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 暴風雨

 窓を激しい雨が叩く。
 こんな日、私は無能に成り下がる。
 焔が得意というだけで、他の攻撃的錬成ができないわけでもない。
 が、上官が無能な面を持っていると、殊のほか部下はよく働く。
 今日もまた、私の忠実な部下達はこの部屋から一歩も出るなと、言い含め。
 とてもじゃないが机の上には、一日で終わらない量の書類が幾つモノ山になって積まれてい
た。
 自分達は外へ出て、無能な上司のために入り回っている。

 私に優しく、仕事のできる人の良い部下達は、誰一人。
 こんな状況を想像してはいないだろう。

 「部下だけを働かせて、自分は自慰に耽るってのも凄いやね」
 普段は私が座っている大佐仕様の、それなりにスプリングも利いた椅子の肘掛に手をおいて
、足を投げ出すようにして座っているのは、私の小さな暴君。
 「たくさん、女の人鳴かせてるなんて。とてもとても思えないね」
 鋼のが命じるままに、私は泥で随分と汚れた靴を丁寧に嘗め上げながら、
己の肉塊を扱いている。
 「鋼のっつ」
 早く鋼の自身を銜え込みたくて、下から訴えかける。
 嘲りに満々た声音が頭の上に降り注ぐ。
 「んと、堪え性がねーよなあ。でもまあ、靴は綺麗になったみたいだから?靴ぐらいは脱がせ
  てもいいぜ」
 言われて、早速厚底の軍用ブーツを脱がしにかかる。
 片手は自慰を続けなければならないので、空いた手で脱がせなければいけないのだが、これ
がどうにも難しい。
 元来あまり手先が器用でないのも災いしてか、時間がかかってしまう。
 「あんた。本当に不器用だよね?」

怒っているのかと思って見上げれば、どこか物悲しい色を湛えた金色の瞳。
 黄昏た空に残された最後の輝きは、底抜けに明るいはずなのにどこか郷愁を誘う。
 それはきっと、闇を知る彼には相応しい色なのだろうと、最近は思っている。
 「これでも、頑張っているのだがね。片手がふさがっているから、精一杯だ」
 「んな、阿呆なコト言ってるわけじゃあねーよ」
 髪の毛がぐいっと引っ張られる。容赦ない強さにこめかみが攣った。
 「俺なんかに、いいように利用されてっからさ」
 「……利用しているのは、私のほうだよ?鋼の」
 私が唯一弱みを見せられた人間は、もう、いない。
 代わりに一歩踏み間違えれば、鋼のが犯した禁忌の闇に身を投じてしまいたくなる、自分がいて。
 狂気に走らないよう。
 狂喜を、覚えぬよう。
 鋼のに恭順して見せ、容赦なく屑扱いされて、どうにか正気を保っていられる。
 こんな幼い子供にも、踏み躙られる存在の自分が、犯せる禁忌などないのだと、思い込んで。
 「ふうん?本物の変態だったんだな、あんた。錬金術師としての俺は、然程あんたに貢献して
るとは思えない。賢者の石を探して無茶な放浪ばっかしだ。むしろ足手まといだろうさ」
 その通りだと告げぬ代わりに、引き攣れたままの表情に微笑らしきものを浮かべようと苦心
する。
 「ってーことは。こうやって虐げられるSEXがいいってことだろう」
 「ああ、そうだよ」
 躊躇いも無く頷く。
 見るものが見れば、猟奇的にすら見えるだろう行為の数々によって、私は生き長らえるの
だ。

 全ては、ヒューズを死なせたが故の責め苦だと考えるならば、生ぬるいくらい。
 私の存在なんかより、ずっとずうっと皆に愛されていたたった一人の私の親友。
 「愛しい君に、踏み躙られて快楽を覚えるのさ、私は」
 お前を失った痛みを、苦しみを、暗い愉悦に変えねば、約束を果たせそうになくて。
 「いいんだぜ?無理に『愛しい』なんて使わなくても。俺だって『愛しい』相手は他にいる」
 やはり、同じ様に壊れかけた心を抱える鋼のに、みっともなく縋った。
 「アルフォンス君?」
 「いや」
 「では機械鎧技師の……ウィンリィちゃん?」
 「違うな」
 と、なると。
 一体誰だろう?
 四六時中一緒にいる部下達とは違って、鋼のと共に有る時間は短い。
 私の知らない場所で、慈しむ相手を作ったのだとしても、何ら不思議でもないのだ。
 「あんたも、よく知っている人間だよ」
 「私も……?」
 部下達の一人だろうか?
 まさか大総統というはずもあるまい。
 「俺が愛しいのは、その人だけさ」
 諦めた声音は、らしくもない弱気を伺わせる。
 想いが届かない相手なのか。
 「んだ?もう滴ってるぜ。俺が出す前にいけるなんて思うなよ」
 興奮しきった肉塊が、足の先で踏まれる。
 「つうう」
 「痛くなんかねーだろ?被害者ぶってねーで。可愛らしく鳴いて見せろよ。んじゃなきゃ、
  俺が勃起できねーよ」
 ズボンのポケットの中から細い紐を取り出して、己の肉塊に巻きつける。
 根元を硬く縛り上げるのには、かなりの集中力と忍耐を要した。
 赤い紐を肉塊に絡ませて悶える私の姿は、鋼の目にはどう映っているのだろうか。
 「そうそう、良い子にしてれば、ちゃんとにくれてやる」
 鋼ののベルトに手をかけようとして、ぴしゃっと撥ね付けられた。
 「だれが、んなことしろって言った?俺のを銜える前にすることがあるだろうが!ああ?」
 「……はい」
 私は、完全に勃起してしまった肉塊がなるべく擦れないようにして、執務机の上に上がった。
 「そうだな。靴は履いたまま。後は全部脱ぎな」
 書類他雑多なモノを両側に避けると、隙間に横たわる。
 靴と靴下を履いたままズボンを脱ぐのはなかなかに難しい。
 「あーちんたらやってっと、やぶくぜ……ってーか、いいなそれも。軍服の替えなんて、腐る
  ほど持ってるんだろうしなあ?」
 機械義手の手が、ズボンの裾を掴めば、それなりに丈夫な生地を使っているはずのなのに、
太ももの上まで縦に裂けてしまう。
 反対側も同じ様に破かれて、ジッパーのあたりを掴まれれば、下着までもがゴミ屑になった。
 「これで、すぐ脱げるだろう?」
 脱ぐというよりは、くっついているものを剥ぐといった方が正しい。
 身体についている布切れと化した、ズボンと下着を取り除く。
 すぐさま上着も脱ぎ捨てて、幾つかのボタンを飛ばしながらワイシャツも床に落とした。
 「そうそう。それぐらい早く脱いでくれないとな」
 




                 
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