「優秀な人間は引っ張りだこだけれども。我儘も通りやすい。君が望むならば、私の下で
働く事も可能だろう」
「……でも、駄目なんですよね?」
「……君が私の恋人でなくなることに耐えられるのならば、構わないよ」
私が、駄目なのだ。
軍で覇道とは名ばかりの非道な道を行く姿を見ない人間にこそ、癒される。
「それだけは、嫌です。貴方が恋人でないならば、僕が生きる意味もない」
「……すまないな。アルフォンス君」
いい年をした男の我儘につき合わせて。
君ならば、イイとそうは思うけれど。
拒否するのならば、私はきっと違う誰かを求めるだろう。
君と居るほどに、心満たされないとわかっていても。
「いいんです。四六時中側は居られなくとも、貴方がここへ帰ってきてくれるのならば」
「帰って来るよ。君が、大好きだからね」
血塗れの私を知らない君の前なら、私も極々普通の人間のようにして、いられるから。
正気を保つ為の、最後の砦。
「……大人はずるいですね。いや、貴方がずるいんですかね?平気で嘘をつく」
「嘘はついていないよ」
「僕を、愛してなんかいないでしょう?必要としているだけで」
「アル、フォンス君?」
「それだけで満足しなければならないなんて、頭では分かってるですけど……すみません。
まだまだ僕は子供ですね」
泣きそうな瞳で、真っ直ぐに私を見ないで欲しい。
君を、泣かせたいわけではないのだから。
「一緒にバスに浸かりましょう?背中、流して上げます」
「そうだね。一緒に入るのは久しぶりだ」
「後片付けがありますから、先に入っていてください。なるべく早く行きますから」
「わかった……ご馳走様でした」
「はい。お粗末さまでした」
子供だ、子供だという君だけれど。
こんな風にすぱりと自分の感情を割り切って、仲直りの機会を与えてくれるんだ。
十分に、大人だと思うよ?
「ちゃんと肩まで浸かってますか?」
鼻歌交じりにバスの中、足を伸ばしていると、アルフォンス君が入ってきた。
研究者にしておくにはもったいない身体。
訓練をさせれば、他の人間の何倍もの早さで優秀な軍人になりえるだろう。
人材不足の軍部において、喉から手が出るほど欲しいタイプの人間は実に少ない。
私とてアルフォンス君とこんな関係にならなかったなら、軍に入るようにと勧めていたと思う。
「身体は洗ったんですか」
「いや。まだだよ。君に洗ってもらおうと思っていたから」
ジャワーで身体全体の埃を流したアルフォンス君は、あわあわのバスタブの中に入ってき
た。
お湯がしゃぱぱぱっと溢れ出る。
私の身体を軽々と抱えて、背中から抱き込むようにして座った。
普通のバスよりも少し深めに作ってあるので、完全に寝そべらなくても肩まで浸かれる。
そっと腕を伸ばせばアルフォンス君の肩も、ちゃんと湯に沈んでいた。
「今日も一日お疲れ様でしたね」
「君こそ、一日中机に向かっていたなら、肩と腰が厳しいだろう」
滅多にないが一日中デスクワークを強いられる事も有る。
そんな時、肩、首、腰の痛みは心の底から切ない。
「毎日のことですから慣れますよ。洗濯や買い物、食事の仕度や掃除なんかもしてますか
ら」
「……やっぱり家政婦さんを雇おうか。家事が君の勉強の妨げになるのは頂けない」
「大―佐―?そんなに僕を甘やかしてどうするんですか」
肩から掌指先までをゆっくりとマッサージしながらアルフォンス君が苦笑する。
「だいたい、家事が無かったらそれこそ一日中机に座りっぱなしで、」気分転換が出来ませ
んよ。家事はね。僕にとっては便利な気持ちの切り替えの手段なんですから。奪わない
で下さい」
膝裏に手をあてられ、ん?と思う間もなく引き寄せられて、足の裏に力強い指でマッサージ
が施された。
「ほら。すっごい凝ってますよ?足の裏が凝るなんて、どんなデスクワークなんですか」
「んー。普通のデスクワークなんだけどねぇ」
特に全身が凝るような緊張感に苛まれる事も、劣悪な環境で指一本動かせなくなるまで戦闘
に身を投じるなんてありもしないお気楽な日々。
イシュヴァールの最前線にいた時は、さすがに自分が壊れてゆく自覚があったけれども。
あれに比べれば、どれほど過酷な任務でも苦ではなかった。
「ここの所大きな戦闘がないから、もしかしたら身体が鈍っているのかもしれないね」
「……平和だと身体が凝るんですか?困った体質ですねぇ」
しみじみとした声音で感想を漏らしたアルフォンス君が、不意に私の両手を取り上げる。
「ではせめて。プライベートでは頑張って運動しましょうか?」
掴まれた手首がそのまま、私の膝の裏に滑り込まされて『持っていてくださいね?』と念を押さ
れた。
「ちょっと!アルフォンス君!」
首を捻じ曲げて訴えれば、そのまま唇が塞がれた。
私が好むようにと繰り返し教えてきた口付けは、何時でも私を焦らしながらも思う通りに蠢く。
「んうっつ!」
歯の裏側を丁寧になぞられて、舌先だけに、きしっと歯が立てられる。
薄く目を開ければ、慈しむような。
それでいて何もかもを見透かすような色が浮かんでいて。
愉悦にとても似ている、何か空恐ろしい感覚に捕らわれた私は、背筋を怖気立たせた。
無茶な体勢での口付けが続けられる間にも、アルフォンス君の指先が私の肉塊にそっと絡
んでくる。
まだ、性的な反応を示していなかった私の肉塊は、たったそれだけの感触で頭を擡げだす。
したい盛りの十代でもあるまいし。
と眉根を潜めてみた所で、自分の好みを徹底的に仕込んできた愛撫の手にかかってしまえば
、理性など風の前の塵に等しい。
何につけても物覚えが良く、基礎注の基礎を教えただけで簡単に応用もこなしてゆくアルフォ
ンス君が、SEXに関してだけは不得手……なんてことはなく。
私の反応を見ながら、丁寧に時折激しさを交えて加えてくる愛技の数々には翻弄されっぱな
しだ。
「ロイ?目を開けて下さい」
ダイレクトに肉塊に施される刺激を逃さないように、視覚を遮断していたのだけれど、こんな
時アルフォンス君の命令に限りなく近いおねだりは絶対だった。そろそろと目を開ける。
唇が離れて、再びアルフォンス君の表情が伺えない体勢。
湯煙に歪んだ視界の先には、クリーム色の淡いバスタイル。
「僕が弄って上げてるトコ、よく見えますか?」
恥ずかしい場所に目をやれば、ちょうど良いタイミングで、項垂れて湯の下にあった肉塊が、
ゆっくりと湯の上へと顔を出す所で。
「やっつ!」
あまりの淫猥さに大きく首を振れば、耳を甘噛まれて、言葉での責めが展開される。