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  視覚的支援って何?


悠くんコミュニケーションに写真カードを使っています。
悠くんのカードは、悠くんのコミュニケーションを支援するものですから、悠くんにとっては大切な言葉の代わりです。(^^)
どういった形でコミュニケーションを支援するかは、それぞれ違ってくると思います。悠くんのカードは悠くんにあわせて支援してきた結果、カードになったというだけです。

写真や絵のカード、というと必ず「写真や絵で物の名前や言葉を覚えさせる」というふうに誤解されてしまいます。でも、悠くんが使っている写真などのカードは、「本人が思いを伝えること、また本人が理解するのを視覚的に支援する。」ものです。
悠くんのコミュニケーションを支援し、悠くんのコミュニケーションを取りたいと言う気持ちを育てるものです。

私たちが、始めての海外旅行に行くとき、言葉がわからないので、よく使いそうな文章を手帳に書きとめておいて、使うときにはその手帳を見ながら会話をしたりしますよね。
それと同じことだと思います。
支援することで相手に伝わる、相手の伝えようとしていることがよく解る、こういった経験を積み重ねんことで、伝えたい知りたいという気持ち(コミュニケーションマインド)を育てていくのだと思っています。

悠くんと耳からではなく、視覚から情報のやり取りするようになって、ただ「見せる」だけではなかったんだということに気がつきました。
悠くん、自閉症ですから、過去の体験を手がかりに行動します。どういう意味かというと、
例えば、悠くんが「保育所に行きたい」と思ったとします。保育所に行くには、いつも通っている保育所への道を通る事で「保育所へ行く」ということを理解します。その道を通って保育所にたどり着くものと思い込んでいます。ということは、いつもと違う道を通ると、保育所には行けないものと思ってしまいます。たとえ、保育所の黄色いカバンを持っていたとしても、悠くんは過去の体験からの情報を優先させます。
サリーは、「保育所の黄色いカバンを持っているのだから、保育所に行くに決まっているでしょ」と思っています。保育所のカバンを見せたとしても、悠くんは、今目の前に示されたもの(保育所のカバン)が今からすることを伝えてくれているということが解りません。それがサリーと悠くんとのずれです。このずれを理解していなかったサリーは、伝えているのになぜ解らないのだろう・・・と思ってしまいます。
「情報を見せて伝えたら解る」・・・そんなに簡単なことではなかったということに気付きました。

視覚的支援の意味を悠くんが理解してくれるのには時間がかかりました。
当然ですね。今まで数年生きてきて、その間に身につけてきた情報収集手段(過去の体験に頼る)をそんなに簡単には手放してくれません。
情報を視覚から伝えても、それが自分のこれからの行動にどう影響するのかが理解できていません。こちらから伝える視覚情報が、何を意味するのかということを悠くんが理解してくれるのに2年ぐらいかかっています。
行き先を示すものを見せて、悠くんが「○○に行くのかな」と伝わったとしても、悠くんは、歩き始めるとすぐに今までの情報収集手段を優先させます。道が変わると不安になり、「本当に○○に行くのか?」と聞いてきます。

悠くんに、過去の体験ではなく、サリーが示す視覚情報を頼りにしてもらうのに、本当に時間がかかりました。悠くんが必要としている情報をすべて視覚的に提示して、やっと悠くんが視覚情報を信用してくれたように思います。
悠くんが過去の体験よりもサリーが提示する視覚情報を手がかりにするようになるのには、視覚情報として提示されているカードの意味を理解するということだけではなく、この情報は信用できるものと悠くんが実感して、この情報に頼ればいいんだとわかってくれましたということだと思います。
こういったことで、悠くんが視覚情報を信用し、今までの情報収集手段(過去の体験に頼る)から、周囲の人たちが提示する視覚情報からの情報収集を頼るようになったとだと思います。

対人関係の障害とは、こういうことなのか・・・と思います。
信頼関係ですね。
対人関係障害があるので、人とのやり取りをしません。もちろん、人からの情報すら手がかりにしません。人と情報のやり取りが出来るということにすら気がついていませんでした。
コミュニケーションの存在に気がついて、コミュニケーションの力が育ってきてから、人とやり取りをすることで情報交換がされているということに、悠くんがやっと気がついてくれました。
「視覚的支援を理解する」には、コミュニケーションの障害だけでなく、対人関係の障害も深く関係しているように思います。





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