だった。
   この二人が将来的に出来上がっても、
   エロに持ち込む気にはならないのが自分でも不思議。
 
                                   



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