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  ……ガキ。



 これはチャンスとばかりに参加した悪趣味なパーティーの。
 あまりの後味の悪さに一人で居る事に耐え切れなくなったジョーンズは、その日。
 気が付けばカークランド低を訪れていた。
 自分でもよくわからないのだが、こんな爛れた気分の時にはカークランドか菊の元を訪れる
のがいいと経験上理解している。
 アポイトメントなんか当然取らずに押しかけたけれど。
 カークランドは何故か、何時ものお小言と表現するには、鬱陶しい責めを全く口にせず、
あっさりと迎え入れてくれる。
 何時もと勝手が違うのにそこはかとない不安を煽られて、おずおずとソファに腰を下ろせば、
間を置かずにコーヒーが饗された。
 銘柄はわからないが香りの豊かな高級品だと知れる。
 自分が注文をつける前にコーヒーが出てきたのは初めてかもしれない。
 普段は問答無用で紅茶なのだから。
 無言でコーヒーに口をつけるジョーンズをちらりと見やった、カークランドは己のティーカップ
に口をつけた。
 相変わらず何を考えているかわからない優雅さだ。
 カークランドは基本、感情表現が豊かでわかりやすい奴なのだが、己でそうと決めると一切
感情を読ませない存在になりかわる。
 それでも機微に聡い菊や腐れ縁のボヌフォワ辺りは、見透かせるらしいのだが、ジョーンズ
にはできない芸当だった。
 これまでのパターンでいくと、カークランドの方から何があったとしつこく聞いてくるのに、今日
に限って何一つ口にしない。
 何から言い出せばいいかわからず、しかし黙っていても事態は好転しないと踏んで、口を開
きかける。
 「あーちゃ!」
 我ながら甘えた口調の呼び掛けは、実に珍しいベルの音で掻き消されてしまった。
 カークランド低を訪れる存在は少ない。
 ジョーンズ以外では菊と、ボヌフォワぐらいだろう。
 今はそのどちらとも顔を合わせたくない。
 腰を上げかければ、カークランドが掌でジョーンズの動きを制した。
 滅多に向けられない冷ややかな眼差しに、またしてもまごついている内に、カークランドは
玄関に訪れた者を迎えに出て行った。
 程なくして、カークランドのものではない荒々しい足音が響いてきた。
 想像していた二人はこんな風に激しい感情を現わさない。
 ほっと胸を撫ぜ下ろす最中、部屋の中に入ってきた影に、ジョーンズは大きく目を見開いた。
 そこには先に想像していた二人よりも遥かに、怒気と縁遠い男が居たのだ。
 「アルフレッド・ジョーンズ」
 彼に。
 フェリシアーノ・ヴァルガスにフルネームで呼ばれたのは初めてで。
 ここまで怒りを面に出した彼にも、それ以上に、殺気だけで人間など容易く殺せそうな覇気を
纏う彼にも、遭遇したのは初めてだった。
 阿呆みたく開けた口を閉める間もなく、銃口が押し込まれる。
 あが、と抗議をしかければ、更に。
 仮にも人型サイズの首に押し当てるには大き過ぎるナイフというか、剣を突き付けられる。
 「質問に、答えてね?」
 顔に浮ぶほんわりとした笑顔は、人外をも癒すと言われる彼の笑顔と何ら変わらぬはずな
のに。
 ジョーンズの背中はべったりと冷や汗を掻いている。
 「菊に、酷い事、したでしょ?」
 心臓を鷲掴まれた気がした。
 驚愕を悟られないようにしようという、思考は瞬時に霧散する。
 隠し事は許されないのだと、それだけを刻み込まされた。
 「何を、したの?」
 瞬きをすれば、口から銃が抜かれた。
 口の中に溜まっていた唾液を床に吐き捨てる。
 彼を出し抜けないのは魂が理解していたが、それでも反射的に彼を責める言葉を乗せようした、
その瞬間。 
 首に押し付けられていた剣が、するんと動いた。
 実に優美な流れるような所作に見惚れていれば、首から生温かいものが幾筋も伝う。
 「質問の答え以外はいらない。答えて? ジョーンズ君」
 顎の下に滑り込んできた剣によって持ち上がったジョーンズの瞳に、目の前に居るフェリシ
アーノとカークランドのその表情が映った。
 同じ、顔をしていた。
 ジョーンズを、虫けらとしか思っていない、容赦ない眼差しだった。
 「ボヌフォワに、誘われて」
 「うん?」
 「菊を、菊を……」
 「集団レイプした?」
 「王が、薬使って。俺は一番最初だった。菊を傷つけちゃいけないって、約束だったんだけど。
 俺は菊を傷つけちゃったからっつ!」
 ファリシアーノの殺気が膨れ上がって、言葉が詰まる。



                                       続きは本でお願い致します♪
                                      黒伊が大活躍でごめんなさい。
                                この後鬼畜王アーサーが活躍する予定。



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