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 普段から、ほんと、鬱陶しいけど。
 事の最中には、特に耐えられない。
 大佐に、自覚が全くない分、余計に。
 俺は、彼以上に大佐を甘やかせるのかと、不安になる。

 「……はがね、のっつ」
 「エドワードって呼べよ?」
 「ほのおの、って。よんでも、よいよ?」
 「ばっか。それじゃあ、真っ白ずくめの誰かさんだろ。あんなキザ男と一緒にするな」
 「きざお!」
 こんな真っ最中に、そんなにげらげら笑うな。
 細められた目の端に寄る皺すら、可愛いけど。
 笑いのリズムに合わせて、中が絶妙に蠢動すっから、気持ち良いけど。
 「こんど、あったら。言ってみようかな、キザ男」
 「よせよ。あの変態は、アンタに話しかけてもらえるだけで、嬉しいんだぜ」
 あんな、奴。
 喜ばせる事ないな。
 ただでさえ、俺の知らないイシュヴァール時に。
 大佐は全く気がついていないみたいで、報われない所は、むしろ同情に値するくらいに。
 奴にしか出来ない方法で、大佐を護っていたんだから。
 ……そう、彼に聞いた。
 「はがねのの、勘違い、だよ。わたしは、彼に。うんと。きらわれているからね」
 「はん。嫌ってたらそもそも、近寄ってこねーだろうが」
 中央司令部から、何かあるごとに、いそいそ出かけてきやがる。
 まぁ。
 彼には、負けるけど。
 「そうかな?」
 「そうだよ」
 こら!嬉しそうな顔、すんな。
 あの狂気の性格はさて置き、仕事ができる奴を大佐は嫌いではない。
 それに、奴は。
 あれでいて、部下の手柄ぶん取ったりとか、部下に責任押し付けたりはしないからな。
 大佐のツボ的に、いい奴なんだ。
 「アンタん所、来る時。何時も菓子。持ってくるしよ」
 「それは……あれでいて、紅蓮のは、モテるから。でも、甘い物、嫌いだし。処分に困るって
  …言ってるけど」
 ……普段は本当に、ビックリするほど勘が良い男なんだけどな。
 この手の好意には、とんと疎い。
 だいたい当日に食べましょうね?という、更には期間限定の有名店生菓子なんて、人に貰って
取っておけねーだろうってーの。
 奴は、大佐の為にわざわざ菓子屋まで直接出向いて買ってから、東方へ来るというのに。
 いかにもついでのように見せて、実は何日も前から奥さんに焼かせておいた手作りパイを
持って、東方へ用もなしに押しかけてくる、彼の方が、俺的には性質悪いけどよ。
 「だぁああ。ちくしょ!」
 「ど、どうしたね。はがねの?」
 キンブリーの話を、ベッドの上で。
 しかも真っ最中にするのも、頂けないが。
 奴の話をするにつけ、彼を思い起こしてしまうのが何より、嫌だ。
 
 彼。
 マース・ヒューズ中佐。
 大佐の親友で、元・恋人。
 
 「……んあ?こんな真っ最中に、何でキンブリーの話なんかに興じてるんかと思ったら、
  馬鹿らしくなった!」
 「そ、そうだね。すまなかった!集中、しよう」
 くにゅん、と中が、俺の好む動きで宥めるように、誘う意味合いで蠢いた。
 でも、この動きですら俺は、中佐に躾けられたのだと知っている。
 知りたくもなかったが、面と向かって言われた事があるのだ。
 中佐に。
 ベッドの中での、大佐の癖を。
 聞きたくないと、耳を塞ぐ側からしつこく。
 

 「えどわーど?」
  「!んだよ。いきなり」
 先刻までそう呼ぶのを嫌がってた風なのに。
 嬉しくて心臓に悪いから、突然は困るってば。
 「気もそぞろなのは、君の方かな、とね」
 思ったんだが?、と柔らかく微笑んで、俺の唇の端にキスをする。
 ああ、嫌だ嫌だ。
 大人の余裕!
 でもって、ガキの俺。
 「紅蓮の、のことだけではないね?」
 「……わかってんなら、聞くなよ」
 「嫉妬、される方は嬉しいよ」
 「する方は、きっちいな」
 なまじ、大佐が絡まなければ良い人だから、余計に。
 愛妻家で、愛娘を溺愛している。
 それ、以上に。
 大佐に甘いのが、腹立たしい。
 「……ヒューズとは、もぉ。何でもないよ。若気の至りって奴だな」
 「向こうは、そーじゃねーぜ」
 知らない訳ではないだろう。
 自分が、妻や娘以上に愛されているなんて。
 重々承知して、俺を、選んでくれたんだって、わかってもいる。
 けど。
 どうしても、付き纏う。
 あの男の存在は。
 本当に、影のようなものだ。
 日陰に入ってしまえば、気配を絶つ癖に。
 日向に出れば、これ以上は無い激しさで、その存在を主張する。
 「私が受け容れなければ、いいだけの話さ。奴はまだ、私に夢を見ているだけだしね」
 「夢?」
 「若かった頃の、青臭い都合の良い夢。どんな?と聞かれても困る。抽象的なモノだか
  らね」
 「抽象的だからこそ。憧れて手放せないんだろうよ」
 「……本当に君は頭が良い」
 頭の良い子は、好きだよ?と。
 宥める口付けが、今度は瞼の端に。
 「どうすれば良いか、なんて。わかっているんだよね?」
 「わあってる。けど。気になるんだよ。ガキだから」
 俺の知らないアンタの過去を知ってるってだけで、妬ける心の狭さ。
 まぁ、この人が無駄に人を惹き付ける性質だってーのもあるんだけど。
 「そーゆー風に素直なのは、可愛いよ」
 「可愛いって言われるのは、複雑だな。可愛いのはアンタだけで十分」
 今も俺が大佐の中に入ってるんだってーのを、常に意識させるように、きゅうきゅうと中を
締め付けてくる。
 欲しがって、見せる。
 「そう、いうなら、もっと可愛くして貰おう?」
 「……だな」
 何時までも、影に気を取られている訳にもいくまい。
 俺には、まだやる事がある。
 
 何より感じやすい大佐をこれ以上待たせるのは、男として駄目だろう。
 俺は今だ纏わりつく影を振り切るようにして、大佐の中を穿つ。
 乱暴にしているはずなのに、慣れた大佐の身体はどこまでも柔らかく、熱く俺を受け入れ
てくれる。
 「はがね、の?」
 「ん?」
 「大好き、だよ」
 「……俺もだ」
 不安がる俺の為、何度も愛を囁いてくれる大佐は、しみじみ格好良い。
 俺もちったあ、こーゆーとこ見習わないとな。
 「愛してる、よ」
 「……ん」
 照れた風に頷く大佐が、どうしようもなく愛らしくて、俺は更にがつがつとその体を貪り
続ける。
 「だ……い……す、き……」
 切れ切れに紡がれる愛の言葉もまさか、中佐に仕込まれたものかもしれないという
不穏な考えが一瞬、頭を過ぎったけれど。
 「はがね、の」
 舌足らずに呼ばれるのに満足した俺は、大佐の中に溜めに溜め込んでいた精液を
たっぷりと注ぎ込んだ。




                                        END




 *早いよ、エド!とは言わないで下さい。若いから仕方ないのです。
  数はできるので許してやって下さい。
  大佐はそんなトコも可愛くて仕方ないようです。
             2008/05/02
  


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