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  馬鹿だね?



 

 「……俺、から。別れ話を切り出すべきなんだろうな」
 安いワインの瓶を数え切れぬほど空けながら、酔っ払いの思考のままに、溜息をついて、思い
を巡らせる。
 菊に愛されているという自惚れのままに、どこまで彼が自分を愛しているのか知りたくて、仕出
かした惨事は菊を壊してしまった。
 他の男に。
 しかも俺の目の前で。
 更には五人もの相手をさせたのだ。
 薬で菊の身体の自由を一時的に奪うという前提付で。
 それでも、菊は俺を愛してくれると、信じていたのだ。
 実際菊は、俺を以前と変わらずに愛してくれる。
 愛、してくれるけれど。
 それだけだ。
 本人も気がついているのだろう。
 以前には、見せなかった、それはもぅ悟りきった透き通る微笑を惜しげもなく浮かべる。
 傍目から視れば理想の恋人だろう。
 訪れれば、どんなに忙しかろうとも、俺の気分が良いように尽くしてくれる。
 手作りの料理は何時でも美味で、床上手。
 慎ましやかにも、奔放にも時々の俺の気分に対応して感じてくれた。
 浮気にも、悲しい微笑を浮かべ、責める言葉を乗せもしたが最後は許してくれる。
 そう。
 俺が非道に走るまでは、見せてくれていたのだ。
 わかりにくいけれど、菊が俺を愛してくれているのだという具体的な感情が。
 だが、今は違う。
 俺の気分が良いように尽くしてくれるのは、変わらない。
 ただ恐らくはそこに以前は発生しただろう、俺を喜ばせたいから尽くす、とか、そんな俺を見て
自分も嬉しい、といった類の。
 愛から発生する感情が何一つなくなってしまったのだ。
 ただ、世間一般でいう、都合の良い恋人を丁寧になぞらえているだけ。
 SEXの最中、イイとか、愛してる、とかは聞けても、もっと、とか、早く、などという自分の欲望
を一切口にしないのだ。
 虚し過ぎると、絶望するのは早かった。
 だけど。
 「……何やってんの、兄ちゃん」
 「ああ? ああ、フェリシアか……見ての通りだ。ワインを飲んでる」
 「こーゆーワインは冒涜だって言ってたじゃない? 安いだけの、ワインとは名ばかりの出来
  の悪い酒を飲むくらいなら、禁酒する! って言ってたと思うけど」
 「昔の、話さ」
 今は酔えるワインなら何でも良い。
 悪酔い出来れば最高だ。
 そうするってーと、安ワインが一番良いという結論に達する。
 「まぁ、兄ちゃんがどんな安いワインを飲んで、どれだけ酔っ払っても良いんだけど……」
 可愛い弟のような彼の、邪険な物言いは大変珍しいものだけれど。
 「そんなコト。してる場合じゃないでしょ? あんな状態の菊を一人にして、何やってるの?
 って言うか。菊に何したの? 俺。兄ちゃんと菊が付き合う時、言ったよね。菊を泣かせた
 ら許さないって」
 殺気だけであらゆる存在を抹消できるような覇気を纏うのは、更に珍しい。
 刃渡り三十センチはあろうかという、首にひたりと張り付く湾曲したナイフが、頚動脈を確実
に掻き切る角度であてられている。
 本来儀式用にと造られたククリナイフは、フェリシアの手によって人の首を、手首の捻りだ
けで落とせる武器へと変えられた。
 「菊は、泣いてなんか、いないぞ?」
 「はぁ? それ、本気で言ってるの? 涙を流すだけが、泣く、じゃないでしょう?」
 溜息と共に、首の薄皮一枚が裂かれる。
 これほどの武器で、この手の微細な加減をするのは大変難しい。
 彼がここまで集中力を高められるのは、大切な人の為。
 同属性の兄を除けばただ二人の為。
 普段は彼の父親の立ち位置に居るルートヴィッヒと、フェリシアが、どんな手を使ってでも
あらゆる災厄から守ると誓った、母親の立ち位置にある菊の為。
 「あんな、人形みたいな笑い。大戦直後にも見たことないよ。菊は、どんな時でも俺とルート
  には、穏やかに、笑んでくれたからね」
 肥沃な国土と才ある国民を持ったが故に、常に侵略にさらされていたフェリシアは、色々な
思惑はあれど、同盟を組んだルートヴィッヒを、菊を、とても大切にしていた。
 また、彼等も同じようにフェリシアを溺愛した。
 本気で怒らせさえしなければ、心優しいへたれ。
 愛すべき存在だ。
 フェリシアにだけ格別な笑みを向けるのだとしても、納得がゆく。



                                    続きは本でお願い致します♪
                        一応仏日なのですが、すっかり仏→日な感じに。
                     そして、黒フェリに嵌っている為、伊がマフィア仕様に。
                                     一人で楽しいです。やっふう。



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