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 愛人


 「ああ。そういえば言ってなかったった気がするけどなあ。グレイシアに子供が出来た」
 「……おめでとう」
 数秒前まで、抱き合っていた。
 今もまだ、身体は余韻に浸っているところだったが。
 頭だけが一気に、冷めた。
 「しかし、夫人に子供が出来た……ではなくて、子供が出来たとか、父親になるんだ、でもでいいんじゃない
  のか?二人の、子供なんだから」
 「作業は二人だけど、孕むのはグレイシアだからな。別におかしい物言いじゃあないだろうさ」
 作業ハ、二人ダケド。
 「そうか。お前がいいというのなら、それでいい」
 孕ムノハ、グレイシア。
 抱き合った数なら、私の方が上で。
 これから先も、ずっと上のままだろう。
 ヒューズは結婚する前から、グレイシアには母性を求める傾向にあった。
 それは、多分。
 私という存在があったからだろう。
 「……どうした?マスタング」
 「……わかっているだろう?と、言わせたいのか、マース」
 時折。
 試すような、物言いをする。
 グレイシアと結婚しても、変わらなかったこの関係が、何よりも物語っているだろうに。
 お前は、私から更なる言葉を引きずり出して、僅かに残された誇りすら、奪おうとする。
 「別れるつもりなら。結婚した時に、別れている」
 親友としても長い付き合いで、恋人になってからの付き合いも短くはない。
 マンネリは怠惰を生み、別れ話に発展した事だって一度や二度じゃあなかった。


 その度に無理やり身体を開かれて、関係を強要された。 
 そもそも初めは強姦だったりもする。
 愛人という、今の間柄は確かに相応しい言葉もしれないと自嘲するしかない。
 「全く、嫉妬の一つもしてくれれば可愛いのに」
 額の上に濡れた感触が届く。
 そんなセリフを、嬉しそうに囁かれても腸が煮え繰り返るだけだというのに。
 「愛人がそんな感情を持っても、わずらわしいだけだろう?」
 どうして私は、この男から逃れられないのだろう。
 良い所も、悪い部分も知り過ぎて、まるで身体の一部のようで、今更切り捨てるのも億劫なのかもしれ
ない。
 「いい響きだよな。愛人。愛する人だぜ?愛だけで繋がれるなんて理想だろうよ。ガキ孕ます必要も、
  紙っぺら一枚の誓約書もねえ。お揃いに誂えたペアリングで主張しなくたっていいんだ」
 抱き合う時ですら、リングを外さない口で何をのたまうのだ、この男は。
 「好きな時に、好きなだけ、打算なく交じり合える。愛人様々だわ」
 男女の愛人関係ならば、打算も組み込めただろう。
 いっそ、愛以外の何かがあれば、楽なのに。
 「ほらほら。んな顔すんなよ。その手の顔も可愛いけどなー。お前は鳴いてる顔が一番イイ」
 気を抜けば、とろりとヒューズの吐き出したものが溢れそうな、秘所に何らかの前振りもなく、中指が根元
まで入り込んでくる。
 力の加減ができなくて、ヒューズの精液がその指先に、たらたらとまとわりつきながら滴っていく。
 「こんだけ一杯出しても、まだ足りなそうに締め付けてくるぜ?お高い大佐殿は淫乱でいらっしゃる」
 自らの言葉に興奮したのか、指が抜かれた途端、まだ萎えていない肉塊が根元まで入り込んできた。
 「うっつ」
 中はまだ、ヒューズが出した精液でどろどろだ。
 挿入に痛みはないが、心が拒否しているせいもあって、脂汗が浮かびそうな圧迫感があった。
 喜ばせるだけなので、苦悶の表情を見せないように顔を背けようとすれば、両の掌で慈しむように包み込
まれて、真正面に固定される。
 「駄目だ。イイ顔見せろよ。情けねー面。ホント。堪んねーよ。ロイ」
 羞恥を暴かれて、誇りすら踏み躙られても、イイ箇所を突き上げられれば、甘ったるい悲鳴が零れ落ちる
程度に、慣れている身体。
 「心配しなくとも。俺はお前を手放さねーよ。グレイシアが孕もうが。どんなに愛らしい子供が生まれようが、
  俺の中でのお前の位置付けは、絶対に動かない」
 「人を馬鹿にするのも、大概にして欲しい所だ……」
 口をつく言葉とは裏腹に。
 嬉しいと、安堵してしまう、自分が許せない。
 こんなにも。
 こんなにも、ヒューズに依存している自分が、どうにも許せないというのに。
 「馬鹿になんかするかよ……ただ、お前を。愛してるよ」
 ストレートに愛を囁かれてしまえば、真っ向から疑えもしない。
 妊娠した妻を置いて、愛人を抱きに来る不誠実な、男を。
 「私も……愛して、いるさ」
 絶望的に、愛している。
 「良い子だな」
 閉じた瞼に唇が寄せられてすぐさま、深い所での抜き差しが始まった。
 「……マース……」
 舌を絡めてのディープキスが続く隙間を縫うようにして、私は名を呼ぶ酷い男の愛人という立場を。
 「…マース」
 大変、残念ながら。
 私から捨てられる日が来る事は、永遠にないだろう。



   

                                         END



*ヒューズ×ロイ

 基本的に甘やかされまくるロイが好きなのですが、たまにはこんなヒューズ もいいかなーと。
 攻めが鬼畜なのって昔からのツボポイントなんですよねーしみじみと。
 いっそ、愛してもいないのに抱きまくるヒューズとかね。
 面白いかも。

                                                  



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