「仁義がすたれてきています」

 

 先日個人所有の保存車を撮影したくて、交渉したときのこと。所有者のご家族に対して、「迎えに来い」とか「障害物をどけてくれ」などと、まったく信じられないことをする同好者が存在することを聞かされ、少なからずショックと憤りを感じました。

 JRの撮影会などでは、機関車の前に立つ家族連れやアップを狙うファンに対し、罵声を浴びせるのを楽しみにしている輩が居て、誠に嫌なものでした。

 鉄道部品の窃盗マニアとともに、こうした問題を目の当たりにすると、私の作成するホームページなども含めて、情報公開ということの是非を考えさせられます。私はごく狭い仲間内で情報を回していることに、何か心の狭さを感じておりました。そしてこのホームページを作成しました。しかし、虫のいいことには自分のお気に入りの所に関しては、やはり安易に情報を公開しないことも事実であります。それは前述のような心ない同好者に、すべてを壊されたくないという心配からの何物でもありません。そのような常識をわきまえない人たちがここでこの文章を読んでくれるとは思えませんが、自分だけ良ければいいとする考えだけは注意したいものです。

 当ページにも開設以降、保存車の詳細についてのメールがたびたび送られてきます。内容によってその方の思いとかが汲み取れない場合には、情報の公開を躊躇することもしばしばあります。本来インターネットがそのような性格のものであるから、仕方ないこともありますが、やはりその方とのコミュニケーションの中で信頼が生まれ、貴重な情報が生きて回り出すと考えます。趣味は自分の価値を上げる大切なものでありますが、熱心なあまり閉鎖的あるいは一方的になってしまうと、「おたく」などと総称され、暗く一般的に敬遠される趣味となってしまいます。鉄道ファンにはとかくこの手の人が多いため、私などはよく「ウェ!」と敬遠されたりします。悲しいことですが、自分も含めて皆わがままの固まりなのかも知れません。

 廃線を目前に控え、谷汲線でのファンの暴走が掲示板で問題になっています。線路に近づきすぎ列車を止めてしまったり、車を常識はずれの所に駐車して路線バスが通れなくなってしまったなんて事を目撃しました。畑に入り込んでしまう人も問題になっています。上信電鉄の下仁田付近でのこと、名産のこんにゃく畑があり、土盛り部分を踏まなければ問題ないと思っていた私ですが、こんにゃく芋はその土盛りの両脇に埋まっているそうで、踏むとだめになってしまうと注意されたことがあります。先日は、注意された者が、「大したことではない」と逆にくってかかるなんて事もありました。本当に我々はわがままなんですよね。

 根府川の鉄橋が赤くなったのは、撮影に来たファンがミカン畑の木を勝手に折り、みかん畑の実を勝手に食べたことから、JRへの苦情が高まったための対応策であったと聞きます。我々は自らのわがままで、名撮影地をつぶしたのです。

 野上電鉄が廃線の頃、ファンに対しては職員の方がとても心を閉ざしていたのを思い出します。車内撮影禁止。構内立ち入り不可。関わり合いたくないという感じでした。谷汲線でも同じ空気を感じるようになってきました。こちらが礼を尽くしても、職員の方の対応が冷たくなってきました。「関わっていられない」そんな感じです。「無理もないかな」と思いつつ、「それはないだろう」と思うこともしばしばあります。心に苦いしこりを残して消えていく大好きだった路線。それは誠に不幸な想い出です。

 我々はこれからも自らのために、わがままでいることでしょう。しかし、心の片隅に最低のマナーだけは刻んでおきたいものです。そして後から行く者が撮れないなんて事が起きないよう、自分だけ良ければという考え方を戒めながら行動したいものです。

 

(2001-5記)

 

 

 

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