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  別に、構いませんけれど。



 
『お願いします!』
 「……またですか」
 『約束してしまったんですよぅ』
 「……貴方って、人は。本当に学習能力がありませんね!」
 『でも!』
 「でもも、だっても、ありません! 少しは反省して下さいっつ!」
 二人きりのプライベートチャットルームは、距離を離れた恋人同士にとって、素敵なコミュニ
ケーションの場ではなかったのか。
 そう思って借りたはずのルームで、最近はフォンヴォックの説教ログばかりが残されている。
 高速タイピングで返信をしながら天井を仰いで、サイフォンから新しいコーヒーをカップに
移す。
 空きっ腹に、濃いブラックコーヒーが染みた。
 『じゃあ、仕方ないですね? エドさんが協力して下さらないなら、他の人にお願いします』
 「はあ?」
 『師匠なら、この手の冗談好きですし。何よりお暇ですし!』
 先程の、今立て込んでいるんですけど! の言葉に反応したんだろうが、何もそこで、彼を
持ってこなくてもいいと思う。
 本田が言う『師匠』とは、ギルベルト・バイルシュミットを指す。
 今は亡きプロイセン王国の化身だ。
 少々特殊な状況の故に、国は滅んでも化身は滅ばなかった稀有な存在。
 本田とは仲が良いルートヴィッヒの兄でもあり、本田に昔、陸軍や憲法などを指示したとか
で、本田が『師匠』と呼んで、恋人であるフォンヴォックが羨むくらいの絶対的な忠誠を誓っ
ている相手。
 『だって、エドさん。お忙しいんでしょう! こんなくだらないお遊びに、お付き合い頂くのも
  申し訳ないですし!』
 「菊さん……」
 確かに、くだらないと言ってはくだらない。
 だがしかし。
 フォンヴォックは、公開なりきりチャット十八禁仕様・限定公開エロなりチャをしようとする
本田の相手を、自分以外の誰かに譲る気はさらさらなかった。
 『私だって、馬鹿だなぁとは思いますよ。でも!』
 「……今度は何が交換なんです?」
 『陵辱の館・禁断の交わり・トゥルーエンド達成記念先着十名様プレゼントの!』
 「天音(あまね)ちゃん、フィギュアですか……」
 『そうです! しかも、唯一体の天使の羽根付バージョンですよ! 世界に一個しかない、
  超素敵フィギュアですよ!』
 それはエロゲ業界でも評価の高いゲームで、本田が嵌りまくっているゲームで、更に一番
人気の高いキャラだった。
 全てのエンディングと画像、ムービーフルコンプをして、ようやっと辿り着けるトゥルーエンド。
 スタッフロールが流れ終わった後に五秒間だけ表示される百桁の数字を、これまた五秒
以内に打ち込めれば、先着十名にフィギュアが当たるシステムだったらしい。
 十名にフィギュアが発送された後で、公式発表になったので、物凄い騒ぎになったのは
フォンヴォックの記憶にも新しい。
 先日も、オークションに出品された、比較的人気のないキャラのフィギュアが百万円越えで
落札されたと、とある情報サイトで見かけた。
 「それを譲って貰えるのですか?」
 『まさか! でも、直接見せて貰えて。更に写真撮っても良いって!』
 その為に、自分がツンデレ美少女キャラになりきって、吸血鬼に陵辱されるシーンを限定と
はいえ、公開する本田は、エロゲおたくの鏡なのだろう。
 ちなみに、本田はデフォルトで超絶エロボイスを装備している。
 それを女性化させるのも得意技のひとつだった。
 「公開相手は何人です?」
 『七人です』
 「もしかして、全員フィギュア所持者」
 『そうです! 直に会った事があるのは、ぷにぷくさんだけですけど。他の方もぷにぷくさん
  属性だそうですから、信用できます!』
 ぷにぷくさんとは、勿論ハンドルネーム。
 本名は本田も知らないだろう。
 向こうもきっと本田の本名も、彼が国の化身であるということも知らない。
 だが、恐らく。
 人間では一番仲が良いオタク仲間だと思う。
 百キロを超える巨体を揺さぶって現れた彼の、穏やかな草食動物の目を見て、信用できる
と瞬時に判断したフォンヴォックは、以降徹夜並びは、彼と一緒に! と誓わせた。
 ぷにぷく本人にも、その旨を告げてある。
 彼は責任重大ですが、不肖騎士を努めさせて頂きます! と敬礼をくれたものだ。
 「そうですか。ぷにぷくさん属性ですか……でしたら、まぁ、大丈夫でしょう」
 ぷにぷく属性とは、二次元しか興味がないという事。
 そして、三次元と二次元を本気で混同しない事を指す。
 つまり、本田がなりきったツンデレ美少女キャラで、マスターベションができても、
 本田本人には勃起もできない人々なのだ。
 『やってくれますか!』




                                    続きは本でお願い致します♪
                                         マイナーカプです。
                    フォンヴォックという呼び名になかなか慣れてません。
                          エロチャもなりチャもやったことがないです。
                                 へふぁあ? と思う所があっても、
                             捏造乙! と笑んでやって下さいませ。




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