「はかなき軌道」

 

 

 

 

 

 それからの私はその「儚さ」にひかれてゆく。役目を終えた物が残り続けることの難しさ、残っていることの奇跡を感じるようになる。それが残ることの意味さえ感じてしまい、そのものが持つ力に魅了される。

 

 

 

 

 

 

 

 朽ちた物、それは見る人によってはただの汚いゴミでしかない。しかし風化に伴う汚れの中に、相対する「美」を見つけることも事実だ。

 

 

 

 

 

 

 そんな奇異な光景を見つけることが今は何より楽しい。平成に残る奇跡は、儚く、貴重だ。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな奇跡を写真で掻き集める作業は、名もない河原で砂金を探す所作にも似ている。わずかなことに一喜一憂し、大方の人からは認めてはもらえない。そんな趣味に魅せられた自分がおかしくてたまらない。

 

 

 

 

 

 

 

 名も無き軌道も含めて、かつて数多くの軌道がこの国には存在した。多くの乗客の人生悲喜こもごもを運んだ鉄道へ思いを馳せる。使命を終えた鉄道の跡をたどる旅は虚しく、意味がない所作に思える。しかしそれをやめられずにいる自分は何なのだろう。わびさびにも通じる情感を、あるいは人生にも似た運命のいたずらに翻弄される会社経営を見つめながら、手の届かない過去へ思いは募る。掻き集めても掻き集めても、満たされることのない思いは、尽きることのない欲望が尽きることなく私を動かす。私の何もない旅は、きっと自問自答して過ぎていくのだろう。いまさら答えを急ぐことはない。

 

 

 

(2010年4月記)

 

 

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