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  2000年 8月11日 朝刊 5面
論壇/だれのための埋め立てか/沖縄市の泡瀬埋立事業に注目を/糸数慶子

 海を埋め立てる場合、その許認可権は、県知事にあります。国が埋め立てをする場合も、県知事へ埋立承認申請を行います。今までは、申請を受けた県では、県内部で検討するとともに、環境庁からの意見も聴いて、環境面では二重にチェックできるシステムとなっていました。
 しかし、四月の地方分権一括法の施行で、国が事業主体の場合は、国への承認を求めるという通知が廃止されました。このため、八月一日の朝日新聞では「環境庁チェック消滅」という一面トップの見出しで報道されました。
 この新しい仕組みでの全国第一号となるのは、沖縄市泡瀬地区の埋め立てです。この埋め立ては、百八十五fで、ほぼ津堅島の大きさに匹敵し、約四百八十七億円の税金が注ぎ込まれ、中城湾港工事の土地処分場として優良なモズク養殖場や良好な自然環境を示す藻場を埋め立てようとしています。この土地にリゾートホテルや栽培漁場施設を建設する計画はありますが、土地利用者や事業主体が未定のまま事業が開始されようとしています。
 特に、この埋立事業で問題になる点は、計画段階で市民や専門家がほとんど参加することなく計画が進められたこと。局所的な環境アセスメントを行い、北中城村等の広く中城湾を利用する漁場者を無視し、影響は軽微と論じ、アーサ等の減収対策や水質汚濁防止対策への記述がほとんど無いこと。
 泡瀬の干潟を中心として、生活を自立させている沖縄市のモズクや刺し網漁業者や、何の補償も得られない北中城村のアーサ養殖の漁業者等、経済振興のためと言っても、地域で自立している人々の生活を奪って、だれのための事業推進なのでしょうか。
 さらに、リゾートホテル開発や事業主体未定のまま、何十億円の投資を必要とする栽培漁場や海洋研究施設の整備という無謀な土地利用計画となっています。水産当局で三年近くもうまくいかない藻場移植が、どうして港湾当局の一年程度の調査でうまくいくと言えるのでしょうか。行政間の連携はどうなっているのでしょうか。
 この優良干潟を土砂処分場と化す埋立事業は、県のみのチェックとなり、国の事業となれば開発側の自由に埋め立てが進められるのではないでしょうか。環境庁のチェックがあっても、沖縄中の干潟はどんどん埋め立てられ、今後、さらに加速しかねません。その延長線上に辺野古のヘリポート建設があり、県民の知らない間に計画が進行し、いつの間にか認可され、ヘリポートが建設されていたという国の筋書きが見え隠れします。
 この状況を心配し、沖縄環境ネットワークや泡瀬の干潟で遊ぶ会等の県内九つの市民グループが問題提起をし、他の都道府県では、各種公共事業の大幅な見直しが進む中にあっても、県の対応は「既に環境アセスも終了しているので変更は無理」とか「うちの部局では判断できない」など、誠意もなく、及び腰そのものの対応でした。
 今後、県民がこの泡瀬の埋立問題を注視し、計画変更も含めて大いに議論する必要があると、私は思います。
(県議会議員)
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