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 オリジナル 高城学園
 

 我ながら、何でこんなに登場人物を出したんかなーとしみじみ思う、オリジナルのシリーズ。
 主要キャラは、晶、草薙、桐ノ院の三人だと思ってますが、とくかく設定が多いんですよ。
 やっとこさ過去の同人誌を発掘しましたので、読み直して頑張りたいと思います。
 やーよく書いたよな、自分。B5の同人誌ニ段組50Pとか書いてました。あははん。



 登場人物

 桐ノ院和臣(きりのいん かずおみ)
  ……高城学園中で最高権力を保持するお人。冷静沈着。
     眼鏡の似合うクールビューティー。ただし、晶にはめろ甘。18歳。

 南条晶(なんじょう あきら)
 ……可憐なと称される黒髪黒目の美人さん。
    直江を失ったことにより自我を完全に喪失。現時点では、ほとんど人形な感じ。15歳。

 この話は、桐ノ院和臣と南条晶お話。
 直江という協力者でも恋人でもあった最愛の存在を失って、壊れた晶を抱き締める和臣。
 抱き合っている今よりも、抱き合わなかった昔を懐かしむように。

 二部構成になっておりまして一部、二部と設定がだいぶ変わります
 この作品は二部設定になります。


 


 香水
  

 「晶……寝てしまったのですか?晶」
 窓辺の椅子に座って何時間も外を見ていた。
 昔から雪が好きだったから、少しでも正気に返ったのかと抱いた望みは何時も通りに儚く砕
け散る。
 私の呼びかけに反応もせず、晶はまだ雪を見続けていた。
 しんしんと降り積もる雪は、風に飛ばされては舞い散る粉雪。
 今夜も降り続けるだろう。
 「そろそろ眠らないと身体に毒ですよ?」
 食事も、睡眠も誰かが与えなければ取ろうとしない。
 日がな一日、学園中のどこかにある椅子に座ってただ、忘と目線を彷徨わせている。
 今日はこうして私達の部屋の中で、大人しくしてくれているだけで、いい方なのだ。
 私の毎朝の日課は、行方知れずの晶を探す事なのだから。
 滑り落ちた膝掛けを拾って腕にかけると、そのまま晶の身体を抱き抱えようとする、と。
 ぴしゃっと、手首が叩かれた。
 「晶?」
 何時もなら、逆らいもせずなすがまま。
 私の腕の中で魘され続ける眠りに、落ちていくというのに。
 「まだ、雪を見ていたいのですか?」
 返事はなかった。
 ただ、一瞬だけ視線が絡む。
 その通りだ、と。
 告げて寄越したようだ。
 「……わかりました。ではこうしましょうか」
 晶を膝の上に乗せ、膝掛けをかけると、自分の背中から晶を包むようにして毛布で包み込
む。
 今度は抵抗がない。
 また、窓の外を見る、晶の目は切なくなるくらいに透き通っていて綺麗だ。

 ゆっくりだが規則的な心音が伝わってきて、ああ、生きているのだなあと安心すると共に、生
きているだけなのだな、とも思う。
 協力者であった直江を自分のせいで失った晶は、完全に己を手放してしまった。

 友人の少なかった直江の数少ない友人だった草薙が、事の詳細を教えてくれた時、私は決っ
して直江としたいし間柄ではなかったけれど、彼女の気持ちが手にとるようにわかった。
 私が同じ立場にあっても、きっと。
 同じ道を歩んだだろうから。

 晶は予見斎として、あまりにも有能すぎた。
 一番血の繋がりが濃い者同士が交じり合って、予見斎を生み出してきた破綻は、何十年、何百
年の年月を経て、既に限界地にあったらしい。
 強すぎる血は、人の身体に納まっていられるものではなかったのだ。
 このままいけば後数年と言われた愛しい人の命を、どうにか引き伸ばせようと思うことの、どこ
が罪だというのだろう。
 直江は、完全変化(フルトランス)ができる人狼の血を濃く受け継いでいた。
 その人ならざる者の血を使って晶の血を触媒に、完全に獣に変化することで、晶の寿命を引
き伸ばそうとした。
 結果。
 直江は人の身体を捨て狼化し、遊絲となって、晶の守護獣になった。
 そして晶は、その強すぎる能力は何ら損なう事無く、普通の人間として生をまっとうできる身体
に変化した。
 正確には、晶の身体に掬っていた、その身体を蝕むだけの因子を、直江が全て触媒に使った
のだろう。
 代わりに。
 狂気に憑かれてしまったのだ。

 直江ヲ失ウクライナラ、死ンダ方ガ、良カッタ、ノニ。

 涙が乾かない瞳も虚ろに、ぶつぶつぶつぶつと、呟き続けていた。

 誰にも優しい晶が、初めて執着した人を失って生きてゆけるほど、強い人間ではなかった
のだ。
 
 晶が己を放棄して、既に数ヶ月が経とうとしている。
 最近では、狂人の行動そのまま。
 私達のわからない世界に生きていた。
 草薙などは、恐らく本当の意味での最後の砦となるだろう、晶の実兄・理の所へ一度帰して
みろという。
 例え晶が、そこで狂気ではなく死を選んだとしても、直江を失った晶にはそこが本来変える
場所であるだろうからとも。
 どんなに忙しくとも、体調が悪かろうとも、晶はその時の心情や状況を織り綴った手紙を必
ず、週に一度兄に書き送っていた。
 『そうする事が、高城学園に転入する条件だったのですよ』
 と穏やかに微笑んだ晶は、いつも楽しそうに手紙を書いていた。
 うっとおしいとか、面倒だとか。
 そんな否定的なセリフを一度足りとも口にしなかった辺りからも、晶にとって、兄が、血の繋
がった人間というだけでなく、とても大切な人間なのは察せられた。

 南条家の予見斎を生み出す為の、悪習は既に調べがついているので、熟知している。
 実の兄妹が交じり合ってできるのが、予見斎。
 そして、その能力を譲り渡した途端。
 先の予見斎は死ぬ事となるのだ。
 つまり南条家は、理の子を晶に孕ませて、晶が子供を産んだ途端死ぬのを待ち望んでいる
という話。
 晶を死なせたくなくて、高城学園に送り込んできたというのならば。
 どうせ死ぬのならば、己の手でと理とて思うだろう。
 何度も会ったけれど、晶を溺愛しているという他は、人間としても兄としても、恐らくは生涯の
伴侶としてでも出来た人なのだ。
 私とて、このままの状況が続くのを良しとはしない。
 理の下へ返して、晶が正気に戻るかもしれない可能性にかけた方がいいのも、よくわかって
いる。
 でも。
 私の一方的な片想いでしかないとしても、晶がイトオシイのだ。
 自分の腕以外、誰の手にも渡したくはないくらいに。

 髪の毛に顔を埋めれば、私が毎日洗っている軽やかなフローラルシャンプーの香り。
 首筋に口付ければ、草薙が調合して寄越した石鹸が生み出す不思議と爽やかな花の香り。
 そして、何をつけずとも、ただ私の鼻に香る甘だるいその体臭。
どこからともなく、その全身から漂う微かな。
 狂気を示す。
 腐臭。

 「晶……」
 腐臭は、刻一刻とその香りを強めている。
 このままでは、死人のそれと変わらなくなり、私以外の人間が気付く日も遠くはないだろう。
 本来ならば匂いすらも凍りつくこの寒さの中でも漏れるのだ。
 限界は目の前に来ている。

 「愛してます」
 私の伝える熱出ようやっとぬくまる細身の身体が、永遠に冷え切ってしまう前に。
 この、華奢な肉体を手離さなくてはならないのは、わかっているけれど。
 どうしても、手離せないのだ。
 もしかしたら、もう二度と。
 私の手の中には、戻ってくれないと。
 そう、思ってしまうので。




             
                                                      END




 *高城学園 桐ノ院×晶
  ゆるゆると18禁で、反応のない晶身体を貪る桐ノ院を書くつもりだったんですが
  
全く違う話になってしまいました。
  この二人の場合肉体的な繋がりは、理に会って、晶が別人として帰って来た時
  に必要なんだなあと思いますよ。

 何時か、ちゃんとに書きたいものですね。



                             
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