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  Experimental




ルートヴィッヒは真面目で優しい恋人だ。
 威圧感のある風貌から誤解をされがちだが、彼は大変繊細な化身で空恐ろしいほどに潔癖
な性質でもあった。
 長くを生きて引き篭もりが長かったとはいえ、多くの人間と付き合ってきた本田には、専門的
ではないにしろ実生活の経験に基づいた医療知識があり、その知識を総動員して考えるに、
ルートヴィッヒには自臭症の傾向があるようだった。
 病的とまではいかずとも、己を常に清潔な状態で保っていたいという欲求が強い。
 本人の自覚もある、体臭が一般より少々強いというのが重要な要因の一つとして上がってい
る。
 同じく衛生面に関してはかなりの拘りのある本田に取って彼の体臭は、初めて会った時から
気になるものではなく。
 むしろその男らしい匂いに惹かれて、最初の過ちを犯してしまったくらいに好ましいものでは
あった。
 時折。
 ルートヴィッヒは、そこに惹かれて本田を恋人に選んだのではないかと危惧するくらいに、
彼らしくもなく体臭の強さを好ましく思う言葉をねだったものだ。
 本田としても、自分と同じくらい恋愛に不器用で、甘えることの苦手な彼が欲しがるモノを
惜しむつもりは毛頭なく、ルートヴィッヒが望むままの言葉を紡いできた。

 それが、いけなかったのかもしれない。

 元々医療大国として名の知れたルートヴィッヒは、何かを治療するという行為に大変重きを
置いていた。
 例えば、フェリシアーノのサボり癖の解消であったり、本田の塩分過多すぎる食生活の改善
であったりもする。
 当事者となった本田は、彼の治療が結構な荒療治であるのを、身をもって知っていた。
 だから、以前から漠然とした不安を抱えていたのだ。

 一度そうだと思い込むとのめり込んでしまう恋人の治療行為が自分に向いてしまったら、
どうなるのだろうかと。
 
 「せっかくの長期休みに、俺の我侭を通すことを申し訳なく思う」
 真っ直ぐに本田を見ようとせずに、斜め下の絨毯を頑なに見詰める曇った青色の輝き。
 こうした暗い眼差しのルートヴィッヒは幾度も見たことがある。
 世界大戦終戦間近。
 どんな手段を使ったのかは今もって知らぬが、当時。
 他国との干渉を一切拒絶して一人篭っていたテントに転がり込んできた彼は本田の膝に
身を投げ出して、
 上司が亡くなった。
 自殺したんだ、と告げてきた。
 本田を一人残して降伏しなければならないと悲しい自覚をせざる得なかったルートヴィッヒは、
今より余程絶望に満ちた瞳をしていた。
 けれど、美しいと思うほど純粋な狂気に近い敗北感を湛えた瞳は。
 「いいえ。愛しい恋人の可愛い我侭は嬉しいばかりですよ。何でもどーんと言って下さい。
  私が利ける範囲で範囲ではありますけれど、謹んでお答えしたいと思いますよ」
 今のように情欲を微塵も孕んではいなかった。
 「そうか……ありがとう」
 ほっと安心したルートヴィッヒが、更に本田の淹れたコーヒーを飲み人心地つくのを待って
から、尋ねる。
 「それで、ですね。こちらはどこなのですか」
 長期休暇を過ごすのに良い場所があると、ドライブで連れて来られた。
 凡そのドイツ地図は頭に入っているものの、細かい地名まではわからない。
 「……化身は、国内に幾つかの別宅を持っているだろう? ここは、昔兄貴が使っていた
  場所だ」
 「へぇ。ギル師匠がこちらをねぇ……」
 それにしては、少々メルヘンちっくな概観だ。
 日本で言う所のペンションを想像して貰えればいいだろう。
 足を踏み入れればアットホームな雰囲気。
 ニ、三組の家族がひと夏を過ごすのに適した建物かもしれない。
 「ああ。今回は無理を言って借りた」




                                    続きは本でお願い致します♪
                                                 うーん。
                            猟奇を回避したら、変態ちっくに
なる予感。
                                       タイトル変えようかしら。




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