休暇
「大佐……起きろよ!今日はデートじゃなかったんかよ!」
耳元で、鋼のの声が聞こえる。
やっと寝付いたところだというのに、何だってこんなに早く起こしたがるんだ?
「今、何時だと思っているんだよー!この年寄りめー」
鋼の?お年よりはな、むしろ朝が早いんだぞ。
「クラブハウスサンドだって、作り終わったぞ。紅茶だってたーんと詰めてある」
ああ、何度教えても上手く出来ないから私が作ると言ったのに。
紅茶だって、また煮出しすぎなんだろう?
「早く出かけないと!あ!……ああ、やっぱしい」
大きな溜息が落胆を孕んでいるのに、薄目を開ける。
「鋼、の?」
「もう!起きたって遅いの!雨降ってきたじゃんか」
だから、早く出かけたかったのに!
と年相応か、それよりも幼い仕種で地団駄を踏む鋼のを、手招きで呼び寄せる。
「何さ!俺、機嫌が悪いんだからなっつ」
などと口にしつつも、私の手招きに応じる辺りが、ま、らしい。
「ベッドの中も、悪くはないだろう?……二人でいるんだから」
左頬を枕に預けている私の側に、むっとした顔を乗せていた鋼のの顔に、見る間に朱色が差
した。
「だーっつ!駄目っつ!そんな可愛い顔しても駄目っていうかさー。外に出るのって大佐のた
めなんですけど」
頬の肉を、むにーっつとばかりに引っ張られた。
いまだ半覚醒状態なので、痛くは無いが引き攣れる感触は残っている。
「二人っきりで部屋にいたらSEXばっかしじゃんさー。俺はいいぜ?ヤリタイ盛りを極めつつあ
る今日この頃って奴だからさあ。でも、大佐がきついだろうよ。昨日の今日じゃあ、さ」
昨日の今日どころか、解放されたのは明け方だ。
正確には、今日の今日。
ご指摘通り、身体はだるいを通り越して辛い。
このままなし崩しにベッドで過ごしてしまえば、明日は自主休暇を取らねばならないくらいには。
外出も厳しかっただろうが、二人で爛れたSEXライフを送るよりは、健康的だっただろう。
「雨が降るのはわかっていたからね。外には出たくなかったから、つい」
「何で雨が降るなんてわかる……ああ、古傷が痛むんだ?」
「そういうことだ」
ほぼ100%の的中率を誇る、天気予報よりも頼りになる自分の身体。
ドクター・マルコーがいなかったのならば、私なぞ、何度死んでいた事か。
彼がいなくなってから、死に至る怪我をしなかったのは、ただ単に運がいいだけ。
それでも、縫う程度の軽傷なら幾らでもある。
傷は男の勲章なんて、誰が言ったのかしれないが冗談じゃない。
きしきしと、傷が痛む度に。
その時の悪夢を思い起こさせる。
雨の日は、特に。
静かに目を伏せれば、鋼のの口付けが閉じた瞼の上に届く。
幼いながらも人の機微に敏感なのは、声以外に感情の表し様がない弟を持つが故か。
「今も、痛い?」
「いや。今は君がいてくれるからね。さほどでもないよ」
痩せ我慢でもなく、誰かが側にいてくれると痛みはやわらぐ。
心の軋みが起因しての痛みは、事の外。
同じ痛みを知る者ならば、何より、心も楽。
「そっか。ま、俺の機械義手も雨はあんまし良くないから、今回は諦めるとしますか」
ベッドから下り様、着ていた上着を脱いでノースリーブのシャツ一枚になる。
「とりあえず、コーヒーでいいか?」
「ああ」
私と自分のマグを持ち、キッチンに向かう鋼のの背中に微笑みかける。
外でできなかったピクニックを、せめて部屋の中で。
クラブハウスサンドにあう、野菜がたっぷり入った暖かいクラムチャウダーを牛乳をたっぷり入
れて作る事にしようと、私はベッドヘッドにかけてあった、バスローブにそっと、袖を通し始めた。
END
*エドロイ。
エドロイイベント余韻のままに完結その2(笑)
もそっと甘く、もそっとエロくなる予定だったのですが。
なかなか思う通りにはゆかないものですねー。