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 オリジナル 高城学園 

  二次に飽きる日が来たらこれの更新ばっかりしよう! とか目論んでいるんですけど、
  日々新たな萌がやってきて、なかなか集中できません。
  まぁ、それも良し。
  80歳ぐらいのばあちゃんになっても、こそこそと更新してたいです(苦笑)


 
 登場人物

 月読(つくよみ)
  ……と、ある陰陽師の家系で代々隠されてきた生粋の未来予知能力者。
     高城学園の手を借りて、そちらより逃亡。
     以降高城学園の最下層に一人住まう。
     過去見(かこみ)、現在読み(いまよみ)、未来予知(さきよみ)全ての能力を保持するが、
     未来予知能力が特に秀逸。
     本名不詳年齢不詳。数百年を生きているという噂有。白髪赤目。

 南条 晶(なんじょう あきら)
 ……学園内における、三大ステータスの封神具、称号、守護獣を入学当初から保持すること
    となった稀有の霊視&予知能力者。
    黒髪黒目の天然系。日本五大財閥・南条家屈指の巫女姫。13歳。


 この話は、南条晶と月読のお話です。
 一般人が関われる最高峰の予見斎(よけんし・高城学園内での霊視&予知能力者の呼称)が
晶ならば、予見斎だけしか会う事を許されない日本随一の予見斎が月読。
 
 その特殊能力故に、お互い夢での逢瀬は何度も済ませていたが、現実で会うのは初めて。
 諸々の手続きを終えて、夜も深夜に近い時刻、月読が住まう地下最下層を訪れる、晶。
 迎え入れる月読。

 第一部設定になります。



 
朱鷺
 

 「初めまして月読様。南条晶と申します」
 夢での逢瀬より遥か愛らしい様子に、私は目を細める。
 「初めまして朧月夜。貴女の入学を心より歓迎致する」
 畳の上、用意された座布団にも座らないで、指をつき、深々と頭を下げる晶の両頬を包み込み、
そっと顔を上げさせた。
 「本当に、貴女に会えるとは思わなんだ……」
 「はい。私も。こちらへ伺うなど。ましてや入学が許されるとは思いもしませんでした」
 「理に、感謝せねばいかんな?」
 「はい。理兄様には明日でも、入学場無事に済んだ旨を認めて送ろうと思っております」
 現在読み能力を保持する私達に、無駄な説明はいらない。
 当主という名の一般人相手に、その。
 無駄な説明をし続けるのに、私はどれだけの苦労をしていたのだろうかと。
 満たされた時間になって、初めて思う。

 高城学園に匿って貰うまでは、私はとある陰陽師の家に予知能力者として監禁されていた。
 何百年だっただろう。
 幾千年過ぎていたのかもしれない。
 ただ、当主に請われひたすらに予知をする日々。
 離れとは名ばかりの牢に押し込められて、変わらぬ時間を過ごしてきた。
 予知の中で晶の存在を知り、高城学園の理事長が手引きをしてくれなかったならば、私は
まだ、あの。
 明かりは十分に取り込まれているはずなのに、暗い暗い場所で淡々と終われない生を紡いで
いたに違いない。

 「……月読様? どうか、されましたか」
 感慨に耽っていれば、晶が心配そうに尋ねてくる。
 私がこの愛らしい少女を呼び寄せたのは、何もその容姿や、自分に限りなく近い能力に
惹かれた訳ではない。
 幼い頃から当たり前のように監禁生活を送ってきた彼女には、閉鎖空間で生きることを長く
強要された自分のように鬱屈した暗さがないのだ。
実の兄である理に溺愛されていたからといって、どんなに都合の良い教育を施したせいなのだ
としても、ここまで屈託のない純粋な少女が出来上がるとは到底思えなかった。
 「貴女のような愛らしい存在に会うのは、本当に久方ぶりでな。柄にも無く、緊張してしまった」
 「まさか、そんな事ありえません! 間違いなく私の方が緊張しております」
 身を乗り出して、必死に私の顔を覗き込む彼女の瞳が、美しい物に感極まった潤みを帯びる。
 「だって、こんなに美しい。ああ……朱鷺のようですね」
 「朱鷺?」
 そうと、称されたのは初めてだ。
 大変の人間は私を化け物扱いする。
 同じ能力を持っている相手でさえも。
 「月読様の瞳の色。朱鷺色って表現致しませんか。後は、貴重で希少だと言う点でも、似てい
  るかと思ったのですが……ご不快でしたか?」
 「いや。そんなに美しいものに表現されたのは初めてだ。嬉しく思う」
 「そうですか! 失礼していないのでしたら、良かったです。私は随分と世間を知らないよう
  ですので……」
 「ははっつ! 晶を世間知らずと称するならば、我は何と称されれば良い事か!」
 「いいえ……いいえ。私と月読様では、何もかもが違います。私は満たされておりましたし……」
 諦めてもおりました、とそこだけはらしくもないのだろう、小さな小さな囁き。
 「我も、長く諦めておったよ。色々なことをな。諦めるというよりは、望む気力もなかったからな」
 一般社会へ出た所で、自分のような存在は迫害されると信じていた。
 だからこうして。
 高城学園で穏やかな生活を送っていると、自分の悲しい妄想が生み出した世界を夢で見て
いるのではないかと疑心難儀に陥ることがあった。
 「それでも、月読様! 今の生活には満たされていらっしゃるのでしょう?」
 「ああ……とても満たされている。高城へ来るまでの煉獄も夢のように思えるよ」
 「……月読様は、こちらでずっとお過ごしですか」
 「ああ。そうだ。理事長は、皆と一緒にと言ってくれるがな。長く決まった相手としか関わって
  こなんだから、今更、という気持ちが強い」
 「そう、ですか……」
 恐らく彼女は、自分を日の当たる場所へと連れ出したいのだろう。
 それが、私のためになるのだと、無垢な心のままに。

 責める、つもりはない。

 「私はここで、満足している。何不自由ない生活を送れている。とても、幸せだ」
 何より、目の前に。
 望んだ少女が居る。
 自分を迫害せず、自分と同等の能力か、もしくはそれ以上の潜在能力を保持する存在。
 どれほど欲しがっても決して、得られないと思い続け、それでも希望が捨てきれないでいた。
 捨てないで良かったと、心底思う。

 「だから、このままでいさせておくれ」
 「……はい」
 「でも、貴方には時々ここを訪れて欲しいと思っておる」
 「はい! それは勿論喜んで。時々とは言わずに毎日でも!」
 「ふふふ。それは楽しみだ」
 愛しいとまで思う屈託ない少女の未来を、実は読んでいる。
 何故ここまで酷い未来があるのかと、自分の過去を振り返ってもない陰惨さには溜息しかで
ない。
 私には大切な人がいなかった。
 故に絶望を知らずにこれた。
 だが、晶には幾人もの大切な存在があった。
 とても、とても。
 心優しい娘なのだ。
 だが、晶の未来はその幾人もの愛しい存在を失うことになる。
 そして、それに耐え切れなかった晶は……。
 絶望を、知るのだ。
 「月読様? どうかされましたか」
 「や。何。少々読みを、な」
 「未来予知ですか」
 「ああ、そうだ」
 「……どんな予知なのか、聞いても宜しいでしょうか?」
 「良いよ」
 晶がずいと膝を進めてくる側で、私は側に置いてあった漆塗りの蓋付の菓子入れを手にした。
 ごくりと晶が喉を鳴らす様に、ゆったりと笑みかけながら蓋を開ける。
 「この中身を、晶と食べる予知だ」
 「まぁ!」
 驚きと喜色を同時に乗せた晶の美しい瞳が月読と菓子入れの中を交互に見詰める。
 季節の和菓子の詰め合わせは、晶の目にも叶ったようだ。
 「茶を淹れよう。抹茶、煎茶、玉露、ほうじ茶などがあるが?」
 「どれも大好きです」
 「では、今日封を切ろうと思っていたほうじ茶に」
 「はい! あ……私が淹れましょうか?」
 「いや。それはまたの機会に。今日は私にさせておくれ」
 「ありがとうございます」
 笑み綻ぶ瞳の中に今、闇は一切ない。 
 誰が忘れても、本人すら忘れても私だけはこの美しい瞳を覚えておこう。
 壊れても尚、心根の美しさを失えない彼女こそが。
 絶滅種である、美しくも儚い。
 朱鷺だということと共に。




                                         END



 *あるぇえ?
  いやに早く終わってしまってびっくり。
  もっとこう、ねちねち書くつもりだったんだけどなぁ。
  オリジナルの小話もさくさく書きたいんですよね。
  久しぶりに書くと設定を忘れすぎていて泣けます。
  オリジナル小部屋でも作ればやる気が出るかなぁ。
 2011/07/10




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