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 名前を呼びながら、思い切り腰を突き出して射精をした。
 「…全身真っ赤、ですね。気分は……悪くないですか?」
 言葉を乗せるのもだるくて、一度、もったりと首を振る。
 「ベッドで少し横になりましょう。すみません。調子に乗りすぎました」
 シャワーのコックが捻る音が、ぼんやりと届く。
 生温くも心地良い穏やかな雨が、全身の気だるさをゆるやかに落としてくれた。

 「はい。お水。飲んで下さい」
 アルフォンス君が水が並々と入ったコップを差し出してくれたが、受け取るのが億劫なほど、
体が言う事をきかない。
 「……本当に、しすぎました」
 しょんぼりと落ち込んだ声に薄く目を開ければ、彼が水を口に含む所だった。
 何とか腕を上げて、首筋に腕を回す。
 触れてきた唇から、水を口移しで受け取った。
 冷たい水が気持ち良く、喉を通ってゆく。
 「もっと」
 「はい」
 律儀に頷いて。
 私の背中を腕で支えながら、もう一度。
 今度は小さな氷も、入っていた。
 残った氷を口の中で、かしょっと砕く。
 広がる冷気に、頭も幾らかすっきりした。
 「どうです」
 「ん。少し、楽になった」
 「すみませんでした。これでは明日少尉に怒られてしまいますね」
 額に口付けが届く。
 おやすみなさい、の口付けだ。
 私は慌てて離れようとする彼の手首を掴んで引き止める。
 「私が!悪かったんだ。年甲斐もなく、君をたくさん欲しがったからっつ」
 「年甲斐もなく、は余計ですよ。それに答えてしまったのは僕ですし」
 苦笑したアルフォンス君は、ベッドの端に腰を落として、額に掌をあてれくれる。
 今は私よりずっと低い体温が心地良かった。
 「おでこ、冷やしておきましょうか」
 「君がもう少し、こうしてくれればいい」
 「……駄目ですよ。今度は僕の熱が移ってしまいます。まだ、貴方が欲しくて仕方ない状態
  ですから」
 「私も、欲しいよ?」
 私がねだれば困った風にして、それでも何時だって答えてくれる優しい子。
 「……添い寝で。我慢して下さい」
 バスローブを羽織っただけの体が、私の隣に滑り込んでくるので、すぐさま抱きついた。
 「ロイっつ!本当に。駄目です」
 ぎこちなく背中に回った腕。
 胸元に引き寄せられて、私を欲しがる激しい心音を耳にする。
 「駄目、です。僕は貴方を壊したくないですから」
 「壊して、くれていいんだよ?」
 それは私を本当の意味で独占する君だけの特権。
 だって今の私には、それぐらいしかしてやれない。
 多くは望まない君の、数少ない望みを何時だって、満たしてあげたいのだ。
 「愛情故の言葉だって、わかっていますけど。怖い、セリフですね」
 「怖い、かね」
 「怖い、です。出来てしまう自分を知っているから」
 私を眠りにつかせようと、優しく全身を投げ回る掌。
 「アル君?アル……く、ん」
 「眠って下さい。何時か貴方が僕だけの物になってくれる日も来るでしょう。気は長い方です。
  我慢しますよ」
 「そんな、日。来る、か……なぁ」
 「来ますよ。来てくれなければ、さすがの僕でも困ってしまいます」
 そうだね。
 何時か、来るよね。
 全てを精算して、君だけを愛せる日が。
 何時か。
 くる、よ……ねぇ?

 『そう、祈ってます』
 眠りに落ちる寸前アルフォンス君の、真摯な声が聞こえた。
 祈りが届かない事を、知っているような、悲しい声だった。

                   


                                       END




 *アルフォンス×ロイ
  長かったなぁ。最初から悲恋にするつもりではあったんですが。
  こんなに長くなるとは思いもよらず。
  ちなみに、続きを書くつもりは今のところありませんが、
  この二人の微妙な蜜月は、ロイたんの死によって終わりを迎えます。
  書くとしたら、アル視点だよなーとか思い始めると、書きたくなるので(苦笑)
  封印、封印。




                                          
   
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