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 「ひ、あ!」
 自分では決して触れられない場所を犯されて、堪えるまでもなく射精してしまう。
 「はー。いい大人が、どうして先にいくかなぁ。だいたい俺、いっていいなんて、一言もいって
  ないんだけどさぁ」
 いったばかりの肉塊をぎゅっと握られて、嫌悪がざわざわと走り抜けた。
 「……鋼の……いた、い……」
 「当たり前だ。俺より早くいったんだ。お仕置きだぜ?ほら、ちゃんと腰振っていかせろよ?
  んじゃなきゃ、これ、もっと強く握るぜ」
 射精後の勢いに任せて腰を振れば、難しくもないのだが、今は愉悦よりも痛みが深いので、
切り替えが難しい。
 が、そうも言っていられないだろう。
 今の所、鋼のの手の中でしかいかない肉塊だが、握りつぶされるわけにもいくまい?
 私は深呼吸をして、太ももを高く持ち上げて鋼のの首に巻きつける。

 目線は鋼のの胸辺り。腕の付け根。オートメイルとの境目ぐらいでも良い。 
 あくまでも、縋る色を忘れずに。愉悦よりも羞恥を多分に。
 鋼のはきっと、私がこんな風に馬鹿げた計算をしているのには、気が付いていないのだろう。
 言葉で私を追い詰めようとするだけ、立派なものだ。
 その心根の奥までは見透かされたくは無い。
 見透かされて、溜まるか。
 それが私のプライドといえば、そうなのかもしれない。
 ほ、と一つ吐息をついて。
 私は鋼のが射精できるように、腰を振って強引な抜き差しの手助けをする。 
 入り込んでくる時は力を緩めて、出てゆく時はぎゅうっときついくらいに締め付けるのだ。
 幾度となく繰り返されて鋼の癖を覚えた身体は、スピードの上がった交接に私があえて意
識しなくとも淫らな収縮を重ねた。
 一向に収まる気配のない雨風が、いやらしい交接による啜り泣きを消してくれるのがせめ
てもの救い。
 鋼のの今は堪えることをやめた荒い息と、落ちてくる一房の髪の毛が頬に擦れて擽ったかっ
た。
 閉じていた目を薄く開けば、そこには歯を食いしばるようにして絶頂を先送りにし、額に汗を
浮かべて懸命な風情で私の身体を貪り尽くそうとする、小さな暴君の姿があった。
 何時でも必死に生きる彼が、自分の身体に溺れる瞬間が堪らなく好きだ。
 押し上げられる度に漏れる悲鳴の中で。
 私なりに君がイトシイのだと告げたなら、君はどんな顔をするんだろう。
 やっぱり、冗談じゃないって、怒るんだろうね?
 「……て、る……」
 思い立ったが吉日で、理性ではコントロールできないところで零れ落ちてゆく喘ぎに紛れて、
愛している、と囁いた。
 瞬間、訝しげな顔。
 動きは止まらずに、私の瞳を覗き込んでくる。
 私は鋼のを見詰めながら、唇を近付けた。
 鋼のの、瞳が。
 悲しそうに、歪んだ。
 ……想像の範疇外の色を見つけて、驚いた私の中に。
 鋼のの熱い飛沫が届いた。
 「は!最悪っつ」
 何がそんなにも気にいらなかったのか、鋼のは私の身体から肉塊を抜き取った。
 先端からはまだ、残った精液がほたりほたりと滴っている。
 「はが、ねの?」
 「ホントにアンタ。最悪の人間だなっつ!」
 伏せた目の端に、光るものを見つけて。
 まさか泣いているのかと慌てて伸ばした指先は、パンと掌で叩き落された。
 「俺は、アンタに“愛”なんざ望んじゃいねーんだよっつ!」
 「……悪かった」
 激しい怒りに気圧されて、私は深々と頭を下げる。
 「……では、私に何を望むんだね?」
 怒らせた代わりに、というわけでなく。
 もし、私に望むものがあるのならば。
 叶えてやれるならば、叶えてやりたいぐらいには。
 大切に思っているので、できることならば、と尋ねた私に。
 返ってきたのは冷笑。
 「言うだけ無駄だから、言わない。墓場まで持ってく」
 「でも……」
 「無駄なんだよ。あんたに望むなんてさ。てめーでもわかってるから。蒸し返さないでくれ……
  お仕置きしてやる時間もねーから。これ以上うざい真似は勘弁」
 何時にない鋼のの様子が気にかかったけれども、これ以上抱かれれば仕事にも支障がでる。
 身体の中、誰かを孕んだ気分が続いているのだ。
 ふわふわと足元も覚束ない。
 これ以上鋼のを感じさせられて、ずっとその余韻が消えるまで忘我を彷徨っていられるほど
に、暇な職場でもないし。
 「すまなかった」
 「全くだ。あんたは俺の都合の良い穴でいりゃあいい」
 穴、とは。
 酷い物言いもあったものだ。
 眉根を顰めれば、やっと嬉しそうに。
 「そうすりゃ、可愛がってもやるからさ」
 額に届いた口付けは、とても甘く。
 やわらかで穏やかで。
 常の、私達がしでかす行為の中にはなかったもの。
 「ああ、時間だ。次は……何時だろうな」
 「事前に連絡をくれればありがたいよ」
 「できる状況だったらな!」
 だらしなく下半身を曝け出す私の前に、行為の後とは思えない素っ気無さで着替えを終えた
鋼のが、私の唇をなぞる。
 「良い子に、してるんだぜ?」
 ちょん、と人差し指で唇を押して、私が返事をする前に、コートを翻して出て行ってしまう。
 力の抜けきった体から、とろとろと鋼のの放ったものが溢れ出てくるのにゆるく首を振って、
身体を起こす。
 鋼のの残した行為と言葉が、何度も頭の中に響いた。
 
 愛を望まないのなら、永遠かね?

 と。
 私が続けるつもりだった言葉を、聞いたなら鋼のは、何と応えて寄越しただろう。
 やはり怒ったのか。
 それとも呆れたか。
 先ほどのように、悲しい色を乗せるのか。

 どの道、悦びには程遠い。
 私達の関係と同じには。
 それぐらいは、私とてよく、わかっているのだ。
                                  

                               
                               
                                                      END




 *エドロイ。
   ビバ!暴君!。
   の割にロイに対して鬼畜になりきれない所が駄目っすね。
   ロイを愛していないけど、ロイは愛しているってー話も書きたいんだけどなぁ。
   自分の中の、ロイは皆に愛されてないとね!
   という固まっている思考が邪魔をします。




                 
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