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  2001年11月24日 朝刊 5面
社説/泡瀬干潟埋め立て/住民投票は時代の要請/冷静に事業の再点検を

 豊かな自然環境に少なからず影響を与えても、国際的な観光リゾートの拠点づくりを推し進めるか。それとも、失われた自然を取り戻すことが容易でないことを再認識し、埋め立て事業の見直しを求めていくか。
 岐路に立つ沖縄市の中城湾港泡瀬地区(東部海浜)開発プロジェクトをめぐり、市民が選択を迫られている。埋め立て推進派、見直し派に分かれて署名活動や決起大会を繰り広げ、感情論も飛び交う様相だが、ここは一度立ち止まり、市民にとってどちらがベスト、あるいはベターな選択なのか、冷静に考える姿勢を求めたい。
 市民一人ひとりが冷静に考えるには、さまざまな論点を、正しく判断するための資料やデータが必要だ。この埋め立てプロジェクトは、計画された二十年前から行政当局による情報開示が十分だったか、というと腕組みせざるを得ない。
 少なくとも埋め立て承認(昨年十二月)が下りるまで、行政当局による説明会らしい説明会は、ほとんど設定されなかった。国、県、沖縄市ともに説明責任を果たしたとは言い難く、このことが問題をこじらせる一因にもなった。

自然と共生の開発とは

 この機会に、中立的な第三者機関を設置し、経済的な波及効果はどうか、どの程度の雇用創出につながるのか、環境アセスメントは万全か、干潟は保全できるのか―など、疑問点を項目別に整理し、市民に判断を仰ぐ手法もある。
 干潟の保全に関して、推進派は主に「埋め立ては約二百b沖合に展開する出島方式でやる。それだと干潟は約82%残るし、人工干潟や野鳥園も整備される」とし、自然環境と共生する開発を強調する。
 これに対し、見直し派は「干潟の消失が五分の一で済んでも、残された干潟に影響し、生態系が変わる。そうすれば住民生活にも影響が出てくる」と反論、環境破壊が必至であることを説く。
 経済効果では、推進派が「中部圏全体の経済活性化につながり、雇用の場が確保できる」と主張するのに対し、見直し派は「土地売却が進まず、市民負担が増えるだけ。地元への恩恵も少ない」と指摘する。
 市民はこうした比較、相違点を冷静に分析し、多角的な視点から選択肢を決めればいい。そして、地域全体として、最終的にどの道に進むかは、住民投票にゆだねるのが最良だと考える。
 沖縄市では来年四月に市長選が予定されているが、市長選は多くの課題、争点を抱える。もちろん干潟埋め立ての是非も大きな争点になるだろうが、一つのテーマに絞って民意を問うには住民投票が一番分かりやすいし、結果を受けての対応も取りやすい。
 住民投票については、推進派から「市議会は過去三回、事業推進を全会一致で可決した。いまさら反対では、決議は無駄だったということになる」との指摘がある。しかし、この間、バブル経済が崩壊して県内も経済情勢が一転した。変化に応じて再度、判断を仰ぐことは「無駄」ではないだろう。
 一方、見直し派も、単に環境問題をただすだけでなく、経済の活性化をどう図るのか、具体的なビジョンを示してもらいたい。

基地の島の縮図

 今回の問題は、基地の島・沖縄の縮図ともいえる。各市町村は多くの土地を米軍基地に取られ、中心市街地や工業地帯、住宅地域など各種拠点の形成に頭を痛めている。都市計画もいびつになり、振興発展がままならない状況だ。
 沖縄市にしても、嘉手納飛行場、嘉手納弾薬庫などに市域の多くを取られ、地域振興の拠点を海浜部に求めた形だ。埋め立て計画地の対岸には広大な米軍泡瀬通信施設があり、そこを返還してもらって跡地を活用すれば、何も海浜を埋め立てなくてもいいのに、と思っている市民もいるだろう。
 いずれにしても、住民投票は「時代の要請」になりつつある。
 今月中旬、三重県海山町で行われた原発誘致の是非を問う住民投票は電力会社が候補地を決める前に実施するという全国初のケースだった。投票が誘致賛成派の主導で実施された点でも、注目された。結果は誘致に反対する票が、賛成票を上回ったが、住民投票の広がり、多様化をうかがわせた。
 泡瀬干潟埋め立ての是非についてもこの際、住民投票で民意を問う方がいい。その方が、埋め立てをするにしても、中止するにしても、住民の間にしこりが残りにくいし、賛否両派とも納得せざるを得ないだろう。何よりも投票は、自分たちの街の将来を、市民一人ひとりがあらためて考える契機になる。
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