水口建設資材運搬線

 

 

 思えば「知られざるナローたち」という書籍によってこの線の存在を知りました。私のバイブルとでもいうべきこの本のすごい所は、当時の現役路線を出し惜しみすることなく紹介してくれたことで、そのおかげで私は余命いくばくもないナローたちに会えたのでありました。

 立山砂防といいこのページを開いたときの衝撃はかなりのものでありました。この水口資材についても自動車改造のガソリンカーなんてものが今時残っていてくれたのかと、すぐさま飛んで行きたい気分でした。しかし文中に所在地は記載されていませんでした。わたしは日本地図を引っ張り出し「水口」という名前を地名と仮定して日本全土をくまなく探しました。すると滋賀県に水口という地名を見つけたのです。ここにガソリンカーがいるのか・・・?不安なままもっと確実さがないと、なけなしの小遣いははたけません。私は思い切って出版社へ手紙を書いてみることにしました。数週間後、回答の手紙が帰ってきました。場所は滋賀ではなく富山の山中でした。私は早速、夏休みを待って富山を目指しました。

 駅をおり地図を頼りに歩きます。工事用トラックぐらいしか通らない熱いアスファルトをもくもくと歩きます。途中から通りすぎてしまいそうな小道を折れ、索道に沿って急な階段を上ります。気の遠くなるような高さの階段。索道の資材がゆっくり登っていくのを横目でうらやましく見ながら、息を切らして登り詰めると小さく開けたところにトラックと作業者が2人。「あの・・・トロッコがあるって聞いてきたんですけど・・・。」おそるおそる怖そうなおじさんに訪ねると、口数少なく「乗れ」の合図、恐縮して荷台に乗り込むとトラックは軌道跡の細い道をものすごい早さで駆け抜けます、「こっ怖え〜!!!」下手すりゃ谷底へダイブです。しかし、そんな怖さも到着した先にあったガソリンカーを見てしまえば何処へやら。トラックの荷物を積んですぐ発車です。おそいおそい、人が早足で歩くくらい、それが一生懸命、森林鉄道でかつて使われた軌道跡を走っている。もう嬉しくってうれしくて!

「ガッタン!!!」 

 ちょっとした衝撃の後、なぜか列車は止まってしまいました。おじさんは「ちっ!」と言って機関車の足周りを見ています。のぞいてみると、ありゃ、脱線しております。まだほとんど撮ってないのに今日の撮影は無理なのか?そんな不安をよそにおじさんは線路脇のちょうど良い丸太引っ張り出します。てこの原理でよっこらしょ!いとも簡単に列車は本線復帰。どうやら多発地帯のようです。今まで知っていた鉄道で「脱線」なんていったら大変なことだったのに、ここでは良くあることだなんて、私はこのときナローの面白さを心底感じ、写真を撮っては追っかけ、疲れてはトロッコに乗ったりして、数時間を過ごしたのでした。

 昼休み機関車も止まってしまいます。小さな発電所の建設のためと聞いていましたが、意外に多くの人がいるようです。みんな見慣れない訪問者である私をちらちらと意識しております。当時私は高校生だったんでが、あらためて考えるとずいぶん時が経っていました。記憶もいいかげんになってきているのですが、運転手のおじさんは外見に似合わず優しい人で、自分が追っかけて疲れてくると湧き水のところで止めてくれたりしてくれ、この辺の水がまた格別にうまかったことははっきりと覚えています。いよいよ帰るというときも、トラックでもと来た場所まで送ってくれました。

                

 

 結局、私の訪問はこの時きりとなるのですが、この線のその後を私は知りません。まさか今も動いているとは思えませんが、その後を知っている方がいらっしゃいましたら、是非お教えください。

 

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