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 暗涙


 ひいいいいい、やああああ。
 助けてくれ、助けてくれ。
 俺が悪かった。何もかも悪かったからっ!
 頼むから、お願いだから。
 殺さないでくれええええええええっ!!!

 絶叫とまとわりつく血の匂いだけが、僕を癒してくれた時期があった。
 人さえ殺していれば、母は助かるのだと。
 弱いモノ達が安らげるのだと。
 そう思い込もうと過ごした時間は、決して短くはなかった。

 「壬生君?まだ、足りませんでしたか?」
 何故か不安そうな瞳のまま、覗き込んでくる優しい人の髪の毛がさらさらと頬
をくすぐる。
 必要以上に中に入り込んでこようとする存在が厭わしい僕にとって、体の繋
がりなど、どんな無茶をしても避けたであろうに。
 「いえ、いつも。満足させてもらってるよ……」
 ましてや男に抱かれて癒されるなど、羞恥の余り死んだ方がましだと。
 以前の僕ならば、思っただろう。
 時折正気に返ったかのように、御門さんと抱き合う関係を嫌悪してしまう瞬間
はないでもなかったが、今は概ね、納得しているといってもいい。
 「不満そうな顔をしてたとでも?」
 こんな僕にでも好意をよせてくれる女の子達でもなく、もっと近い場所にある
存在でもなく。
 決して近しい所にはいない彼と抱き合えるのは何故だろうかといえば。
 「少し不安そうな表情でしたので」
 「それは、失礼」
 彼が僕よりもずっと深い闇に囚われているのを、知っているから。
 最低最悪の暗殺者よりも、血に塗れる世界に生きている彼は、僕が血みどろ
になっても嫌悪しない。
 同情しない。
 むしろ、自分の側にきてくれると。
 喜んだ。
 認めてくれる人も、許してくれる人もたくさんいたけれど。
 喜んでくれたのは御門さんだけだ。
 「いつも、僕の気がすむまで構っていただいているさ……」
 僕の体を攻め苛む御門さんは、いつでも僕の望みのままにベッドの中では
傍若無人だ。
 血が、流れるくらいのSEXの方が『ああ、抱き合っているんだ』という、自覚
もできる。
 女の子相手の生温い交接では絶対に適わない激しさは、僕が欲しかったも
の。
 欲しかったと、気付かせてくれたのは、他の誰でもない御門さんだ。
 「そう、ですか?」
 「ああ、他の誰でもない貴方が、僕を満たしてくれるよ」
 御門さんの告白で始まったこの関係だったが、今では僕の方が手放せない
だろう。
 きっと御門さんは、そんな風には信じないけれど。
 ……闇に落ちてゆくのは本当に、心地良い。
 何も考えなくてすむ、この人の腕の中では時間さえもがゆるやかに過ぎてゆ
く。
 「それは良かったですけれど……もう、寝ないといけませんよ?」
 「寝てるだろう?まだ、足りなかったとか」
 「その寝る、ではありませんよ」
 駄々っ子をあやすように、髪の毛が幾度も梳かれる。
 「明日は、私の仕事を手伝っていただくわけですから」
 そう。
 最近では常に血の匂いを嗅いでいたくて、拳武の仕事だけでは飽き足らず。
 御門さんの仕事をも率先して手伝っていた。
 特に、血なまぐさいモノを選び抜いた上で。
 人を殺すと気分が良い、ただそれだけの理由で己の手を血で染め上げたが
る狂気に陥っている。
 それが罪悪なのだと、思えなくなってもうどれぐらい経つかはわからない。
 僕を抱き締めるこの人以外は、誰も変ってしまった僕に気がつかなかった。
 もともと、罪悪感が薄いからこそ、暗殺業に甘んじていられたとしか思えない
ぐらいに。
 「これっくらいじゃあ、どうということもないよ?」
 時には僕以上に怜悧な、と表される御門さんが壊れた微笑を浮かべる。
 僕を闇に引きずり込んでいるのだと言う自覚の元、罪悪感故により深く病ん
でゆく。
 「……では、しましょうか?」
 萎えることを知らない肉塊。
 僕の望むまま蹂躙するそれ。
 赤黒くぬらぬらと光る硬直は、性欲などないのではと囁かれる御門さんには
確かに、不似合いかもしれない。
 「そうだね、しよう」
 掌に硬い幹を握りこんで、自分の秘所にあてる。
 ひくっと震えるのは、もう期待に打ち震えているって奴で。
 我ながら、情けないほどの淫乱っぷりだ。
 「んんんん、あ、んんっ」
 一息に銜え込む対面座位。
 薄目を開けて様子を伺えば、眉間に皺を寄せた御門さんの切なそうな表情
が映る。
 ぶるっと腰を振るわせたのは、射精を堪えたのか、頬が瞬間的に朱に染ま
った。
 可愛いな、とか。
 馬鹿げたことを考えながら。
 肉塊に押し付けるようにして、腰をくねらせる。
 こうしていればその内焦れた御門さんが、僕の意識が吹っ飛ぶまで揺さぶっ
てくれるはずだ。
 愛しているとは、いえない。
 特別好き、ということもない。
 だからといって、身体だけでは困る。
 何より御門さんの罪悪感が、僕を幸福にしてくれるのだ。
 手放せるはずもないだろう?
 「……くっつ!は、やくっつう!」
 せめてこの身体で、貴方が楽になれればいいいと、夢のような幻想を抱きな
がら。
 容赦ない腰つきで、僕を逝かせてくれるその背中に、爪痕がつくほどの執着
を窺わせて。
 「……わ……し、て?」
 『壊してくれ』と、精一杯の。
貴方にしかしないしぐさで哀願をしてみせた




                                            END





*御門×壬生
 歪み壬生だ♪
 これはこれで楽しかったです。
 もそっと続くはずだったんですが、新刊の前哨戦なのでこんな感じで。
 物足りなかった方には『闇路』をご購入いただくといことで一つお願いします。邪。
 さて、次の祭りは何にしようかなーってマイナーカプ祭りにしたんだった(泣)

                          


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