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  数多の色



 
まさか、本気でそんな事を言っているなんて、本田は夢にも思わなかった。
 常日頃から睦言に見せかけて突拍子もないオネダリをされていたけれど。
 そればかりは、するまいと信じていた。

 しかし、本田が思っていた以上に恋人であるボヌフォワの愛情は、歪んでいて複雑なもの
だった。

 「フラン、シ、ス!」
 叫ぶ声にも力が入らない。
 椅子から立ち上がり逃げ出そうとした足が、膝から崩れ落ちてしまった。

 旨いワインが手に入ったと言われて、いそいそと出かけていった。
 恋人には甘いボヌフォワだったがここの所忙しく、一ヶ月ぶりの逢瀬だったから余計だ。
 恋に関しては淡白だと思っていた本田だったが、ボヌフォワの恋に手馴れた会話からSEX
までにすっかり絆されていて、まさに熱愛中とはこれかと、己の熱い思いと体を持て余してし
まう日々を送っていた。
 そんな中での待ち焦がれていた誘い。
 忙しいのだと言われれば、自分から積極的に誘う本田ではない。
 大人しく内心は悶々としながらも、辛抱強く誘いを待っていた己を、本田は呪った。
 もっと積極的に、彼のみならず周りの友人達とも連絡を取っていれば、こんな事態には陥ら
なかったかもしれないのだ。
 「菊は往生際が悪いなぁ。結構強い薬だ。中国四千年の秘薬だからな。ワンが取って置き
  だから、慎重に使えよ、と言っていた代物なんだよ」
 「……まさか、ワンさんも、メンバーに入っているのですか?」
 確執がない訳ではない。
 けれど、そこまで嫌われた覚えも執着された覚えもないと思っていたのは、本田だけだった
のだろうか。
 「最初に言ったろ?今後の付き合いもあるからな。メンバーは全員内緒だ」
 薬のせいなのか視界が、だんだんと覚束無いものになってゆく。
 全く見えなくはないのだが、本田の体を抱き抱えて、顔を覗きこんでいる恋人の顔も、声が
なければ、触れた感触がなければ、判別が付かないほどに、白い靄の塊になっていた。
 「でもまぁ、人数は教えておいてやろうか。五人だ」
 「五人っつ!」
 「全員突っ込むかどうかは、状況次第だな。最初が一番なら全員犯りたがるだろうけど。
  中出しOKにしようと思うから。他人のスペルマ塗れの穴に突っ込みたいとは、あんま
  り考えないだろうし」
 「……私を、嫌いになったんですか」
 「まさか!大好きだぜ。愛してる、誰よりも君だけだって、菊。全員中出しされた菊の中に
  突っ込んで、三回は出せるくらい。菊にめろめろだ」
 「では、どうして?こんな事をするんです!」
 奔放な恋人だった。
 女性相手ならば浮気も仕方ないと、納得せざるえないくらい魅力的で優しい。
 幾度となく止めて欲しいと強請っても、それじゃあ菊が大変なだけだぜ?と言われて、我慢
してきた、結果がこれか?
 我慢した挙句に本田は、今。
 薬を盛られた上に五人もの男に輪姦されようとしている。
 「愛してるからだ。誰にどんな風に犯されても菊を愛し続けられるって証明をしたいんだよ」
 「そんな、証明!いりませっつ」
 おかしい。
 言葉が、だんだん拙くなっている。
 これも薬のせいなのだろうか。
 「ああ、声が出なくなってきたな。では、視界は」
 「……誰か、居るのはわかりますが。それが誰かもわかりません。靄に包まれている感じ、
 で」
 ただ、薬の効力が落ち着いてきたのだろうか、今の所はカラフルな色の判別が多少つくようだ。
 きっと目を見開いて本田を見ているのだろう、青みががかった紫色の瞳のお陰で、辛うじて目
の前にいる男がボヌフォワだとわかる状態。
 「じゃあ、そろそろいいかな。全員、入って来いよ」
 「止めて下さいっつ!」
 本田の絶叫も空しく扉が開かれる音がした。
 人が入ってくる気配。
 「んじゃ、寝室へ移動すっか。準備は出来てるんだろう?」
 言葉はないが誰かが頷く気配。
 感覚が鋭敏になっているせいか、空気の動きすら読めそうな勢いだ。
 ボヌフォワではない、誰かの腕が本田の体を勢いよく抱き上げる。
 頭がぐらついて、腕の中から転がり落ちそうになったのを、違う誰かの腕が支えてくれた。
 「……え?」
 その、腕には覚えがあった。
 本田の背中越し甘えるようにして抱きついてくる大きな体の、逞しい腕によく似ている。
 距離があって中々会えなくて。
 仲の悪い癖に何時も一緒に訪ねて来てくれる、その片割れ。
 古くから親日家で、交流も深い。
 まさか、こんな悪夢の所業に加担するとは決して思えない。
 思いたくもない、かの人。
 深く、深く鮮やかなダークグリーンを視界の中に拾って、本田は大きく息を飲んだ。
 「ヘラクレス、く?」
 本田の体を、最初に抱き上げた腕から奪うようにして抱え直した腕から、動揺は感じられ
なかった。
 ただ、彼が大好きな猫がするように、頬を摺り寄せられる。
 悪意どころか欲望の欠片も見出せない、親愛に満ちた仕草だった。
 「無駄だよ。菊。誰も答えない。余計な詮索はしない方が、君の為なんだけどなぁ。誰だって、
  自分じゃない相手と間違えられたら嫌な思いをするだろう?」
 「……誰ともわからない相手に、触れられるなんて、それこそ。冗談じゃないです。確認ぐらい
  したって、いいでしょう?」
 力の入らない指を持ち上げようとすれば、気がついたのだろう優しい指が絡んできた。
 爪を丁寧に撫ぜられて、酷いことをする訳ではないのだと、好きだからするのだと、必死の
情愛が伝わってくる。
 けれど。
 本田は恋人以外の人間に体を開くならば、死んだ方がましだった。
 死ねば少しは、ボヌフォワも、本田がどれだけ真剣で嫌がっていたのかわかってくれるだろ
う。
 力の入らない歯で、舌を噛み切るのは難しいかもしれないが、やってできない事もないはず
だ。
 大きく息を吸い込んで、舌を噛み切ろうとした、その時。
 「っつ!」
 強引に顔の向きを替えさせられて、口付けられた。
 舌を絡めるディープキスは、本田の自殺を警戒してのことだとわかる。
 ここまで、本田の様子を敏感に感じ取ってくれる人間は少ない。
 兄弟と思っているルードヴィヒさんに、ヴェネチアーノ。そして。
 「バッシュ、さ……ん……」
 永久中立国を謳って久しい彼の国の人も、何かと本田を気にかけてくれていた。
 意志をはっきしりないと、何時か痛い目を見るぞ!と何度も警告してくれた、のに。
 ショックの余りに見開いた目には、ヘラクレス君に似た深いグリーン。



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                       仏日とは名ばかりの、菊たん愛されまくり輪姦話。
                        でも、菊は、そんな仏がどーにも好きなのです。
                           でもって、仏も勿論。菊が大好きなのです。



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