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 腕の中


 「ちょ!お前!ハボっつ。ここをどこだと思ってる」
 「資料室」
 「場所を弁えろ!あと時間!」
 「我慢しましたよ?陽が落ちるまで」
 言われて初めて。
 資料が傷むのを留意して造られた、光を遮断する小さな窓の向こうが暗くなっているのに、
気付かされる。
 「丸々三日間。アンタに触れなかったんだ。これぐらい。許して」
 高い所の資料を取ってくれと、背中越しのハボックに頼んだのだ。
 そうしたら、ハボックはそれまでと同じように私の背後に立って、資料に伸ばす筈の手を、
私を抱き締める事に使った。
 「抱き締める、くらい、ね?」
 と、言うが一度私の身体に触れたが最後。
 抱擁だけで、すんだ例がないのだ。
 今もまた。
 軍服の上着の上から、乱暴に乳房を揉みしだかれる。
 「はぼ。痛い」
 「嘘。痛くないでしょう?こんなに胸、張ってるの、わかってて。どうしたら、揉み解さないで
  いられるの?」
 マッサージの意味ならば、仕方ない。
 多少の痛みも我慢しよう。
 しかし、あれだ。
 上着に、ブラウスに、スリップに、ブラジャーをもろともせずに、乳首まで探ろうとするの
には、我慢できない。
 だいたい、揉み解すという表現を使っている時点で、既に奴の指先は私の乳首を弄り
倒すのに余念がないのだ。
 「……家に帰るまで、待て」
 「待ったら、フルコースさせてくれる?」
 フルコース。
 ハボックの言う所のSEXのフルコース。
 頷くにはかなり躊躇う、ハードな運動だったりもする。
 次の日、階段を上る最中に、太股が笑ってしまう、あの恥ずかしさ。
 できるならば味わいたくない代物だ。
 「即答してくれないんなら。ここで、舐めるまではしますよ」
 こいつの舐めるまでは、私を。
 私だけをイかせるのと同様の意味を持つ。
 どっちがより楽だろうと考えて。
 結局ベッドの中では、絆されて、溺れて。
 奴の良いようにされてしまうのだから。
 「フルコースにしてくれ」
 そめて、この場では。
 仕事場では、自分の熱を持て余したくない。
 「素直なロイさんは、大好きです」
 くるっと、奴の腕の中。
 簡単に反転させられて、向き合う体勢。
 「大好きです。ロイさん」
 照れが先走って、好意を口に出来ない私を補うように。
 奴は何時でも、私に思いをストレートに告げてくる。
 特にベッドの中では、好きと、大好きと、愛してるの三つの言葉を好んで使った。
 以前、爛れた思考の中で数えてみたら、百を越えていてびっくりだ。
 ちなみに、三大囁きと同じくらいに言われるのが、可愛い、だったりもする。
 さして親しくない人間は、私に対して、綺麗、という形容を使う。
 関係が親密になればなるほど、可愛い、と表現する訳だ。
 こいつが、言う、可愛いは。
 本当に多岐に渡っていて、面映くて仕方ない。
 唇に軽く、頬にはもう少し長く、額には更に長く唇があてられて。
 最後にぎゅうっと、締めの抱擁。
 「はい。どうぞ、資料」
 途端に、素っ気無いくらいの部下の態度で接してくる。
 この切り替えの早さが、ちょっと悔しい。
 私はまだ、奴の抱擁の余韻が下肢を甘くする程度には、残っているというのに。
 じっと奴の目を見詰める私を見詰め返した奴の目の端が、やわらかく撓むのがどうにも、
口惜しくて。
 ただの八つ当たりだと、心の中で自覚しつつも、奴の爪先を踏みつけてやった。





                                                      END


 

 *おお!呆気なく終わった。こーゆー日常のヒトコマの中で、いちゃらぶしてる二人が
  しみじみ好きだなぁ。この後のフルコースもはぁはぁ練成したいんですけどね(苦笑)
                                              2008/04/10



          
                                         
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