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 『ああ、そりゃ恥ずかしいですよね』
 と訳知り顔で頷いて、以降こうして毛布越しだったり、明かりを完全に落として手探りで事後
の始末に挑んでくれる。
 絶対、私自身にやらせようとしない所に、愛情を感じるのだが。
 時々、もっと好き勝手にしてくれてもいいのになぁと。
 いざされてしまった日には怒るのだろう間抜けた考えが浮かんだりもした。
 「ひっつ」
 「あれ冷たかったですか?」

 そっとそっと触れた指先に開かれて、中から溢れ出る感触に怖気が走っただけ、とは中々
言いにくい。
 「冷たい、訳じゃない」
 「続けても、平気です?」
 「ん」
 シーツに爪を立てて、どうにか声を殺す。
 男でも慣れれば濡れるのかとしみじみ。
 今日はゴムをつけてしているので、私の中にブレダの精液は残されていないというのに。
 入り口を拭われて、ティッシュを指先に絡めて今度は奥までを丁寧に拭われる。
 体内にティッシュのカスが残ったら、本当に間抜けだ!とか思ったりもするんだが、卒のない
ブレダの手にかかれば、そんな気の抜ける事態に陥った事は一度もなかった。
 入り口に濡れた感触ではなく、かさつく感覚が大きくなってきた頃、ブレダは毛布の中から
出てきた。
 「も、大丈夫だと思いますけど」
 「…ああ、ありがとう。綺麗にして貰った」
 これだけ丁寧に後始末をされた日には、寝覚めはさぞかしすっきりすることだろう。
 「…私も、しようか」
 「はい?」
 「ブレダの、アレ。口でお掃除?」
 「ぶっつ!すんげーセリフを真顔で吐かんで下さい!」
 はあと肩を落としたブレダは、私の隣にもそもそと移動してくる。
 「んな、事してもらった日には、また勃起しちまいます。勘弁して下さい」
 「まだまだできるだろう?」
 「……大佐がもたないでしょう?」
 「…む……」
 やれやれと、困った顔で腕枕。
 こいつの腕枕はむちむちで、うっとりするほど寝心地が良い。
 肉がへにょんと沈むから、高さもいい感じになるんだな、これが。
 「明日はお仕事ですからね。無茶は駄目でしょうに」
 「でもさぁ」
 「ナニにせよ。中尉の的になりたいのなら、大佐一人でどうぞ」
 それを、言われると辛い。
 「諦める……残念だ」
 「……わかってますかね?俺も、残念なんですよ」
 「そーは見えないぞ」
 「先刻から、突っかかってきますねぇ。ナニがご不満です?」
 剥き出しの肩に、ふわりと毛布がかけられる。
 優しい毛布の感触と、ブレダの腕枕は私の睡眠突入必須アイテムなのだが、今日は誘惑に
負けずブレダの顔を見上げれば、至近距離。
 緑がかったような、青が入ったような、やわらかく色彩の薄いブラウンの瞳が、じっと私を
見詰めていた。
 「不満っていうか、不安」
 「不安?」
 「そうだ。不安だ」
 「どの辺りが?」
 「愛されていない気がする。私だけが愛している気がする」
 私のセリフを耳にした途端。
 「ロイさん?」
 何だか、くったりとしたブレダが私の耳元に懐いてきた。
 「なにがどうなって、そんな思考に落ちるんですか。最初に言っておきますけど俺、ここま
  で恋愛に溺れた事ないっすよ?」
 「どこが、溺れているんだ」
 「全部が全部です。仕事中どころか作戦中だって、にやけた顔してばばんばーんなんで
  すから」
 「……詳しく、頼む」

「詳しくって、アンタ…こっつ恥ずかしいんですけど」
 「恋人が不安がっているんだよ。口を尽くしてこそ、ラブラブというものじゃないのかね」
 「うーん」
 目を閉じて苦悩する風情。
 何でそんなに恥ずかしいのか、イマヒトツわからない。
 「……仕事中ですねぇ……ふっと、集中が解けるときってあるじゃないですか?」
 「ああ、よくあるな。たぶん、お前よりあると思う」
 「……あんまし、サボらんで下さいよ?……ってーのはさておき、そやってね。ほーっとした
  瞬間に浮かぶのがアンタの事ばっかりなんですよ」
 「私もそうだぞ。普通じゃないのか、それって」
 「…俺にとってはね。普通じゃなかったんですよ。気の抜け時に考えるのが、恋人の事、
  一辺倒だってーのは、ね」
 苦笑されて。
 その恥ずかしさの度合いが伝わってくる。
 苦手な事を、それでもやってしまう。
 更には、やってしまって恥ずかしいが、後悔はない。
 後悔がない所にこそ、苦笑。
 そんな風情。
 「後はアレっスね。アンタの事考えると、場所がどこでも条件反射のように勃起、しちまうんで
  すよ。全く。それだけってーのも、嫌じゃないですかね?」
 「それだけ、だったら、嫌だけれど。違うだろうが」
 どうしたって比べてしまう過去の男達を思い浮かべる。
 私が欲しがるよりも、私が欲しがられる方だった。
 身体で好きな相手をつなぎとめて置けるのならば、楽な事だとすら思う。
 ましてや、これだけ甘やかされれば、尚の事。
 「……違って、ます?俺だけが、欲しがってるんじゃないっスかね?」
 「……むしろ、足りないくらいだ。もっと、してもいいんだぞ?」
 抱擁が不意に、きつくなった。
 やわらかな胸肉に、顔を押し付けられてしまう。
 思わず息が詰まってしまう、激しい抱擁だ。
 「ちょ……ブレ!……」
 抗議の声も、肉に吸収されてくぐもったものになった。
 「ほんっと………アンタって人は……どこまで、俺を溺れさせれば気がすむんスか?」
 前半は怒りめいて、後半は欲情を孕んで掠れる。
 私は、腕の肉をぷにぷよと摘んで、抱擁を解くようにねだった。
 大きく波打った胸に、むぐむぐされている内に、拘束がゆるくなった。
 ぷは!っと大きく息を吸って、ブレダを見やる。
 私を好きな、私が好きな男が必ずといっていいほどする、甘い、眼差しをしていた。
 「お前、私に溺れているんだな?」
 「……こんなに、溺れた事はないですね、って程度には。めろめろですよ。このトシになって
  も、ここまで執着できるモノが新たにできるっていうのは、驚きに値しますぜ?」
 「……なら、良いか」
 今までの男と、ナニが、どう違くても。
 溺れているという言葉が出る激しさで、私を、好いていてくれるのならば。
 きっと。
 不安がる必要はないのだろう。
 「少しは……不安じゃなくなりましたか」
 「ん……でも、今後、言葉は惜しむなよ?それから、SEXに関しては遠慮するな。本当に駄目
  な時は、ちゃんとに拒否するから」
 過去には、怒鳴って暴れて、拒否した事だってある。
 誘っておきながら、お預けを食らわすように、焦らす真似も。
 が、ブレダはそのどちらもやらせてはくれない。
 それだけ、私の身体や心を思いやってくれているという事なのだろう。
 「女性じゃないがな?たまには、強引にされたい事もあるんだ」
 大好きな食感の、頬をあみあみと噛みながら囁く。
 瞬間で、ブレダの顔が真紅に染まった。
 「……ホント…勘弁して下さい。俺、自分は頭でやるタイプだと思ってましたよ、貴方とするま
  では」
 「ふん?」
 「身体に心が引きずられるなんて、ヤリタイ盛りの子供でもあるまいし……でも、たまには…
  そーゆーのも悪くないん…ですよね?」
 「うん。ティーンエージャーのように盛ってくれたまえよ」
 「盛って!……んっとに、もう…困った人ですよ」
 額に届いた唇は、濡れてはいたけれど情欲を纏っていなかった。
 ここまでしても、続きはせずに私を寝かしつけようとするブレダの頑固なまでの優しさが可愛
い。
 「お前、可愛いよなぁ」
 「へ?可愛い…っスか?」
 「うん。すっごく可愛い」
 だからね。
 今まで持っていた恋愛観など、ぶち壊して私に溺れるといいよ?
 私も、そうする。
 「……ま、何にせよ、貴方がそやって笑ってくれれば、俺も嬉しいです」
 「私もだ」
 「おやすみなさい……続きは、二人の休みが重なった時に心置きなく。そん時は、お互いの
  腰が立たんほど、やりましょーや」
 「……楽しみに、しているよ」
 だったら次は、ブレダのぷよぽよの肉に包まれるようにしての、正常位をオネダリしてみようと、
爛れた思考をめぐらせながら。
 私の眠りを引き寄せてくれる。
 ブレダの胸の上、頬を寄せた。




              
                                              END




 *最後の最後までブレさんの口調がさだまりませんでした。むぅ。
  キン様再来のようでした。もう少し書く機会を増やしたいものです。





                                         前のページへメニューに戻る
                                             
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