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  誤解です!



 「それだけは、勘弁して下さいっつ!」
 「ええ。いいじゃないですか。お願いしますよ。菊さんは、小柄で可愛らしいから絶対にバレ
  ませんって!」
 「そういう問題じゃありません!」
 ベッドの中。
 必要以上に体重をかけないよう本田の上に圧し掛かかって、それはもう愛らしくねだって
こられたが駄目なものは、駄目!
 「僕。相手が菊さんだったら、絶対に優勝できると思うんですよ」
 目をきらきらと輝かせる様は眼福以外の何物でもない。
 願いを叶えてやりたくなるが、ここは心を鬼にする。
 「……私は貴方の奥様ではありません!」
 「恋人です。らぶらぶです。立場上籍が入れられないだけの話でしょう? 結婚式とかしたら、
  ドレス着てお嫁さんになってくれます?」
 「ベールさんじゃないんですから……」

 ヴァイナマイネンに告白された時。
 まず浮んだのはオキセンスシェルナだった。
 彼とヴァイナマイネンの仲の良さは有名で、オキセンスシェルナの強面も同じ位に有名だ。
 『あの? ティノさんはベールさんとお付き合いされているんじゃないんですか?』
 元枢軸のヴァイナマイネンとは、当時距離もあって然程親しくはなかったが、それでも本田が
国際社会に復帰した際、向こうから歩み寄って来てくれた。
 オキセンスシェルナは中立の立場を崩さず大戦中に本田の説得を買って出た経緯がある。
そのせいか、ヴァイナマイネンと一緒にやってきて、あのどう見ても怒っているとしか思えない
怖い顔で『ベールヴァルドは呼びにぐいがら。菊の好きに読んだらええど』と言われた時も、
恐縮しつつ受け入れることができた。
 以来二人をファーストネームと愛称で呼んできた。
 比較的仲の良い北欧組の中でも、二人がカップルというのは長くデフォルトだったので、
単純に不可思議な物を感じて尋ねたのだ。
 特にヴァイナマイネンは笑顔で二股をかけるタイプには思えなかったから。
 そして、それまで親しい友人という以外の感情を見せた例がなかったのもあって。
 『ベールさんは、関係ないです! これは君と僕の問題でしょう?』
 しかし、真っ赤な顔で怒られてしまった。
 告白を誤魔化されたと思ったのかもしれない。
 取りあえず返事を保留して、その足でオキセンスシェルナが泊まっているホテルを訪ねた。
 ヴァイナマイネンに告白された事を告げ、二人は付き合っているのではないか? と尋ねれ
ば、初めて見る笑顔を浮かべた後。
 彼はあの見た目よりも更に大きく優しい掌で本田の頭を撫ぜた。
 そして、こう言ったのだ。
 『ティノの嫁は、俺の嫁だぁ』
 ええ、わかります。
 私も二次元に嫁はたくさんおりますから! と答えたくなる当たり前さは冗談かと思ったが、
彼はそういった冗談を言う方ではなかった。
 しばらく話をするうちに、彼の中で自分の庇護対象は全て嫁になるらしいと気がついた。
 それでも二人の関係は別格に思えたので、フィンランドまで足を運びヴァイナマイネンに、
断りの言葉を告げに行ったのだ。
 『好意はありがたいですが、お二人の中に入るつもりはございませんので』
 と。
 しばしの、沈黙があってヴァイナマイネンがゆっくりと顔を上げた。
 フィンランドは日本とは比べものにならないほど寒いので、部屋の中は充分過ぎる暖房で
温められていたのだが、部屋全体の空気がすうっと数度下がったような気がした。
 見た事もない、怜悧な顔だったのだ。
 『僕自身が嫌いとか、興味がないとか。そういう訳ではないのですね?』
 声もまた、聞いた事のない声だった。
 地獄の底から地上にある者へ話しかけるような、憐憫と憧憬と憎悪が入り混じった風にも
聞こえる複雑な音色。




                                    続きは本でお願い致します♪
                                      ティノ菊を書こうとすると、
                     やはりベールさんの存在は無視できないだろう……。

                                     と、悩んだ結果。
                                           こんな風合いに。





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