いま思い出しても、夢のような光景だったと思う。国鉄の現役蒸機の撮れなかった自分にとって、ここは小型であるけれども、唯一現役の蒸機に出会えた場所であった。
国鉄の貨物ヤードに隣接した、東洋活性白土の積み卸し場。駅からは結構離れていて、とぼとぼ歩いてここへ来る。協三工業製の愛らしい2号機がタンク車1両つけて、待機していた。
訪問はまだ残雪残る3月だったか。出発した蒸機は、物足りないくらいに静かに、そして黙々と、本日の作業をこなしていた。国鉄特急との絡みを期待したが、ヤードの貨車が入るのみであった。
このあと道路を渡ると、もう工場の敷地だ。とてもレトロで小綺麗な建物と、広々した敷地に軌道は張り巡らされていた。思えばその終端隅々まで記録しておけばよかった。
まだ、ポプラの木も葉が出ておらず、天気もあって寒々としたところで、2号機は給水していた。この風景を前にして、フイルム節約でカットを抑えた時代がうとましい。今なら心ゆくまで記録できるものを・・・。
人間というものは不思議なもので、失ってから見えてくるものが沢山ある。ひょっとして、この「今」でも見逃していることはあるんじゃないか。そう注意し出したら、思いのほかいろんなことが見えはじめた。