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  Fickleness



 「可哀相にねぇ、本田君」
 「……うるさいですよ」
 「同情してあげてるだけじゃない。ほら、もっとこっちにおいでよ」
 ぐいと引き寄せられた腕の中で抵抗する気力も最早失せ、だらしなく背中を預ければ、あれ? 
と首を傾げる気配がある。
 「大丈夫……菊君?」
 今度はきゅうと強く抱き締められた。
 ブラギンスキの“強く”は全く以って容赦ないのだが、今は彼らしくもなく本田を心配しているら
しい。
 その抱擁は本田が耐えられる程度のゆるい拘束になっている。
 「なんか……疲れちゃいましたよ、イヴァン君」
 浮気も愛だと公言して憚らない本田の恋人は、どこまでも奔放だった。
 度重なる浮気に耐えかねた本田が、やめて欲しいです! と意を決して言えば、うん、わかっ
たよ。俺が愛しているのは菊ちゃんだけだからね! と大きく頷いて、本田をベッドへ押し倒し
ながらも、二度と浮気はしないと約束をしてくれた。
 あまりの呆気なさに、もっと早く言えばよかったと身体を開かれながら嬉し涙を零したというの
に。
 それが、嘘だと知ったのはつい最近。
 バイルシュミットやカリエドが何か言いたそうにしているのを嫌な予感がして回避していたら、
よりにもよって一番嫌いな男にいきなり拉致られて、教えられた。
 ボヌフォワが以前と全く変わらぬ頻度で、浮気をしているのだと。
 まさか! と否定したら、現場を見せられた。
 ボヌフォワはブラギンスキと本田の仲が最悪なのを良く知っていたので、隠れ蓑に使っていた
ようだ。
 まさかブラギンスキが本田に密告するなど考えてもみなかっただろう。
 その程度には信頼の厚い仲らしかった。
 ここはブラギンスキが手配したという別宅。
 本田に蕩けるような愛を囁く唇は今、金髪も豪奢な女性の股間に埋められている。
 「そんなに女の人がいいなら、私を捨てて下さればいいのに」
 ロシアの寒さは厳しいが部屋の中は常に適度な温かさを保っているにも関わらず、目の前で
縺れ合う二人は全身汗に塗れて濡れ光っていた。
 反して本田はその寒さ嫌いを掌握しているブラギンスキの手によって完璧な防寒を整えられ
ているにも関わらず、胃が締め付けられる寒さに凍えている。
震える指先で身体を包み込むブラギンスキの袖口を掴めば、彼は更に追い討ちをかける秘密
を暴露した。
 「愛人には男の人もいるみたいだよ」
 「……はぁ?」
 「菊君が、正妻。これは絶対なんだって。けどね? 男女共に菊君より頻繁に寵愛する愛人っ
  ていうのが、それぞれ一人づついて。定期的にベッドを共にする情人が三人。これは女性ば
  っかり。その場限りとかは男女構わず、僕は掌握してないくらい多いよ。勿論全員SEXして
  る。さすがに化身とは菊君以外してないけど、女性陣は普通に口説いてるしね。姉さんは、
  胸とかさり気なく触られてるし、ナターリヤも、殺していいですか、兄さん、なんて言ってるし。
  バッシュ君も、いい加減妹を困らせるあやつを、殺してしまおうか迷っている、なんて愚痴っ
  てた」
 「……知らぬは私ばかりと言う訳ですか……」
 本田がやめて欲しいと告げる前と全く変わらぬ乱行振りだった。
 控えられもせず、ましてや酷くなることもなかったのが切ない。
 ボヌフォワは微塵も本田の痛みを知らぬのだ。そうでなければこんな真似はすまい。
 「恋愛に疎い人は知らないんじゃないかなぁ。ルートヴィッヒ君とか王君なんか?」
 「それ以外は知っているということでしょう?」
 「あー後、アルフレッド君も知らないんじゃあ……」
 「もう、いいです! たくさんです!」
 耳を塞いで頭を大きく振る。何も聞きたくなかった。



                                    続きは本でお願い致します♪
                                        露日のような冒頭だ!
                浮気モノ仏に尽くしまくって壊れる日とかも書いてみたいです。
                                                   は!
             ホラーをテーマにというなら、むしろそちらの方が良かった気も(汗)



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