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 アニメ 鋼の錬金術師
 
 大変お待たせいたしました。
 っつーか存在を忘れていたわけではないのですが、マイナーカプの誘惑に負けておりました。
 とほん。
 ヒューズ人体錬成話三部作。第二部。 100のお題095『加速』の続編。
 エド視点になります。


  登場人物  


 ロイ・マスタング大佐
 ……焔の錬金術師。
 ついに禁忌を犯してしまったロイ。
 前作では何とかヒューズの錬成に成功したようだが、どうにもその言動がおかしい。
 等価交換の果て。彼は何を失ったのか。

 エドワード・エルリック
 ……鋼の錬金術師。
 大佐が禁忌を犯しているなぞとは夢にも思わず。
 これから二人ゆっくりと生活してゆけるだろうあれこれを思い描いている。
 それが束の間の幸せだとは本人知る由もなく…。

 マース・ヒューズ准将
 ……生き返ったんだから中佐?とかそんな突っ込みはさておき。
 現時点で彼は目覚めておりませんが、少なくとも外見上は生前のままのようです。
 錬成される側も何かしらを差し出せねばならなかったとしたら、ロイ同様。
 彼も何かを失っているのでしょうか。


 ロイがちょうど必死の錬成を始めている頃。
 大人しくロイの言う事を聞こうと思ったけどやはり我慢できず。
 ロイの部屋に向かうエドが、主のいない部屋で見つけたのは、一通の手紙だった……。
   

 

 道化師
 
                                      
  「怒るかなー。怒んないよなー」
  何だかんだ愚痴を垂れ流しながらも、最後は何時だって俺の好きにさせてくれた。
  約束した夕方にはまだまだ早い、真昼。
  俺は、簡単なランチセットと共に大佐の家を訪れた。
  合鍵は抱き合い始めてしばらくした頃に『好きに使いなさい』と大佐の方から渡してくれたん
だっけ。
  どうせ俺以外にも、女はいたんだろうけど、一度たりとも鉢合わせをしたことはない。
  『君だけだよ?鋼の』
  と言った大佐の言葉を信じたわけではなかったが、大佐は女性を家の中に入れないタイプ
だったようだ。
  そんなにマメな性質じゃない。
  例えば女が出入りしていたら、何らかの証拠が残されているのが普通。
  証拠を隠すために掃除をしようとか、そんな発想は皆無の人なのだ。
  だから、本当に。
  合鍵を持ってこの家を訪れるのは、俺だけだったようだ。
  例えば女性と性交渉を持ったとしても、大佐だってれっきとした成人男性だ。
  悲しいし切ないけれど、仕方ないとは思っていた。
  だから、気がついた時には、俺以外の人間に抱かれず。
  ましてや女性を抱かなくなった大佐を見て、それだけ俺を大事にしてくれているのだと信じ
て疑わなかったのだ。
  ランチセットをテーブルの上に置き、そっと足を忍ばせて寝室を覗く。
  が。
  そこに眠っているはずの大佐の姿はなく。
  珍しくきっちりとベッドメイクされた、ダブルベッドの上。
  一通の手紙があった。
  宛名は俺宛。
  エドワード・エルリック殿。
  と、書かれている。
 

 俺は、何だか不意に足元が覚束なくなってしまったような、奇妙な不安を覚えながら、ゆっ
くりと封を切った。

 手紙の書き出しは、封書に認められていたものと同じ。
 エドワードエルリック殿。

 一行開いて文章が始まっていた。
 以外にも癖のない読みやすい文字。
 達筆とか、そんな訳じゃないけど。
 親しみ安さを感じるってーの?そんな雰囲気に溢れた文字だ。

 『この手紙を君が読んでいる頃。私は一つの禁忌を犯し終わった所だろう。君が、私との約束
  の時間通りに訪れていたら、だけどね』
 禁忌?
 ロイが犯すような禁忌なんて、正直想像がつかなかった。
 親友との約束を果たし、軍のトップにと踊り出て。
 更には、軍体制を解体し。
 束の間とはいえ、疲れた民衆に平和を与えて。
 大事にしてきた部下達との穏やかな交流を続けながら、俺と一緒に暮らしてくれるはずで。
 それは、俺の贔屓目じゃなくて。
 ロイを知る親しい人間皆が納得する、やっとの思いで手に入れた、心安らげる時間だったか
ら。
 今更、何をしでかすのかと。
 しでかす必要があるのかと、混乱する。
 血腥い生活は、終わったはずだというのに。

 『私が犯した禁忌は、人体錬成だ』
 人体錬成と、その単語を見た途端全身の毛が逆立った。
 思い出したのだ。
 一度目の母親を呼び戻そうとした錬成と、アルを元通りにしようとした錬成を。
 ……どちらも地獄だった。

 母さんは戻らなかったけど、アルは戻ってきた。
 完全とはいかずに、俺のことを忘れてしまったけれど。
 それでも、戻せたという事実だけで、地獄を見た甲斐があるとも思っている。
 もう二度とは見たくもないし。
 二度とできなくなってしまった技であるけれども。
 
 アルと俺以外に、しでかした人体錬成の詳細を知るはずのロイが何故そんな暴挙に出たの
か理解できなかった。
 等価交換とは名ばかりで、喪うものが多すぎる危険極まりない術だ何て、子供だった俺より
もずっとわかっていたロイが。
 ……何故。

 そして、誰を?

 『人体錬成は死後すぐにという鉄則を承知で、あえて時が満ちるのを待った。自分の知りうる
  限りの方策を施して』
 もしかして、ロイは。
 肉体から長い間離れていたアルの魂が、戻ってきたから、実行に移したのではないか。
 ああ見えて、信じられないくらいに冷静且つ冷酷な判断をも下せる人なのだ。
 俺は今でも、アルを戻せたのは元々アルが生きていた人間だったからなのだと思っている。
 扉を越えて、死んでしまった魂は戻らないのだと、理解したのだ。
 二度、あの扉を越えて。
 いや、正確には扉の中に入って。
 理由はわからない、だけど。
 
 いかなる条件を伴ったとしても、一度死んだ魂は、返らない。

 と。
 
 『君はもう、人体錬成の術を一切使えない。もしかしたらこれから私が記する事の意味すら
  わからないかもしれないけれど。私が帰れなかった時。そして奴が帰れた時の為に、私が
  施した方策を記しておく』

 そこには、何の情報もなしには想像できえない、恐ろしい所業が淡々と綴られていた。
 人体錬成の知識を失った俺でも理解できる、おぞましい世界がこれでもかというほど素っ気
無い文章で。

 「アンタ、ずっと。ずうっとこんな事して、たんだぁ」
 涙が浮かんだ。
 ばたばたと、流れ落ちるそれを、拭う気にもなれないほど。
 俺は地獄に突き落とされた。
 最も愛している、これから先、絶対これ以上人を好きになんかなれないと思う、愛しい人に。
 



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