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 パンパンと嬉しそうに拍手をしてみせる大尉を尻目に。
 「……ヒューズ中佐は、大佐と一緒に会議ではなかったのですか?」
 親しげに置かれた肩の大きな掌から擦り抜けて聞く。
 「あの会議はいわゆる『将』クラスのお話し合いなんさね。ロイが例外なだけさ。『佐』と『将』の
  差ってーのは、簡単には越えられんのよ」
 わきわき、と掌を所在無さげに蠢かしながら苦笑する中佐は、屈託なく笑って返事をくれた。
 大佐は、中佐がいない会議でさぞかし窮屈な思いをされているのだろう。
 階級が一番下である会議に慣れた人ではない。
 理不尽な攻撃をされても、あの下手したら愛くるしいとまで言われる微笑で煙に巻いているの
だろうが。
 私ではどうにもできないのが悔しい所。
 「中尉?どうした」
 「……中佐が同席されていないんでしたら、大佐が無茶されるんじゃないかと思いまして。少々
  心配になったものですから」
 「あーねー。大人しく可愛がられる珠じゃねーかんなー。ま、今日は宿敵なハクロのおっさんも
  参加してないから、大丈夫だとは思うぜ」
 「……そうですか」
 この人と会話をするのは、少し苦痛だ。
 私は大佐の使う、駒であろうと思っている。
 優秀な武器の一つでいいと。
 だから、大佐と同じ私を使う側の人間である中佐には隔たりを感じてしまう。
 特に、大佐はヒューズ中佐を、たった一人の親友として認めているから。
 中佐自身が、私と同じ様に大佐の駒であると自覚していても、大佐は決してそうとは扱わない
ので。
 「何か?元気がない気がするなあ。そんな時はエリシアちゃんの新作写真でも見ておくか?
  かーいいぞう?」
 「……東方司令部でも、十分拝見していますから結構です」
 いつも持ち歩いているのだろう、胸ポケットにいそいそ入れた手を制した。

 「ロイより冷たいなあ。中尉は」
 こんなに可愛いのにねー。と写真に口付けまでしている、その唇が。
 大佐の唇に触れるのを知らない私だと、思っておいでか?
 執務室でコトに及んで、大佐の体臭を当たり前のようにまといながら、首筋につけられたキス
マークを気にもせずに家路へと急ぐ姿を、大佐がどんな目で見つめているのか、いつだって教
えてやりたい衝動に駆られる。
 「そうでしょうか?」
 本当に冷たい女だと、言うのなら。
 とっくの昔に貴方と大佐を引き離している。
 大佐に飼っていただく前は、暗殺専門の狙撃部にいた私だ。
 証拠一つ残さない瞬殺は今でも得意中の得意。
 「そうさよう。美人さんだから、余計こたえるね、中尉の冷たさは。まー上官がロイじゃあ、冷
  たくもなるんだろうがなあ。あいつは甘やかすと付け上がるからしょーがねーのか」
 と、目を細めて言うその様はのろけているようにしか見えない。
 頭の中で、かちり、と何かのスイッチが入った。
 「ヒューズ中佐ほど、私は冷たい人間ではありませんよ」
 「へ?」
 「一番大切な人には、一番優しくしますから」
 きっと傍目から見れば優しくしているようには見えないのだろうけれど。
 私は私の尺度で、何よりも大佐を慈しむ。
 最後には、大佐のために命を捨てるつもりでいた。
 銃から放たれた弾丸のように、大佐を傷つけるもの全てを殺しながら、後には何も残さないの
が理想だろうか。
 「ほう。中尉にそんなイイ人がいるとは思わなかったよ」
 「大佐?」「ロイ!」
 何時の間にか会議が終わったのだろうか、私とヒューズ中佐の間に割って入るように大佐が
現われた。
 「……私が勝手に思っているだけですから」
 「しかも、君が片想い?」
 「告白はきっと、迷惑だと思います」
 大佐はきっと答えられない自分を呪って、私を遠ざけようとするだろう。それぐらいの位置に
つけている自信はあった。
 側にいるためには、告白は厳禁なのだ。
 「そっかなあ。中尉に告白されたら大概の人間は二つ返事でOKするだろうけどなあ」
 「私もそう思う」
 二人ともが、全く同じ表情で私を見つめてくる。
 だから、頑張れ、と。
 ……全く、貴方方だけには言われたくない。
 「……私なぞでは、とても及ばない相思相愛の方がいらっしゃるようですから」
 「それは!」「そいつぁ!」
 何でこうも、相槌のタイミングまでもが一緒なのか。
 苦笑しかできない。
 「私は今の状態で満足しています。相手を思うことで完結する恋愛があってもいいでしょう?」
 「ロイ!お前さん中尉を拝んどけ。節操無の下半身がちったあ、落ち着くだろう」
 「……余計なお世話だ」
 大佐が女性と浮名を流すのは、貴方との関係に色々な意味で悩んでいるからでしょうに。
 私が、言うべき話でもないから、口は噤みますけれど。
 「時に大佐、会議の方はいかがでしたか?」
 「ああ。会議ね。どうということもないのだがね……」
 言いながらファイルを取り出した大佐の右隣に、付けば。
 「ん?俺もちょっと気になる話を聞いてるから、ちくっとそれ関係のネタがあったら聞きてーな」
 ヒューズ中佐が反対側、左隣に立った。
 とりあえずは、今。
 感情的にはどうであろうとも。
 ヒューズ中佐と同じ場所に立たせてもらえるのだ。
 それで、よしとしよう。

 今は、まだ。





                                                  END




 *アイ&ロイのはずがヒューロイ前提オプション付に(苦笑)
  ヒューロイは、自分の頭の中でやっぱり最強カプなんだろうなー。
   もっとこう、策士なリザたんとか、書いてみたい気もするのですが。
   リザたんには、鬼畜戦線に参加して欲しくない親心も有。複雑。





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