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べつに、いいよね?




きっかけは龍麻の何気ない一言。
「村雨と紅葉って、どっちが背高い?」
この時、僕は壁に寄りかかって座り、読みかけの本を開いていた。
隣には村雨さんが座って煙草を燻らせていた。
「はァ?」
村雨さんが間抜けた声を上げる。
実は僕は村雨さんのこの時の声と顔が好きだ。
大抵、龍麻がするんだけど、意表をつくような質問をされたときに偶に見せる。
それは、何時も大人びて見える村雨さんを年相応に見せて、なんだか……可愛く見える。
一度言ったら怒られたから、言わないけどね……。

「だから、身長!!」
じれったそうに龍麻が叫ぶ。
何を考えているのかは知らないけど、「僕は、180だよ」とりあえず、答える。
後は村雨さんのを聞けば、答えが出るだろう。
でも、同じぐらいだと思うけど……。
案の定「壬生と同じだ」の声が聞こえた。
ウーーーと唸る龍麻が可笑しくて、聞いてみる。
「僕達の身長がどうかした?」
「どうせ、先生のコトだから、変なコト考えてるんだろう?」
僕と村雨さんの問いかけに龍麻が言った。
「どっちが、足が長いかと思って……」
今度こそ本当に
ハァ?だ。
「龍麻?」
余程、ポカンとした顔をしていたのだろう。
龍麻が答えた。
「いや、2人とも同じような格好で座ってて、頭の高さがほぼ一緒だから……」
「背の低い方が足が短いと?」
途中から村雨さんが引き継いだ。
……龍麻、キミって人は。
僕が口を開こうとしたその時「ツモ!! 大三元。や・く・ま・ん」嬉しそうな龍麻の声。
「アニキ、そりゃないでーー」
「うわっ、ひーちゃんヒドイ……」
「龍麻……」
劉くんと蓬莱寺さん、それに如月さんの声が重なる。
そう、今は如月さん宅での麻雀大会の真っ最中で。

どうして、僕が本を読んでるかといえば、最初は不参加の予定だったのに、村雨さんに引っ張って来られたから。
村雨さんの方は、龍麻に蓬莱寺さんが付いてきたからだった。

「じゃ、座高は?」
すでに最下位決定ぽい蓬莱寺さんから容赦なく点棒を奪いつつ龍麻が聞いてくる。
……座高?確か、新学期の身体測定で測った気もするけど、覚えてないよそんなもの。
村雨さんも同じらしく、ちょっと眉間にシワが寄ってる。
「「覚えてない(ねェ)」」
僕と、村雨さんの声が重なった。
やっぱり……。
「…………」
黙り込んだまま手だけは黙々と動かす龍麻。
それっきり、さっきの疑問は忘れた様に麻雀は続いていた。
それを見ながら僕は読みかけの本に意識を戻した。


「なぁ、村雨。ちと、変ってくれ」
村雨さんに手招きしながら、唐突に龍麻が口を開いた。
煙草を消して近づく村雨さんに龍麻は続けた。
「勝ち分は折半。俺は用が出来たから帰る」
言うと同時に風のように去って行った。
その速さといったら……蓬莱寺さんが、多分ちょっと待てと引き止めようとしたらしい腕が、
中途半端に伸びたままなのから見ても、本当に風のようにとしか言えないぐらい速かった。
結局、その日の勝負は龍麻に毒気を抜かれたようで、やりかけの半荘を終えたところでお開きとなった。
後片付けをして、帰り支度を整える。
「それでは、また」
玄関先で家主の如月さんに挨拶をする。
蓬莱寺さんと劉くんはもう少し遊んで行くと言うので、僕と村雨さんの二人で駅に向かって歩き出した。

並んで歩く人影が二つ。
ふと、思い出したように呟いた。
「僕、結構負けず嫌いだと思うんですけど、あなたになら……負けても良いです」
「奇遇だな。俺も同じ事考えてたぜ?」



立ち止まった影が、一瞬だけくっ付き、また歩き始めた。








後日談
「村雨さん、なんだか一昨日の夜、拳武の職員室に空き巣が入ったらしいんですよ……。
あんな厳重な警備なのに良く入れたと思いません?
何も盗られてはなかったみたいですけど……」
「奇遇だな?皇にも入ったらしいぜ?昨夜。こっちも、何も盗っていかなかったらしい」
それを聞いて、二人の頭の中に一人の人物が浮かんだが……謎は謎のままにしておこうと思った。





End




さ、最高ですっつ。
こういう普通の高校生っぽい話大好きです。
普通の話が当たり前に書ける、もう、これが最強だと思うのですよ。
ありがとうございます。syo-ta様♪
初の頂きモノSS。
喜びも一入山盛りっ。
タイトルは、思い浮かばなかったという事で綾瀬が勝手につけてみました。
後日談もひっくるめての、タイトルってーことで。
syo-ta様の作品イメージを崩してないといいなー。






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