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 「どした?」
 「いえ……貴方が好きだなーと思いまして」
 「泣くほどか」
 「え、泣いてましたか、私」
 「自分で気がつかねーとは重症だ」
 呆れよりも、寂しさよりも、慰める色が強い口調。
 「何か、こうね。目まぐるしく変わってゆく日常が、ちょっときついかなって時に。変わらない
貴方がいて、くれたから」

 このままでは、致命的に、嵌る。

 「感極まってしまいました、ってね」
 「茶化さんで、いいさ。お前さんが意外に感激屋なのはよく知ってる」
 何もかもを知られている、安堵。
 狂っても尚、見届けて貰えるだろう。

 ハボックが、元に戻って。
 変わらずに、私を愛してくれたとして。
 私は先生を手放せるだろうか。
 や、手放せないまでも、抱かれないでいられるだろうか。
 身軽だったハボックと違って、先生との関係は元々が不倫だ。
 元々私は、その手の禁忌が薄い。
 が。
 今度は以前と訳が違う。
 ハボックも先生も身軽になり。
 私が選ばねばならない立場なのだ。

 「……あんな、マスタング。あんまり深く考えるな。なるようにしかならんのだ」
 「でも、先生」
 「どーしても、考えたいってんなら。終わってからにしてくれや?せっかくお前さんが勃起させ
てくれたのが、萎んじまうだろう」
 「ぶっつ!萎むはないでしょう、萎むは」
 揺らぐ思考が、一瞬で霧散した。
 全く、我ながら現金だ。
 「どうだか、わからんぞ?俺も久しぶりだしなー」
 「じゃ。先生のが萎んじゃう前に、入れますね」
 「ああ、そーしてくれや」
 尻の肉を、ぐっと掴まれたのに急かされつつ、すっかり硬くなった先生のアレを入り口に押
し当てる。
 先生の先端と私の入り口が同時に、ひくんと蠢いた。
 先端を潜らせるのがキツイと思っていたが、どれほど私の中は爛れていたのだろう、あっさ
りとしかも一息で括れの部分までを、飲み込んでしまった。

 「ああっつ!」
 甲高い悲鳴に、自分でも驚く。
 しかも、先生を迎え入れた途端、射精してしまったとあっては。
 「……忠犬は、こっちにも従順だったんか?」
 「ハボックと、しても。ところてんは、あんまり、なかったです、よ?」
 「一度もねー訳じゃないんだろうさ。全く、妬けるねぇ」
 他の、男の影が見えるというのは。
 耳朶を噛まれながら、囁かれて、またしても、ぴゅくんと精液が飛ぶ。
 この人には、言葉でもいかされてしまうのだと、久しぶりに実感した。
 「今は、センセ、だけです……しないで、下さい…こんな、時に。他の、男の話なんて…」
 先端を入れた状態で動いてもくれない先生に、焦れた内部が貪欲に締め上げて、もっと奥
へと誘おうとしている。
 「それもそうさな。ルール違反だ……俺も、考えるなっつった口で、良くいうよな」
 困った風な苦笑。
 自分の感情を抑えかねているようで。
 それだけ、私に執着してくれているのだと、信じられて。
 また、中がじんわりと濡れてくる気がした。
 「でも、ま。俺も男だし。嫉妬ぐらいするさ。あいつにゃ勝てんだろうしな」
 「え?」
 「お前はたぶん…奴を信じているんだろうけど。普通に考えたらわんこの復帰は絶望的だ。
  となると、想い出は綺麗なもんだからな」
 「っつ!」
 考えないように、している。
 ドクター・マルコーが見つからない限り。
 見つかっても、あの治癒系最高峰と言われる結晶の技がハボックに発動されない限り。
 ハボックが私の側に侍ることは無いのだと。
 そして。
 「あーわるかった。そんなに涙を零すな。奥を、たくさん掻き回してやっから」
 伝い落ちる涙を下から上へと舐め上げられて。
 ずずんっつと、奥まで貫かれる。
 「あんっつ。せん、せっつ?」
 「いいから、奥に、集中して。とことんまで喘いでろ。嫌な事は今だけでも忘れて、な」
 奥を何度か突かれて広げられて、入り口すれすれまで一気にアレが後退する。
 入り口の部分をめくり上げられる、ゆるい突き上げが続く。
 これをされると、先に広げられた奥が疼いて仕方なくなってしまう。
 久しぶりにしても、私が一番好きなやり方を忘れない先生の行為の甘さに、鼻の奥がつん
となった。
 
 私が泣いた理由は、先生が指摘してことではない。
 もし、ハボックがいなくとも、先生さえいてくれるのら、大丈夫だと。
 思ってしまった自分の、薄汚さが、情けなかったのだ。

 「ほら、考えるな……ロイ…」
 囁いて、また奥を掻き回される。
 慣れ親しんだリズムは、私の澱んだ思考へと誘ってゆく。
 「せんせぇ……」
 何も考えたくないと口付けを求めれば、情熱的なキスが返ってくる。
 あまりの甘さに、また、目頭が熱くなった。

 ああ、私は。
 どうしたら、この人に。
 溺れないでいられるのだろう。




                                                      END




 *ノックス×ロイ
  焼けぼっくいに火がつくと、なかなか消えないんですよねん。
  という話を書きたかったのですよ。
  完全復帰をとげたハボックを交えて三つ巴の話も書きたいなーとか言ったら、
  やっぱり引かれてしまうんでしょうね。
  マイナーな自分が憎いです。くぅ。
                
                      

          
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