メニューに戻るホームに戻る




  雨注ぐ、最中



 「行けっつ!早くっつ!」

 まさかの、事態だった。
 ツヴィンクリと二人。
 山奥で軍事訓練的な鍛錬をしている最中。
 密入国してきたテロリストの団体に遭遇したのだ。
 何故わかったのかといえば、彼等はここ数年来スイス近辺の国々を荒らし捲くって、世界手配
されていた軍団だったから。
 ルードヴィヒやエーデルシュタインの所も、かなりの人的被害を被ったと、本人達から
聞いている所だった。
 ツヴィンクリとも警戒は起こらないようにと話し合ったばかり。
 だがまさか、密入国に関しては世界でも鉄壁の警護を誇るスイスに潜入できると、本田は
考えていなかった。
 ツヴィンクリも恐らく想定していなかっただろう。
 けれど、まだ血の匂いも濃厚な彼等を目の前にして、さすがにツヴィンクリの行動は迅速
だった。
 閃光手榴弾を二発。
 数秒後、煙幕弾を二発仕掛けて、逃げを打った。
 山中だから、隠れる所は幾らでもある。
 しかし、潜伏だけでは逃げ仰せはしても、彼等を捕縛、もしくは粛清できない。
 瞬時の思案の後。
 ツヴィンクリは本田に応援を呼びに行かせる選択をしたようだ。
 
 「ですが、バッシュさん!」
 「急ぐんだ、菊。君は我輩を殺す気か!」
 「そんな馬鹿な事!冗談でも言わないで下さい!」
 情けないと言われても浮んでしまった涙目で、ツヴィンクリの襟首を引っ掴んだ。
 この、不器用に優しい恋人が、万が一があっては困るから、と。
 自分を逃がそうとしているのを、わからないほど間抜けな本田ではなかった。
 「二人で戦えばっつ、殲滅できるかもしれませんですし!」
 日本には古来より忍びという特殊な存在があった。
 今では絶滅したといわれているが、その実は。
 裏の世界で幅広く活躍している。
 一度決めた主は決して違えない、その犬のような忠誠心がとても好きで。
 浅からぬ友好も昔から続いている。
 彼等本職には遠く及ばないが、それでも。
 残虐非道を繰り返す敵に容赦ない止めを刺す程度の、穏業は持っているつもりだ。
 「……いいから。急いで戻れ。戻って、応援を呼んでこい」
 声を荒げる本田を戒めるような厳しい声音。
 しかし。
 「頼むから、聞き分けろ……菊」
 額に下りてきた口付けは悲しいくらいに、優しかった。
 「すぐ、戻りますからっつ」
 「ああ」
 「無茶っつ!しないで下さいっつ」
 「わかってる」
 「行って、来ます」
 唇を噛み締めて後、決意を伝えればツヴィンクリは、花が綻ぶように笑った。

 逃げる最中に、落としてきた発信機を辿りながら、ツヴィンクリと別れた場所へと到達したの
だが。
 「バッシュさん!」
 幾ら捜しても彼の姿はどこにもなかった。
 彼の身体についているはずの発信機も、この場所を指しているはずなのに。
 「機械の故障という訳ではありませんよね?」
 「はい。受信機も発信機も問題なく起動しています」
 小さなモニター画面を覗き込みながら、更に捜索範囲を絞り込み、爪の粒ほどの発信機が
落ちていないかを探す。
 精密機器に強いスイスが技術力を集結して作り上げた逸品。
 日本は設計段階で参加もしていた。
 「ありましたっつ!」
 スイス軍の中でも、トップクラスの人間による捜索だ。思っていたよりも見つかるのが早かっ
た。
 けれど。
 「これ、は?」
 「そちらの茂みの中にあった、石の上に置かれておりました」
 ツヴィンクリの髪の毛に貼り付けてあったはずの、発信機は血に塗れていた。
 「これは、まさか!」
 「いえ、違います!」
 軍の方が恐怖の叫びを上げるのを反射的に咎めた。
 推測でも、そんな恐ろしい言葉は聞きたくなかった。
 本田も頭の隅で、考えていたが故に。
 「……発信機自体は、壊れていません。ですから、バッシュさんが何らかの理由で、こちらを
  自己意志で外して、置いたのだと思います」
 大きく息を吐き出しながら、告げる。
 軍の方が、ほ、と安堵の息を漏らす。
 「この血も、返り血かもしれません。これだけの、敵を屠ったのであれば」
 ツヴィンクリが優秀な軍人であるのは、知れた話である。
 本田もよく知っていた。
 知っていた、はずだった。
 しかし、ここまでとは思わなかった。
 転がっているのは全て死体。生きている人間は一人もいない。
 それだけ敵が有能で、手加減をしている場合ではなかったのだと推測できたが、その、殺し方
も残忍極まりなかった。
 後の判別ができるようにだろう、顔だけが比較的損傷が少ない所も含めて。
 「新たな敵を恐れて、潜伏しているのかもしれませんね」
 「しかし、それですと。発信機を外す意味がなかったのでは?」
 ついと本田の横に立ったのは、軍でも上から数えた方が早い位置にいる上級佐官。
 顔色は決して良くないが、さすがに冷静さを保っている。
 「……追尾されていたのかもしれません」
 「え?」
 「敵方も、近い性能の受信機を持っていたのでは?」
 「まさか、そんな事が!」
 と驚きの声が上がった、そのタイミングで。
 蒼白な顔をした軍人が走り寄って来る。
 「ブリガディエ!これを!」
 「っつ!」
 彼の手に渡されたのは、スイス軍が装備している受信機と瓜二つの物。
 現場に持ち込んだ受信機は全員が手にしている。
 ツヴィンクリは受信機を持ってはいなかった。
 と、すればこの泥まみれの受信機はやはりテロリストが所持していたものだろう。
 「製造番号は?」
 「……間違いなく、軍で造られた物のようです」




                      うぬー鬼畜というよりは、切ない系に流れそうな予感。
                                  軌道修正かけつつ、頑張ります。
                                    続きは本でお願い致します♪
                          




                                       メニューに戻る
                                             
                                       ホームに戻る