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  Changering



 本田菊は、アーサー・カークランドの自慢の恋人だ。

 「まず、気質がいいよなぁ。あの穏やかは風情がたまらねー」
 『最初は、何を考えているかわからない! 変な奴! とか、言ってた癖に』
 自分の背丈ほどもあるピルクピッチャーを、全身で抱え込みながら中身を飲むピクシーを
手伝ってやる為に、ミルクピッチャーの底に指を差し入れてやる。
 程なく容器はいい感じに傾いて、ピクシーの喉を十分に潤していった。
 『恋人になった途端、惚気放題だものっつ』
 「いいじゃないかー。お前等だって菊好きだろ?」
 『大好きよ。私達が見えるってだけでも嬉しいし。異国の友達の話も楽しいわ』
 「だよなー」
 ピクシーの同意にでれでれと相好を崩すカークランドだったが、確かに無理のない話かもしれ
ない。

 大国の誇りが邪魔をして、上手く友人を作れなかった。
 弟には手酷く裏切られ、悪友は諦観か厄介ごとを持ち込むばかり。
 精霊眼と呼ばれる瞳も敬遠される要素の一つなのだろう。
 自覚があってもどうにもできなかった時に、上手く滑りこんできたのが本田だった。
 イエローモンキーと蔑みの目を向けていたのは、僅かな間だった。
 ブラギンスキとの同盟が進んでいたのも関わらず、単身、自分の元に来てくれた時から本田
はカークランドの大切な友人になったのだ。
 国としての思惑もお互い勿論あった。
 カークランドは列強と呼ばれる力の持つ国だったし、本田は引き篭もりの時間が長かったと
はいえ、カークランドの倍以上を生きる老獪な存在だ。
 ない方がおかしい。
 それでも。
 国の象徴としての立場を敢えて考えずに、純粋な好意をお互いが持っていた。
 恋人になったのは、同盟が破棄される寸前の事。

 「まさに燃え上がる恋ってーのは、あーゆーのを言うんだよなぁ」
 『アーサー! もう菊が来るわよ。そのヤニ下がった顔をどうにかしてよ』
 「ヤニ下がったとか、言うな! 俺は何時でも格好良いぞ!」
 「全くですよ。私の恋人は、何時でも紳士ですよね?」
 「菊!」
 声に振り返れば、本田がくすくすと笑いながら部屋のドアの所に立っている。
 入ってきたのに全然気が付かなかった。
 「すみません。何度かノックをして、声をかけたのですが。返事がなかったものですから……」
 不躾とは思いましたが、勝手に入らせて頂きました、と深々とお辞儀をされてしまい、
カークランドは大きく首を振る。
 「いや! すまなかったな。こいつと話をしていて、気が付かなかった」
 「楽しいお話だったようですね?」
 『アーサーは楽しかったと思うわよ。菊との惚気だもん』
 「ピクシー!」
 『菊にも聞かせてあげたかったわ!』
 ぱたたたっと、羽根を羽ばたかせたピクシーに向かって、本田はそっと手の甲を差し出した。
 その上にピクシーがふわりと降りたのを見計らって、ゆっくりと手首を引き寄せている。
 「先程の一言でなんとなーく、わかっちゃいましたよ?」
 『燃え上がる恋!』
 「はい。こんな年寄りが、そういった恋をするのは気恥ずかしい事なんですけどねぇ」
 『そんな事ないわ! 恋愛に年齢は関係ないものよ。それに菊はとっても若く見えて可愛い
  わ。アーサーと違って親父臭くないし』
 「俺のどこが、親父臭いんだ!」
 思わず手を出しかければ、本田がにこりと笑ってカークランドの手首を掴む。
 大した力は入っていないのだが、意外にも新体道を深く嗜んでいる本田の拘束から逃れる
のは難しい。
 「駄目ですよ。お友達の。しかもこんな可愛い女の子に手をあげては」
 「わかってるけどな!」
 「ピクシーさん。お外のお友達にたっぷりの練乳を差し上げてきましたから、宜しかったら
  ご一緒にお楽しみ下さい」
 『練乳! うわー大好きよ、菊』
 窓辺までピクシーを運んで外に出す所で、ピクシーは本田の頬にキスを一つ贈って、
仲間達の所へ戻って行った。
 「お久しぶりです。カークランド卿」
 「よせって、そんな挨拶。せっかくのプライベートなんだし。俺しかいねーし」
 「そうですね。隠れて様子を伺っていた子達も練乳の誘惑に負けて、外へ出て行ったよう
 ですし、ね」
 「……マジかよ……」
 色々と迂闊な状態だったらしい。
 これっぽっちも気付かなかった。
 「それでは、改めまして……久しぶりです。アーサー」
 「気軽に会えない距離が憎いな。いっそ同棲でもしたいくらいだぜ。ほら、こっちへ来いよ。
  もぉ、二人っきりだ」
 慎重に気配を探って確かめる。
 人間の気配もそれ以外の気配もない。
 カークランドは本田に向かって大きく腕を広げて見せる。
 瞬間迷った本田は、ととととっと走り寄り、ソファに座っていたカークランドの膝の上に乗り
上げながら、腕の中に収まった。
 「……会いたかった、菊」
 まずは、額にキスを。
 照れる彼が頬に触れるだけのキスを返してくれるのを待って、唇にキスをする。
 何時も挨拶では終われないので、本田の腰が逃げを打つが、それを許すカークランドでな
はかった。
 SEXよりもキスに自信があるカークランドが、本田をとろとろに蕩けさせる機会を逃すはず
もない。
 「あ、や……ん、む……」
 微かな抵抗すら萌える。イマヒトツ本田の言う萌、が理解できないカークランドだが、萌えの
対象が本田と限定するならば、これ以上はない程に理解していた。
 唇を優しく食んで、彼がカークランドの唇に慣れてから、ゆっくりと舌先を根元まで差し入れ
る。
 びくびくと全身を震わせる癖は直らない。
 むしろ可愛いので永遠に直るな! と思って久しかった。
 薄い唇も薄い舌もカークランドによく馴染む。




                                     続きは本でお願い致します♪
                   アーサーというとちゅう! という印象が強いのでなるべく
        ねちっこい、ちゅう描写を心掛けているのですが、ムツカシイですよね……。




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