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 古戦場


 「ここが、そうなの?ロイ」
 「ああ。そうだよ。ここが、イシュヴァールの聖地と呼ばれた場所だ」
 私の背丈の数倍はある慰霊碑が立つ他は、何も。
 何一つない、更地。
 若かった頃のロイが、綺麗に焼き尽くしてしまった、場所。
 きっとロイはこんな場所、訪れたくはなかっただろうけれど。
 私はどうしても見てみたかったのだ。
 
 パパが側にいない時に、ロイがやらなければならなかった。
 悪魔の所業というものを。

 何もないが故に。
 留まる場所もなく駆け抜けてゆく風が、私の髪やスカートを揺らす。
 顔を覆い尽くすように乱れてしまった髪の毛を直そうとした私の手はロイの掌で優しくいなさ
れて、代わりに大きなロイの手が私の髪の毛を掻き上げてくれる。
 ロイが着ているマントで、くるくると巻かれてしまった私は、ロイの顔を見上げた。
 目線が絡めばロイは、私が大好きな笑顔を向けれくれる。
 どんなワガママでも、ロイは笑って聞いてくれた。
 私の前でも、ママの前でも笑顔以外のロイは見たことがない。
 パパが生きていたら、きっとこうやって微笑んでくれただろう。
 ワガママも聞いてくれだろう。
 生きていたのならば。
 
 ロイがパパの代わりをしてくれてるのだと知った時。
 私は既に、きっとパパに抱いたであろう愛情とは違う感情を、ロイに対して抱いていた。
 だって想像してみて欲しい。
 かなりな年上だけれど、すごく若くも見えて。
 パパより背は低いけれど私よりは高くて、容姿は端麗。
 綺麗な黒髪と吸い込まれそうな黒目。
 どんな悩みにでも適切な助言をくれて。
 しつこくもなく、離れすぎもせず。
 忙しすぎる人なのに、時間もお金も。
 愛情さえも、惜しみなく注がれて。
 ましやて、パパの想い出をやわらかい言葉で語ってくれるのだ。

 好きになるなと、いう方が無理だ。

 ロイが一度だけ囁いた事があった。
 私のせいで、ヒューズは死んだのだ、と。
 ロイは私に嘘をつかないから、きっとそれは本当のことなのだと思う。
 遠い、薄れてしまいがちな記憶の中で、パパはとても私を愛してくれた。
 そんなパパを死なせたロイを、本当は憎むべきなのかもしれない。
 実際ママは、時折ロイが憎い風なでも憎みきれないような、複雑な言葉を口にする時があっ
たから。
 でも私は憎めなかった。
 憎まなくてはいけないのかもしれないと思った時には、もう。

 愛していたから。

 パパとは違う形ででも、ロイを守っていこうと誓ったから。
 ここへ、連れてきて貰ったのだ。

 「ロイ?」
 「ん?寒いのかな?」
 優しく私を拘束していた腕に、やんわりと力が篭もる。
 もう、熱くなったりはしないのだろうか。
 穏やかなぬくもり。
 「ここは、ロイが壊したの?」
 「……そうだよ。私が壊したんだ。ここにね、それなりに大きな街があったなんて、信じられな
  いだろう」
 「ええ」
 「でも、確かにあったんだよ。私が全て焼き尽くしてしまうまでは」
 声を荒げる事もなく、掠れさせる事すらなく。
 淡々と事実だけが紡がれる。
 心の中での凄まじい葛藤を、ロイは微塵も表面に現わさない。
 パパの、前でだったら、違かったかもしれないけれど。
 「……怖い?」
 「いいえ。だってココにはもう何もない」
 そう、何も、ない。
 「怖いと、思いようがないわ」
 「エリシアは現実主義者だね。ヒューズもそうだった。君はグレイシアに似ている所も多いが、
  ヒューズに似ている所も多い」
 私の中に、パパを見つけて、ロイは何時もと違う微笑を浮かべる。
 ロイがパパをとても、愛していたのだと、実感させる何ともいえない切ない笑顔。

 ごめんね、パパ。
 私はロイを選ぶ。
 ロイを守る事を誓う。
 パパがロイの側に居たくても、居られなかった、この、戦場で。

 どうやって守るかは、まだわからない。
 結婚して、側にいるかもしれないし。
 軍部に入って、部下として働くかもしれない。
 でも、パパのようにきっと、ロイのために生きて。
 ロイのために死のうと思う。

 それでも、パパは許してくれるよね?
 私がもし、パパが愛した、ロイを守って死んだのだとしても。

 私の思考など知りもせず、身動きしない私を優しく抱えてくれるロイの胸に背中を預けて目
を閉じると、私を大きく安堵の溜息をついた。




                                            END




 *エリシア×ロイ
  はあはあ。こんなエリシアたん、ヒューズじゃなくてもぶっとびますね。とほほん。
  書いた本人は大満足です。すみません。
   エリシアたんが国家錬金術師になったら二つ名は何だろう?
   それこそ、ぴちょんくんの錬金術師はどうだ!
   生き物に対して術を発動すると、それが皆ぴちょんくんに変化する。
   快適化が大好きなぴちょんくんが大量発生すれば、地球にも優しいぞ?
   ……どこまでオリジナル化すれば気がすむのか、自分。





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