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 アニメ 鋼の錬金術師 

 マイナーカプ布教協会なんてものがあったら、名誉会長になれるかもしれないと思う今日
この頃。
 両想いで、ラブラブな二人を書いてみたいのですが、とっても嘘臭く見えて困りモノ。
 


 登場人物

 ロイ・マスタング大佐
 ……焔の錬金術師。
    基本的に大総統に関しては目まで笑える完璧な忠犬っぷりを見せて欲しいなあ、
    と思うのですよ。

 キング・ブラッドレイ大総統。
 ……軍を総べる最高責任者。でもって老いを知る唯一のホムンクルス。
    片目はどんなスピードも見切る最強の瞳を持ちます。憤怒のラース。


 屈辱の中でも垣間見える、大総統のささいなまでの優しさに、ロイたんがおぶおぶっと
うろたえる様を(苦笑)

 軍部30のお題にある『勝ち戦』の後にあたるお話です。


 

 剃刀
  
                                      
 「すまないね。秘書は連れてきていないから。本来なら君にやらせる仕事でもないのだが、私
  には信用できる人間が少ないからね」
 「……信用していただけて、光栄です」
 にっこりと、大総統にだけ向けるいつもと変わらぬ微笑を浮かべたまま。
 山と積まれた大量の手紙の封を切る。
 
 圧倒的な勝ち戦を終えた後。
 すぐに最前線から退くのかと思ったら、権力者の気まぐれか。
 しばらくここに残るといいやがる。
 アームストロング少佐が走り回って、戦場とは思えないほど居心地よく整えられた巨大なテン
トの中には、大総統と私だけ。
 大総統は、私に事務処理をさせながら、三人がけのゆったり設えてあるソファの上、ワイング
ラスを傾けている。
 勝利の美酒なら、戻ってからゆっくりやっていただけませんかねぇと、胸の中で悪態をつく。
 表情には、出さないように細心の注意を払いながら。

 さすがにペーパーナイフまでは揃えられなかったのはいいとして、鋏もカッターもないのは厳
しい。
 水に濡れないように、破損だけには留意してと厳重すぎる梱包を施された手紙や書類の入っ
た封筒は指先で開けるには、少々コツがいる。
 ヒューズが入れば、常備しているタガーを借りて楽に開けられるのに、と側にいない奴を責め
てみた。
 奴は今頃、先日の、大殺戮の名を欲しいままにした勝ち戦の後始末に東奔西走しているとこ
ろだろう。
 諜報部が活躍するのは何も、戦の前に水面下で行われる情報戦線だけではないのだから。
 封を切り、簡単に中身を読み、大総統が読む必要があるもの、自分が処理できるものを区分
けしてテーブルの上に並べてゆく。
 何十通の手紙を開封し終えただろうか。

 封を切るコツを覚えて、なかなかにスムーズに進むようになった矢先。
 「つっ!」
 さっくりと指を切った。
 まさか今時、剃刀入りの手紙なんて誰が送りつけてくると思う?
 勝利を挙げたとはいえ、まがりなりにも戦場に。
 まだ爆発物が仕掛けられている方が理解できる。
 全く呑気な話にもほどがある。
 「どうしたね?」
 何かを思案していた風だった大総統が、私の声に反応して寄って来る。
 「いえ……何でもありません」
 何だか剃刀レターにひっかかりました!なんてのも間抜けなので、私は血が滴る指先を隠そ
うと机の下に手を入れようとした。
 「嘘はいけないね?ロイ君」
 が、それは叶わずに、大総統は私の血塗れの手を取り上げる。
 「私の代わりに怪我をしたのだから、手当てぐらいさせなさい」
 出血がこれ以上酷くならないように心臓より上に手を上げさせておいて、きょろきょろと何かを
探す。
 「ああ!あった。あった。私はまず怪我なんかしないけれど。アームストロング君は、細やかな
  所に気がつく男だね」
 いそいそといった風情でテーブルの上に置かれたのは、医薬品が入った救急箱。
 ぱかっと留め金を外せば、ぎっしりと薬が詰まっていた。
 「まずは、血を拭いて……」
 てっきり箱に入っていた布で拭うのかとばかり思っていたのだが、大総統は事も有ろうに、私
の指をぱくりと口に銜えた。
 「閣下!」
 「ん?おや。普通じゃなかったかね。息子が怪我をした時はこうするんだが」
 「……汚いですよ」
 「君の血がかい?はは。それはないだろう。綺麗で健康そのものだ」
 血を嘗めただけで体の状態がわかるなんて貴方は、文献でしか見たことが無い吸血鬼です
か、との突っ込みは胸の中。
 ぬろりと、舌先が傷口を這う感触にざわっと産毛が逆立った。
 「染みるよ?」
 
 「つっつ」
 消毒液がよく染み込むようにと好意でやってくださったのだろうが、傷口を指先で開いて、肉
の断面が見える状態で消毒液が勢いも良く振り掛けられたのだ。
 幼い子供のようだと思っても、口から漏れた苦境を完全に噛み殺すことは出来なかった。
 「痛かったかね?すまないな。どうも私はこういったことが苦手でねぇ。息子にも、派手に
  泣かれてしまうのだよ」
 閣下の顔がアップになったと思ったら、目の端に唇が寄せられた。
 涙を舌先で拭いとられるに至っては、驚きを通り越して体が固まってしまった。
 息子さんと勘違いするには、私は大きすぎるだろうに。
 あの、残酷すぎる所業を笑顔のままにやってのける方とは思えない、不器用な優しさに、
心の片隅が揺らぐ。
 「包帯をした方がいいだろうか?」
 「……大袈裟すぎます」
 「では傷バンでいいのかね。んー。大きいのを使っておこう」
 正方形の大きなばんそうこうが無骨な手つきで剥がされて、私の指先を丁寧に包み込む。
 「これでどうだろう?何となく皺が寄っている気がするのだが……」
 「十分です!閣下のお手を煩わせてしまって申し訳ありませんでした」
 「……違うなあ、ロイ君」
 「はい?」
 何が違うのかわからなくて、首を傾げる。
 閣下がにっこりと笑われて、もしかして?と疑問符を浮かべながらも上目遣い。
 「ありがとうございました……?」
 と囁けば。
 「そうそう。そちらの方が良い」
 ぽんぽんと頭を軽く叩かれた日には、開いた口もふさがらない気分だ。
 「でも、あれだね、ロイ君」
 「はい?」
 まじまじとばんそうこうが張られた指を眺めながらの生返事をした私を咎めもせずに。
 「君はあまり人前で泣かない方がいいね」
 「はあ?」
 「ただでさえ、幼い顔が更に幼く見えるよ」
 「……」
 もう、駄目だ。
 今日はきっと厄日だ。
 うん。
 私は、貴方の子供ではないんです。
 余計なお世話なんだあ!と、相手がヒューズだったら蹴り飛ばしてやるのに。
 「ロイ君?」
 「……気をつけます」
 「うん。そうしなさい。泣きたくなったら、私の前だけにしておきなさいね?」
 だーかーらー!
 どうしてそうなるんですか!と言うツッコミを入れたいのをぐっと堪えて。
 「善処します」
 自分でも、どんな顔をしていいか分からず、複雑な顔になってしまったのだが。
 目の端で盗み見た閣下の表情は、見たことも無いような楽しげな風情を浮かべていた。




                                     END

                          


 *ブラロイ。
  天然ブラッドレイに振り回されるロイたんを書きたかったのです。
  このカプはどうにも重くなりがちなので、軽く軽くと囁きながら書きました。
  気に入ったモノに関してはとことん甘やかす閣下が好きです。
  そしてラスト姉さん辺りに『ラースったら、本当、人間みたいよ?』とか言わせたい。
  ホムンクルス達がロイを語るなんてー話も書きたいですね。
  そして閣下に『駄目ですよ。兄様、姉様。彼は私だけのものですから』とか言わせたい。
  ドリーム♪




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