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 小説 十二国記 

 OL時代、本に恵まれた生活を送っていた時『十二国の新刊はー!』『今月もでないよ(泣)』っ
ていうのが、月に一度叫ばれてた気がします。
 ホワイトハート版、講談社文庫版。どちらも持ってるマニアです。
 現在何巻だ?ホワイトハートで11巻。+新潮文庫『魔性の子』も入れて十二冊ってとこですか。
 オークションだと5000円以下で入手可能な模様。
 中国風ファンタジー小説っていうのが、一般的な形容らしいです。
 キャラもたっていて、設定もばっちり。安心して楽しめますが、発刊ペースが恐ろしく遅いのが
唯一の難。

 登場人物

 中嶋陽子・景王(なかじまようこ・けいおう)
 ……十二国ある内の一国、慶国の女王。気弱な女子高生だったはずが、気が付けば男前な
   武断の王になりつつあります。かなり萌。

 浩瀚(こうかん)
 ……慶国の冢宰。王としての実務に不慣れな陽子をそつなくサポート。
    いかにも怜悧な三十前後の男性。これまた萌。


 黄昏の岸 暁の天の、後数ヶ月ぐらいの話と思っていただけると幸せです。




 夕凪(ゆうなぎ)
  
                                     
 
 「全くもう、陽子ったら、どこへ行ったのかしら」
 すたすたと足捌きも軽やかに歩いてきたのは、元芳国が公主・孫昭。
 今は祥瓊と名を改め、主上が信頼する数少ない女史の一人として、王宮に住まう少女だ。
 「景王を御捜しですか?」
 「ああ。浩瀚様」
 袖に両腕をしまいこみ、膝をついて挨拶をする。
 元公主とは思えない腰の低さだが、ここに来るまでには色々とあったようだ。
 楽俊殿からも、本人からも聞いた記憶がある。
 少なくとも現在は主上の信頼も厚く、ご学友としても得がたい存在だといえるだろうが。
 「はい。見ていただきたい書類があったのですが、お姿が見当たらなくて……」
 「そうですか……」
 実は私も、何件か申し上げたい事もあり、お姿を捜しているのだが、とんと見つからない。
 後は行きそうな場所といえば……。
 「良ければ一緒に預かろう。君には他の仕事もあるだろうから」
 瞬時迷った風ではあったが、書類がすっと手渡される。
 「お手数お掛けしますが、よろしくお願いいたします」
 「ああ、確かに渡しておこう」
 見れば、数日前に承認していなければならない件の書類だった。
 思わず、口が悪くなってしまう祥瓊の気持ちもわかる。
 もう一度深く腰を折った祥瓊に、目礼で応えると、私は最近主上が気に入っている場所へと足
を早めた。

 「……やはり、こちらにおいでか」
 梧桐宮。
 鳳凰・鸞など、霊鳥と言われる類が飼われている場所。

 三代前の景王が、その手の収集捕獲に目がなかったらしく、多種多様な鳥が優美な動きで
羽ばたいている。
 「主上!」
 大きな声で御名を呼べば、数匹の鳥がばたばたっと驚いたように飛び立った。
 「浩瀚?」
 「そうです。お捜ししましたよ?」
 「それは、すまなかったな」
 私の大声にも怯えなかったのか、主上の腕には紅鴻翔(こうこうしょう)が止まっている。
 霊鳥として名だたる鳳凰に勝るとも劣らない体躯と、2丈ほども垂れ下がって裾を地に散らした
真紅の尾。
 頭には繊細な飾り物にも似た鶏冠。
 尾に万病に効くと云われた成分が多分に含まれているせいで、全滅寸前まで乱獲された種だ。
 梧桐宮には二対の番が飼われているが、警戒心が強い為その姿を見るのも稀。
 ましてや、人に慣れる性質ではないので、腕に止まるほど懐くというのは滅多にないどころか、
文献にすらなかった。
 「紅鴻翔が、人の腕にとまる姿を初めて見ました」
 「そうなのか?ここに入るといの一番に飛んで来てくれるんだが。微妙に大きさが違うから、た
  ぶん、四匹いるんじゃないかと思う」
 と、いうことは梧桐宮全ての紅鴻翔が主上に懐いているということか。
 「人懐っこいから、そういう種類の鳥かと思っていた」
 主上の指先が紅鴻翔の喉元を撫ぜれば、ククルウウと、嬉しそうな鳴き声を上げている。
 本当に主上が好きなのだろう。
 「主上はこちらが、お好きですね」
 「そうだな。皆、邪心なく懐いてくれるから…好き、というよりは楽、だな」
 苦笑と共に、軽く紅鴻翔の背に触れると、それが何らかの合図でもあったかのように、主上の
腕から空高く舞い上がった。

 「私が景王だと知ると、皆、がらりと態度を変えるだろう?」
 鳥の飛んで行く先を眺めた後で、微苦笑を浮かべた主上が私を振り返る。
 「主上も、相手によって態度を変えるかと思いますが?」
 「まあね。確かにそうだ。景色私だって麒と延王に対して同じ態度はとれない」
 そんなことがおっしゃりたいのではないと、重々承知しているけれど。
 「浩瀚も思わないか?たまには気の置けない友人達と、気さくに食事をしたいなあ、とか」
 「そうですね……時折考えます」
 まだ松塾にあった頃、私が冢宰という位につくとは思わなかった、遠い
昔。
 卓子を並べて学んだ友達の中には。今でも親交の深い者達もいる。
 だいたいが喜ばしい事に、要職といわれるものについているせいもあって、なかなか都合がつ
かない。
 堯天を訪れたからと、久方ぶりに誘われたところで、私が忙しく断ることも少なくなかった。
 役職が違えば仕事も違う。
 関わる賞罰も異なった。
 ましてや私の周りに主上を悪く言う相手もいないので、下種な勘繰り合いをしなくともよいだけ
でも、楽、だ。
 主上も、蓬莱では、女子高校生であられた。
 文献や蓬莱に頻繁に足を運ぶ延麒にお話を伺うに、今の生活とかけ離れた日常を送っていた
のは察するにも余りある。
 お年頃にも関わらず、己を飾り立てる嗜好もなし、王よ、と崇められることで虚栄心を満たすな
ど、考えもしない無欲なお方だ。
 きっと、今一番の望みはと問われれば、真摯に『民の幸福』と答えられるだろう。
 そんな方が、密やかに望む。
 己を王と思わず、一個人として下ってくれる存在と戯れる時間、を。
 本当に、奪いたくはないのだけれど。

 「私はこちらに友人というものがいないから……まあ、あちらにいた時も考えてみれば友人な
 んて存在はいないけれど。だからこそ、それっぽい存在があるといいねぇ、なんて思うんだ。
 時々」
 人語を解すとはいえ、人の言葉を操れない鳥を友人と呼ぶほどに、この人は孤独なのだ。
 それがきっと王というモノ。
 半身ともいえる麒麟も、生真面目な性質で一緒に食事を楽しむなんて芸当は難しい。
 「祥瓊や鈴とて、友人である以上に部下であったりするから……まあ、あまり多くを望む気は
  ないんだ」
 微苦笑を浮かべて、主上が軽々と腰を上げる。
 「行こうか。浩瀚。書類が溜まっているんだろう?」
 「お分かりですか」
 「それだけの紙束を抱えていれば、誰でも気が付くさ」
 屈託無く差し出してこられた掌の上、書類の束を乗せる。
 女王にしては驚くほど鍛えられているが、しなやかで、小さなお手だ。
 最高位についた、女性の手を幾人か見てきた。
 皆、今の女王よりも繊細で華奢な手をしておられたが、私が守りたいと願ったのは、現女王
だけ。
 生真面目で、今だ王という御位を飲んでかかれない風情も。
 己の外見を飾る事より、内面を充実させる術に懸命な様子も。
 何より国を思い、民の為。
 その御身すら省みない、無鉄砲なところですら。
 守りたい。
 「どうした浩瀚?」
 思案深気な私の表情を伺うように見上げてくる、澄んだ瞳が曇らぬよう。
 恋情にも似た優しさと激しさで。
 どうか、壊れないようにと。
 「いえ。何でもありませんよ」
 少しでも貴方が、安らげるように。
 長く、王であられるように。
 全力を尽くそうと。
 そう、思っている。





                                           END




  浩瀚&陽子
   書いてみたいなあ、18禁。
    いつでも浩瀚は陽子ラブ希望。
   もそっとまったり感が出したかったです




                                             メニューに戻る                                             
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